時にヒップホップやインディー・ロック、エレクトロ・サウンドまでをもジャズと融合させ、日本では椎名林檎やSOIL&“PIMP”SESSIONSとのコラボレーションでも知られる、ジャズ界最先端のヴォーカリスト、ホセ・ジェイムズ。
リリースごとに新たなコンセプトを設ける彼の最新作は、今年生誕80周年を迎えたR&Bの伝説的シンガー・ソングライター、ビル・ウィザーズへのトリビュート作だ。ネイト・スミス(ドラムス)やクリス・バワーズ(キーボード)、黒田卓也(トランペット)、レイラ・ハサウェイ(ゲスト・ヴォーカル)ら錚々たるメンバーをバックに、ホセはビル・ウィザーズの名曲をあの渋くスモーキーな歌声で現代へと蘇らせた。
今回Mikikiではホセの来日に合わせ、かねてから親交の深いSOIL&“PIMP”SESSIONSのアジテイター、社長を迎えて対談をセッティング。ここ10年のホセとSOILの関係性から、天才ビル・ウィザーズの魅力、そして二人が今後目指すところまで、たっぷりと語っていただいた。
10年来の親友、再会
ホセ・ジェイムズ「昨日ちょうど、10年前に彼(社長)と初めて会った時の話をしていて、いろいろ思い出したところだったよ。ジャム・セッションをしたよね」
社長(SOIL&“PIMP”SESSIONS)「ははは(笑)。したねえ」
――ではまず、お二方の出会いからお聞きしたいんですが、ホセとSOIL&“PIMP”SESSIONSの共演は、2007年のSOILのツアーが初めてですか?
社長「一緒にツアーをやったのはその時が初めてだけど」
ホセ「その前にNYで会ったよね」
社長「そう、2006年ね。でもその時は、共演はしてないよね」
――それはNYのどこですか?
社長「ヒロ・ボールルームというところです」
ホセ「もう閉店しちゃったけど、僕の好きなクラブだったんだ」
社長「その頃、僕らが所属してたブラウンズウッド・レコーディングスっていうレコード会社のローンチ・パーティーがあって、そのNY版だったんだよね」
ホセ「その時に初めて彼らを観て〈なんだこのバンドは!!〉って思ったのを覚えてるよ。スーパー・クールだったよ(笑)!」
社長「(笑)。その後、ベン・ウェストビーチ※のリリース・パーティーをYellow(東京・西麻布Space Lab Yellow/2008年で閉店)でやった時に、ウチのピアノ・トリオ(J.A.M)とホセがセッションをして。それが2回目だね」
※2007年にブラウンズウッド・レコーディングスから『Welcome To The Best Years Of Your Life』でデビューしたマルチ・ミュージシャン/ヴォーカリスト
ホセ「その次に、最初に話したSOILのヨーロッパ・ツアー(2007年)があって、ラフォーレミュージアム(六本木)のワンマン・ライヴがあったんだ。あの時は客席が360度見渡せるセンター・ステージだったから、どこから出ればいいかわからなかったよ(笑)」
SOIL&“PIMP”SESSIONSの2007年作『MOVIN'』限定盤の付属DVDに収録された同ライヴのトレーラー映像
社長「プロレスみたいな感じでやってね。その時ホセはショウのために来日していて、飛び入りで出てもらって。そんな感じで彼とは毎年なんだかんだ一緒にやってましたね。その頃のホセは“Park Bench People”(2008年作『The Dreamer』収録曲/フリースタイル・フェローシップのカヴァー)とか、スタンダードをサンプリングした曲を出していて、一方の僕らはホセと同じスタンダードの楽曲をカヴァーしたりしていて、キーが違うのに頑張って歌ってもらったりしたね」
――少し話を戻しまして、ホセと社長が出会った時は、社長は彼の音楽にどういった感想を持っていましたか?
社長「まだホセと会う前、最初の『The Dreamer』というアルバムから彼の音楽はもちろん聴いていて。こういう声は大好きだし、世代が近いから〈同じような音楽を聴いてきたんだろうな〉っていうフレーズは出てくるし、シンガーだけどラップとかヒップホップとかの要素も取り入れているしで、すごく心に刺さったのを覚えてますね。すぐに〈一緒にやりたいな〉って思いました」
ホセ「僕が天才だってわかってくれた(笑)?」
社長「そうだね(笑)」
ホセ「誕生日も近いしね」
社長「2日違いね」
ホセ「僕のほうが兄さんだよね※」
社長「Shit(笑)!」
※とホセは言っているが、実際はホセが1978年1月20日生まれ、社長が1978年1月18日生まれで社長のほうが先に生まれている
残ってるのは、結局〈人生賭けてるんだな〉っていう人
――初共演の思い出はありますか?
