DU BOOKSより書籍『「スーパーマリオブラザーズ」の音楽革命』が2023年7月7日に発売された。本書はそのタイトル通り、誰もが知る「スーパーマリオブラザーズ」のゲーム内で流れるBGMについて、いかに音楽作品として優れているかを徹底的に分析・考察し、その偉大さを伝える1冊となっている。

映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が驚異的なヒットを記録している2023年。改めて、マリオの音楽に真剣に耳を傾ける上で欠かせない本書について、ライターのノイ村に書評を寄せてもらった。 *Mikiki編集部

アンドリュー・シャルトマン, 樋口武志 『「スーパーマリオブラザーズ」の音楽革命 近藤浩治の音楽的冒険の技法と背景』 DU BOOKS(2023)

 

なぜ「マリオ」の音楽は記憶に深く刻まれるのか

2023年4月、米国議会図書館は、将来にわたって保存すべき米国の録音資料を登録する全米録音資料登録簿に、ジョン・レノン“Imagine”、マドンナ“Like A Virgin”といった音楽史に残る名曲と併せて、近藤浩治作曲の「スーパーマリオブラザーズ」のテーマ曲(通称“地上BGM”)が追加された。ビデオゲームのサウンドトラック、いわゆる〈ゲーム音楽〉として登録されるのは史上初の快挙である。

今から約40年ほど前、軽快にジャンプするドット絵のキャラクターとともに鳴り響いた〈バ・ダン・バン・バ・ダン・バン、バン!〉という景気の良いメロディーは、まさに前述の名曲群と同様に世代を超え、普遍的な存在として2023年現在も愛され続けている。最も有名なゲーム音楽といっても過言ではなく、この選出に異議を唱える人はほとんどいないだろう。

では、『「スーパーマリオブラザーズ」の音楽革命』の著者であるアンドリュー・シャルトマンが唱える、「『スーパーマリオブラザーズ』の音楽は、二十世紀のいかなる偉大な音楽アルバムと比べても同じくらい重要なものであり、文化的にも音楽的にも同じくらい豊かなものである」という考えについてはどうだろうか? おそらく、そこまでの表現は過大評価だと首を傾げる人もいることだろう。だが、かの有名な英ブルームズベリー・アカデミック社〈33 1/3〉シリーズ(ポピュラー音楽について深く掘り下げる同社の書籍シリーズ)の1冊として執筆された本書は、その考えに納得してもらうべく、「スーパーマリオブラザーズ」を1つの〈音楽アルバム〉として捉え、評論を試みた、大胆かつ画期的な書籍である。

本書において重要なのは、「マリオ」の音楽が人々の記憶に深く刻み込まれているのは、それが楽曲単体ではなく、〈「スーパーマリオブラザーズ」という体験〉そのものに起因するという立場を取っている点だ(そのために本書の前半は、かのアタリショックを中心とした「マリオ」以前のビデオゲームの歴史を辿ることに注力している)。だからこそ、その音楽的論考の多くは、近藤の曲作りに対する哲学でもある「音とゲーム内の状況とプレイヤーが一体となった強い結びつき」がどのように作り上げられているのかを主題に進められていく。つまり、なぜ私たちは“地上BGM”の〈バ・ダン・バン・バ・ダン・バン、バン!〉というメロディーを聴いた時に、〈World 1-1〉の景色や、ドット絵のマリオがジャンプする姿を想起するのかということだ。

※77年に米国で発売されたアタリ社の家庭用テレビゲーム機〈Atari VCS〉が爆発的なブームを巻き起こした一方、ゲームソフトの粗製乱造により82年の年末商戦でマーケットが急速に縮小していったことに起因する、北米家庭用ゲーム市場の崩壊を指す一連の状況