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――続きまして『4』のお話に入りますが……。

桜井「ここからは、僕は何も言えない」

――ということは、石井さんと研次郎さんが主導なんですか?

石井&村井「(口々に)主導ではないです(笑)」

桜井「それもね、そもそもは『3』を作ってたじゃないですか。で、僕が二人に泣き言LINEを送ったんですよ。僕、ジャケもやって、曲に関してもいろいろな方とやり取りしていて、そこへさらに『4』では林さんと吉田さん、基本やり取りしたことのない方にアレンジをお願いして、進めていくのは無理だから、すいませんが『3』は責任持って全部やるから、『4』はお願いできないですか?って。ただそれが、のちに大変な悲劇を生むんですよね(笑)」

石井「悲劇生んだね(笑)」

村井「曲がかぶっちゃったんですよ」

――選んだ曲が?

石井「選んだ曲は違うんですけど、俺がアレンジャーの人にmp3で音源を送るとき、曲名を間違って付けちゃったんですよ。それぞれの人に別の曲を渡さなきゃいけないのに、それで1曲同じやつがいってしまったんです。だから“誘蛾燈”だけ2ヴァージョンあるんですよ。実際、レコーディングもしてて」

――『4』に収録されているのは林さんのアレンジですから、では、吉田さんアレンジの“誘蛾燈”もあるってことですね。

石井「そうですね」

――そちらもいつか発表できるといいですね。

村井「演奏がすごかったですよね」

桜井「ギターとかフュージョンだったんで」

――林さんアレンジの“誘蛾燈”は、途轍もなくアヴァンギャルドなタンゴ・ジャズで。

桜井「かっこいいですよね」

――これを林さんにお願いしたのは?

村井「僕が林さんの担当です。石井さんが吉田さんの担当で」

――このアレンジはお任せで?

村井「そうです、僕は単に連絡係だったんで。で、林さんに“誘蛾燈”と、“君が咲く山”と、“月光ドライブ”の3曲を渡して、〈ジャズっぽくしてくれってメンバーが言ってます〉って伝えたら、〈ジャズって言ってもいろいろありますけど、僕なりに解釈してもいいですか?〉って返事がきたから、〈どうぞどうぞ〉って。“誘蛾燈”はタンゴっぽいものになります、“月光ドライブ”はちょっとフュージョンっぽいものになります、“君が咲く山”は僕のピアノ・ソロみたいなのでやります、ってことだったから、お任せしたらああなったっていう」

――相当なインパクトですけど、上がってきたものを聴いていかがでした?

村井「僕、上がってきたものはほぼ聴いてないんですよ。吉田さんはデモ作りが上手な人で完璧なデモが仕上がってきてたんですけど、林さんの場合はアレンジが紙の上にあるんですよね。アレンジ譜みたいなのがバーッと送られてきて、これです、って。軽いデモはあったんですけど、それを聴いてもよくわからないんですよ。音源はあくまで参考なので、当日のレコーディングを楽しみにしてください、みたいな感じでした。すべては譜面の中です、みたいな」

――では、レコーディング当日も林さんが主導だったんですね。

村井「主導です。僕はベースを弾いてただけです」

――その場で合わせていくみたいな感じですか?

村井「その場でアドリブで、ジャズマンたちがグワーッて」

石井「cali≠gariのメンバーの意見はひとつもないですよ」

村井「とりあえず譜面通りに弾いててください、ってことで、はい、って」

――バンド・メンバーはどういう方々なんですか?

村井「全員、林さんが連れてきた方々です。ドラムはトモ・菅野さん。ギターが田中庸介さんで、アコーディオンが佐藤芳明さん。あとはバリトン・サックスで鈴木広志さん。ヴィブラフォンは相川瞳さんで、ヴァイオリンは喜多直毅さん。林さんパートは以上のメンバーかな」

――これまたゴージャスですね。

村井「それに対して、吉田さんアレンジの曲は、人間があんまり参加してないんですよ。ギターも打ち込みで」

石井「そうですね」

――青さんはまったく参加されてないんですか?

桜井「それはやばいなと思って、“わずらい”のギターはちょっと弾きましたよ」

村井「あと、“月光ドライブ”とか」

桜井「そう、“月光ドライブ”でノイズをやりました。林さんから〈ここにこういうノイズを入れてください〉っていう説明があったんで、どうしていいかわかんないけど、とりあえず言われた通りにやってみました(笑)」

石井「俺はレコーディングに行かなかったんですけど、その出来上がったトラックをもらって、これにどうやって歌を乗せるんだ! ?って。ほんとに歌えなくて、最初はどうしようかと思いましたね。だから譜割とか、場合によってはメロディーとか語尾とかも変えちゃってるんだけど、そうせざるを得ないんですよ。青さんはそこ結構厳しいから、そういうことをやるとだめだって言われるんだけど」

桜井「えっ、言わないじゃないですか」

石井「(笑)これでなんか言われても、どうにもなんねえなと思って。もう、オリジナルに忠実ってわけにはいかなかったですね。人間のグルーヴっていうのも、今まで味わったことのないようなグルーヴなんで(笑)、一緒にせーので演奏したらもしかしたらめちゃくちゃやりやすいのかもしれないけど、あとでクリックに合わせて歌うようなものではないですね」

