「〈我は泥臭い〉っていう意味でGADOROにしたって周りには言ってるっすけど、実際はそんなこと全然なくて、ただの語呂で。急に思いついたっすね、ホントに」――みずからのMCネームについてこう話してくれたGADORO。彼がラッパーとなった何よりのきっかけは、高校時代に聴いた般若の“オレ達の大和”(2005年)だそう。小・中・高と野球を続けるも、チームプレイが苦手で「ここぞっていう時に打てない奴」。そして学校を出て仕事に就いても「1年もったことがない」と話す彼にとって、ラップが心底打ち込むことのできる唯一のものとなるまで時間はかからなかった。

 「俺がマジになるのってラップしかないなってホントに思います。よくラッパーで〈俺にはラップしかない〉って言う人おるけど、〈ウソつけ、俺のほうがラップしかねえわ。(他の)仕事できるやろ、お前〉っていう。それぐらい俺は仕事しない、プラスできない奴なんで」。

 自身初のステージとなった2013年の〈ULTIMATE MC BATTLE〉以降、MCバトルで見事な戦績を残していくなかで始まったライヴ活動を通じ、当初は「メッセージ性はまったく気にしてなかった」という曲作りに対するマインドにも変化が。〈伝わる歌詞〉を書くことに心を砕くようになったGADOROは、初作『四畳半』(2017年)に続き、今回リリースされるセカンド・アルバムでもそれを形にした。前回を軽く超える内容をめざしたという本作のタイトルは『花水木』。この表題は、GADOROが今なお住む地元・宮崎の高鍋町で彼の母が10年営むスナックの名前から取られている。

GADORO 花水木 SUNART(2017)

 「ファースト・アルバムはどっちかっていうと自分語りっていうか、孤独で結構暗いアルバムで、ちょっと落ちぶれた自分をさらけ出す音楽をやって。そのハングリーさはずっと持っちょきたいんで、〈まだ負けたくない〉〈勝ち続けたい〉〈何歳になってもいい意味で丸くなりたくない〉っていう曲を入れつつ、今回はいろんな人への感謝とか、自分の弱い部分とかを素っ裸でさらけ出してて。だからホント、裸の音楽、裸のアルバムだと思うっす」。

 DJ SOULJAHの勇ましいトラックに、〈ギドラ ブッダ 雷 ペイジャー~俺が狂ったのは誰のせいでもねえ〉と“最ッ低のMC”(2009年)の般若のリリックを真逆にもじったサビを乗せる“M.Y.T.K. TRIBE part2”に始まり、MCバトルの優勝で勝ち取ったdj hondaのドラマティックなビート上で底辺から頂点に向かうガッツを滲ませる“KUSONEET DREAMS”や、MASS-HOLEのタフなサウンドに、飼い馴らされることのないマインドで牙を剥く“BLACK SHEEP”。あるいは、本作全体のミックスも手掛けたDJ PMXのスマートな音に表情を崩さず〈言葉は尖らずしてこそ刺さる〉というフックを放つ“光と崖”……と続く『花水木』にあり、〈何億分の1かのハズれクジ〉と自嘲しつつ両親に感謝を宛てた“背中”や、かつて両親に代わって幼い彼の面倒を見た亡き祖母への思慕にラップが高ぶる“カタツムリ”は、とりわけ当人の思い入れが強い曲に。そこに加え、ここではMCバトルでも勝負を繰り広げた輪入道の客演も実現。その“真っ黒い太陽”は、録音こそ別ながら、過ちや懺悔を歌うヴァースの最後を互いに宛てたラインで締める掛け合いに、彼自身鳥肌が立ったという。〈戦うステージはバトルだけじゃない〉という思いも込めた同曲さながら、「身を削った100%のリリック」を全編に詰めたという今回の制作を経て、彼はさらに語る。

 「偉人の名言には〈お前、偉人やからそれ言えるっちゃろ〉っていうのがある。俺はむしろ凡人以下なりの名言、俺にしか書けない言葉を残したい。ずっと自分をさらけ出していきたいし、比喩表現や言い回しでうまく伝える、そういう歌詞のおもしろさを知ってほしいです」。

 


GADORO

90年生まれ、宮崎県児湯郡高鍋町出身のMC。2013年の〈ULTIMATE MC BATTLE〉の宮崎予選が初のステージ。その後、数多くのMCバトル大会における戦績で知名度を上げ、直近では2016年の〈戦極MCバトル 第15章 本選 Japan Tour Final〉や、2017年1月の〈KING OF KINGS 2016 GRAND CHAMPIONSHIP〉で優勝を飾る。同月にはファースト・アルバム『四畳半』を発表。4月には東京・渋谷WWWにおいて初のワンマン・ライヴを開催し、8月にはZEEBRAが主催するヒップホップ・フェス〈SUMMER BOMB 2017〉へ出演。ライヴ活動も活発化するなか、このたびニュー・アルバム『花水木』(SUNART)をリリースしたばかり。