伝統音楽を、現代に生きる音楽として継承するスウェーデンの笛奏者
スウェーデンの民族楽器である様々な笛を駆使するヨーラン・モンソンが、スウェーデン中部のヘリエダーレン地方で19世紀末から20世紀半ばにかけて活動したオロフ・ヨンソンの音楽を素材に、アルバム『オール・ヤンサ』を発表。5月に来日公演を行った。20世紀半ば頃の録音で残されたヨンソンの音楽は、スウェーデンの伝統音楽としてはきわめて個性的だった。そんな彼の音楽を、スウェーデンの民族楽器ばかりでなく、現代のアコースティック楽器や日本の25弦筝を交えたアンサンブルで取り上げたのが、オロフ・ヨンソンの愛称である“オール・ヤンサ”をタイトルに冠したこのアルバムである。
モンソンは10代の頃にロックバンドのドラマーとして活動し、ストックホルム王立音楽院に入学してからは伝統楽器の笛を研究した。「子供の頃に学校の授業でリコーダーを習って、笛が好きになりました。音楽院でもリコーダーを専攻しましたが、私の家では曾祖父が伝統音楽のフィドル奏者で、祖父はギター、父親はアコーディオンで伝統音楽を弾いていたので、伝統音楽は常に私の心の中にありました。演奏するにはやはり、民族楽器がいちばんしっくりきます」
スウェーデンの民族舞踊では、プロの伴奏者は主にフィドル奏者で、リコーダーの祖先のような民族楽器の笛は、もっぱらアマチュアが余暇に楽しむものとして受け継がれてきた。オロフ・ヨンソンもアマチュアの奏者だったが、現在ではモンソンのように、伝統的な笛を演奏するプロも多いという。
『オール・ヤンサ』では楽器編成ばかりでなく、アレンジ面でも伝統音楽以外の様々な要素を取り入れている。「スウェーデンの民族舞踊は2拍子や4拍子のものもありますが、多くは3拍子です。《ヘリエダーレン》の7拍子のリズムは私の創作で、マイルス・デイヴィスの《スケッチズ・オヴ・スペイン》に着想を得て、あの音楽のようなサウンドスケープを描く手段として考えました。実を言うと、録音で残っているオロフ・ヨンソンの演奏は、新しいことをやろうとしているせいか自由奔放で、ビートを特定するのが難しいという理由もあるんですけれどね」
このアルバムは、伝統音楽を現代に生きるものとして継承するために、スウェーデン政府が自ら所有するカプリース・レコードを通じて、音楽家たちに伝統音楽に基づいた新しい音楽を創造してもらう施策の一環として企画されたものだという。『オール・ヤンサ』は、上質なエンターテインメントとしてはもちろん、伝統の継承方法に関するひとつの提案としても、注目すべき作品だと言えるだろう。