――自然と身体に入ってくるタイプのグルーヴではないですもんね。

石井「そうそう」

村井「みんな、レコーディングでは2回ぐらいしか弾いてないんですよ。林さんの曲は3曲あって、僕、ベース弾いてるじゃないですか。各曲2〜3回やって終わりです。どれがいいですか?って言われて、わかんないんで林さんに任せます、って」

――では、違うパターンでいくつか録ってみて。

村井「全部違う感じで、毎回とんでもないことやっていて、あとはお好みで、みたいな」

――でも、そこに合わせていけるのがすごいですね。

村井「エンジニアの白石(元久)さんと僕だけ違う部屋で、僕は白石さんの横でずっと弾いてて」

――ということは一発録りですか?

村井「一発録りです。もちろん、クリックはないとできないけど、クリックもほんとは聴きたくなかったっぽい雰囲気はありました」

石井「そう、ずらして戻ってっていうのがすごいから、あとでクリックだけ聴いて歌ってたらエラいことになった(笑)」

――もう、ジャズ風のアレンジではなくガチでジャズですもんね。

石井「ヴィジュアル系で聴いたことないですよね? こういうの」

――ヴィジュアル系とか以前に、このギリギリのポップス感覚は、あまり耳にする機会はないと思います。

村井「だって、ドラムないんですよ。〈ドラム呼ばないんですか?〉って言ったら、〈ないんです〉って言われて」

石井「“誘蛾燈”って最強にかっこよくないですか? そもそも俺、cali≠gariのなかで“誘蛾”がいちばん好きなんですよ。それは昔から言ってんだけど、すげえ曲だなと思って。自分だったら、絶対頭で考えて作れないなって思うんですよ。あと、単純に自分の好みっていうのもあるんですけど。オリジナルもすごく好きだし、林さんのも、もうひとつ吉田さんのも、まあ、そっちは聴いてないでしょうけど、どっちもかっこいいんですよ」

――先ほどフュージョンだとおっしゃってたヴァージョンですね。

石井「ストレートにかっこいい感じ」

桜井「ロック臭もするよね」

石井「そうだね」

桜井「あんなの弾けねえよ、っていうギター・ソロが入ってます(笑)」

石井「そっちは上領(亘)さんがドラム叩いてて、それもすごくて」

村井「吉田さんアレンジのほうは、全部上領さんがドラムを叩いてるんですよ。外部のミュージシャンはそれしか参加してない。ベースは僕が弾いてるんですけど、吉田さんの打ち込みのベースラインを全部そのまま弾いてて」

――吉田さんのほうもジャズ・アレンジで、としかお伝えしてないんですか?

石井「はい。上がってくるものを楽しみに、100%任せるからおもしろいっていうのがあるじゃないですか」

――“誘蛾燈”のほかに“さよならスターダスト”と“わずらい”がありますが、上がってきたものを聴いてみていかがでした?

石井「すべて素晴らしいですよ。やり口が上手いなと思って。その3曲のうち、“わずらい”はスタンダードなわけですよ。ほとんど原曲と変わらず、少しジャズ的な方向に持っていってて。3曲それぞれ、バランスを考えて作ってるのがすごいなと思って」

――“さよならスターダスト”もずいぶんムーディーに変わりました。

桜井「TOKYO FMのジャズ番組で、ど頭に流れてきそうな感じですよね」

――ある意味でハジけている林さんと、アダルトに抑えていく吉田さん、そのコントラストも全体に良い流れをもたらしているなあと思って。吉田さんのアレンジのほうは、特に歌いにくさはなかったですか?

桜井「歌いにくいでしょ」

石井「そうですね。最初に一回、打ち込みのドラムで歌ってたんですよ。それはなんてことなく普通に歌ったんですけど、なんか、あんまりおもしろくなかったんですよね。歌は普通だなって感じで。で、上領さんがドラムを録ってくれて、すごくかっこよくなったんで、それで歌い直そうと思ったら全然歌えなくて(笑)。ドラムがすごすぎて歌えないんですよ。そこも合わせていくのが大変でしたね。俺、自分が普段やってる音楽とかもそうですけど、縦線(のリズム)をすごい気にするわけですよ。ずれることが怖いっていうか。例えば、タメたらもたってるように聴こえるとか、そういう感じなんですよ。そこになかなか慣れなくて。だけど、今回はそういうアレンジなんでね。ジャズの人たちはすごいなと思いましたね」

――では、ヴォーカリストとしてはいつもと違う体験が。

石井「そう、ほんとに〈体験〉でしたね(笑)」

――そうした個性的なジャズ畑の鍵盤奏者とのコラボで『4』も完成して。ただ、今回の2作品が一般流通する時点では、バンドは活動休止期間に入ってるわけですよね?

桜井「〈活動休止〉っていう表現が重すぎていやだ(笑)。〈休憩〉でいいですよ。この言い方のほうが可愛くないですか?」

――では、ひとまず休憩ということで。

桜井「そのあいだにもcali≠gariの仕事はちょくちょくある気がするし、ちょっと長めの休憩ぐらいに捉えておいていただければ、という感じですね」

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