社長「当時はSOIL&“PIMP”SESSIONSにヴォーカリストを迎えるということに対して、わりとシビアに基準を考えてたんだけど、ホセと一緒にやってみると〈こういう人がフロントマンになるべきだ〉ってすんなり思えたんですよ。歌がうまいヴォーカリストってたくさんいるんだけど、フロントマンとしてバンドを背負える人ってなかなかいないんですよね。その点で、彼はバンドのグルーヴを引っ張っていってくれるから、〈これはすごい表現者だな〉って思いました」
ホセ「SOIL&“PIMP”SESSIONSはバンド自体にものすごい個性があるから、歌う側も自信を持ってやらないとダメだし、ヴォーカリストでも安全な場所がないバンドだよね。彼らって音楽もそうだけど、それ以外のルックスや〈DEATH JAZZ〉っていうジャンルも含めたブランディングがすごくうまいでしょ。でも何公演も一緒に回ってみて、それ以上に音楽に込める情熱がすごくて〈これはホンモノのバンドだ!〉ってことがわかったんだ。当時のSOILのメンバーはあまり英語ができなくて、コミュニケーションもあまり取れなかったけど、それでも音楽で通じるものがあったね」
社長「10年前は全然喋れなかったからね(笑)」
ホセ「あと女性のお客さんも多いところがすごく好きなんだ。ジャズっていうと男性、それもちょっとマニアックなお客さんが多いイメージだけど、若い人も女性も多くて、老若男女みんなが踊って楽しめるのがいいし、ある意味それが本来のジャズの楽しみ方だと思うよ」
――その後のホセとSOILの関係性はいかがですか?
社長「お互いライヴを観に行ったりはしてたんですけど、一緒に音は出してなくて、共演というのは『CIRCLES』(2013年作、SOIL&“PIMP”SESSIONSの10周年アルバム)までなかったですね。『CIRCLES』でいろんなヴォーカリストをフィーチャーするってなった時に、ホセは外せなかったし、〈当然やるでしょ? スケジュールが大変でもどうにかやるよね?〉みたいな感じで(笑)。それとは別のプロジェクトで、ブルーノートのカヴァー・アルバム(2013年作『blue note cookin'』)にホセが参加して、そのバックを僕らが務めるというのもあったので、ちょうどホセが来日する時に一緒にレコーディングしました。(『CIRCLES』に収録された)“Summer Love”は、こちらが2曲提案したうち彼が選んだものでね」
ホセ「“Summer Love”は〈僕の曲〉だからね(笑)」
社長「曲の時点で僕もなんとなく〈サマー・ラヴ〉っていうキーワードが入ったらいいなと思っていて、でもそのことは言わずに歌詞はホセに任せたんだけど、歌詞を見たら“Summer Love”だったからビックリしてね」
ホセ「あれはミラクルだったね。じゃあいま考えてることもわかる(笑)?」
社長「(笑)。でも、あの曲は2テイクぐらいでOKだったし、早かったね」
ホセ「その前のミーティングのほうが時間がかかったね(笑)」
社長「(笑)」
ホセ「もともとファンだった人と友達になって、それからコラボレーションできるようになるって本当素晴らしいことだよね。でも音楽業界で長くやってると最初は仲間がいっぱいいたのに、だんだん少なくなってくる。それでも選りすぐられて残ってる人っていうのは、結局〈人生賭けてるんだな〉っていう人たちなんだよ。そういう人とは同志だね」
――その時の思い出は他にありますか?
ホセ「初めて東京でしたレコーディングかな」
社長「その前のJ.A.Mの作品(2008年作『Just A Maestro』収録曲“Jazzy Joint featuring Jose James”と、2010年作『Just Another Mind』収録曲“L.O.V.E.J.A.M featuring Jose James”)はデータのやり取りだったしね」
ホセ「SOIL&“PIMP”SESSIONSはジャズ・バンドなのに、ポップ・バンド並みの統制が取れてるのがすごいんだよ。僕がブルックリンでやる時はみんな遅刻するし、そこら中に飲み物は散らかすし、ようやく始めようとすると誰かがいなくなってたり(笑)。だからすごくプロフェッショナルな現場だったね」
社長「あと、ホセの誕生日の直後だったから秋田ゴールドマン(ベース)が足袋をプレゼントしてね。まだ持ってる?」
ホセ「もちろん(笑)。ビクターのスタジオもすごく豪華で良かったよね」
社長「It's expensive.」
ホセ「(爆笑)」