〈オール・メロディ〉という名の新世界が広がる4年ぶり新作
ニルス・フラームと言えば、ポスト・クラシカルの黎明期よりオーラヴル・アルナルズらと共にシーンを牽引して来た最も重要なアーティストの1人だ。彼が最初に世に放ったアルバムは同じくシーン重要人物のピーター・ブロデリックがプロデュースをしたピアノアルバムであった。その後リリースした『WinterMusik』では独特なマイキングを施したレコーディングにより空間の音響構成も作品に取り込んだ。『Felt』ではピアノの弦をフェルトで覆い、そこから生まれる微かなノイズや、丸みを帯びた音により、アコースティックの中に音響的な聴き方を提示してみせた。そして2013年に発表した『Spaces』ではピアノ、ローズ、アナログシンセを用い、ライヴ音源のコラージュを行い、ライヴとスタジオ録音の垣根を破る様な独創的音像を描き、またもリスナーに驚きをもって迎えられた。
この度ニルス・フラームがErased Tapes(ペンギン・カフェ新作のリリースでも大きな話題となった)より4年振りのソロアルバムを発表する。ピアノ、シンセサイザー、トランペット、パイプオルガン、ストリングスなどと共にエレクトロニクスのビート、声楽の大幅導入が今回大きな特徴となっている。声楽による印象的な旋法によるメロディに幕を開け、そのまま次の楽曲にフェイドインするが、突如4つ打ちのビートが現れるなど、全く予測が付かない楽曲展開を見せていく。
表題曲“All Melody”はゼロ年代IDMをオマージュしたかの様な楽曲で、このトラックからも次の曲に地続きで流れていく。さらにその次の“Momentum”でも同様のリフが現れ、時間と記憶を配置する上で非常に独創的な構成を見せる。そして『Felt』などで聴けたソロピアノ作品がインターリュードの様にアルバムに物語性と立体感を加えている。ベルリンに新たにスタジオが完成したことで、より自身の音楽の具現化に理想的な環境が整い、これまでの作品には見られなかった様な複雑なテクスチャーと溢れ出るアイデア、それをまとめ上げるプロデュース能力を遺憾なく発揮した、意欲作を届けてくれた。