FIRST AID KIT
スウェーデン姉妹の美しいハーモニーが、苗場の山にこだまする

 何の気なしに初めてファースト・エイド・キットの曲を聴いた時、USのフォーク・カントリー系のデュオのようでいて、実はブリティッシュ・フォークのデュオなんじゃないかと思ったことを覚えている。間違いなくアメリカーナ音楽に影響を受けながら、しかし牧歌性の加減がUSの田舎ほどストレートではないというか、洗練と共にほんのりと暗さもあって、英国の田園ポップ的な印象を受けたのだ。が、どっちもハズレ。USでもUKでもなく、この2人組はスウェーデンのストックホルム郊外で生まれ育った若い姉妹だと知り、半ば驚きつつ、でも妙に納得した。初夏の青空から降り注ぐ陽光みたいに柔らかな歌声と、風のように涼やかでありながら時折メロディーに混ざる翳りは、なるほどスウェーデンの天候を思い起こさせるものだったからだ。

 姉のジョアンナ(23歳)と妹のクララ(21歳)――父親がギタリストだったことから、いろいろな音楽を聴いて育ったこのソダーバーグ姉妹は、いつしか2人で演奏して曲を作るようになり、2007年にオリジナル曲を地元のラジオ局へ送ったところ、ヘビロテに。続いてフリート・フォクシーズ“Tiger Mountain Peasant Song”のカヴァーをYouTubeにアップすると、世界で250万回も再生されて注目を集め、すぐに同曲を含んだEP『Drunken Trees』を自主で発表する。そしてUKインディーの名門レーベルであるウィチタと契約。UKや北米やオーストラリアを周るツアーも行い、人々をその美しい歌声の虜にした。

ファースト・エイド・キットによるフリート・フォクシーズ“Tiger Mountain Peasant Song”のカヴァー

 そんな彼女たちの最初のブレイク・ポイントは、初のUSレコーディングを敢行した2作目『The Lion’s Roar』(2012年)からのシングル“Emmylou”が、Rolling Stone誌の〈50 Best Songs Of 2012〉で10位に選ばれたことだろう。ちなみにこの歌詞に登場する〈Emmylou〉とはエミルー・ハリスのことで、〈Gram〉はグラム・パーソンズ、〈Johnny〉はジョニー・キャッシュ。つまり2人にとっての憧れの存在を織り込んだ曲だったのだ。

ファースト・エイド・キットの2012年のシングル“Emmylou”

 そのようにUSカントリーへの憧憬を滲ませた歌で世界に通じる扉を開けた彼女たちが、コロムビアに移籍してサード・アルバム『Stay Gold』をリリースした。前作に続いてブライト・アイズのマイク・モギス(シー&ヒムやM・ウォード作品でもお馴染み!)が、今回もプロデュースを担当している。

FIRST AID KIT 『Stay Gold』 Columbia/ソニー(2014)

  『Stay Gold』というタイトルからまず思い出すのは、青春映画「アウトサイダー」の主題歌だったスティーヴィー・ワンダーのあの曲だが、彼女たちも本作収録の同名異曲で〈失ってしまったものと不確かな未来〉について歌っている。〈ああ、輝きが永遠に続けばいいのに……〉と。それは姉妹がこの数年で経験したさまざまな事柄と環境の変化によって生まれた感情だ。例えば長いツアーで感じたホームシック。あるいは孤独。そうした感情から書かれた曲が多い今作は、「より個人的な内容になっている」とジョアンナも語っている。ゆえに前作よりもマイナー・コードの曲が増えているが、メロディーの調子に幅が出たぶん、2人の歌声は力強さを増した。不確かな未来を嘆くだけでなく、確かな未来を自分たちで手にしようとする覚悟までもが感じ取れるのだ。

 だから、いまこのタイミングで彼女たちのライヴを観られるのはとても嬉しい。〈フジロック〉の出演が決まった際、〈ORANGE COURT〉か〈FIELD OF HEAVEN〉で陽光を浴びながらあの歌声が聴けたら最高だなと僕は思ったのだが、その2つを飛び越え、何といきなり堂々の〈WHITE STAGE〉に登場だ。間違いない。輝きはここからまさに黄金になる。

 

▼関連作品

左から、ファースト・エイド・キットの2010年作『The Big Black & The Blue』、同2012年作『The Lion's Roar』(共にWichita/PIAS)、ブライト・アイズの2011年作『The People's Key』(Saddle Creek)、ファースト・エイド・キットが全面参加したコナー・オバーストの2014年作『Upside Down Mountain』(Nonesuch)
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