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みんなを巻き込んで広がっていく

 もとよりホセはシンガー・ソングライターであり、これまでの作品にもそうした資質の表れた曲がいくつかあった。が、「大半の曲をギターで作曲した」と言う今作ではとりわけそうした傾向の曲が多くなり、歌詞もディープでスピリチュアル。生と死、愛と孤独、真実と幻想、光と影のコントラストが曲に深みを持たせている。

 「自分の人生そのものがディープになってきたってところがあってね。初めてツアーをした頃はただ純粋にワクワクしていた。が、やがて現実を知るようになるわけだ。それこそ現実と幻想、表と裏、光と影があることを知り、それについてよく考えるようになった。周りの人からすれば夢みたいな世界に見えるかもしれない。好きな音楽をやって世界中を旅しているんだからね。でも実際はダークな側面もあって、自分も周りの人もいろいろと変化していく。ドラッグにハマった友達がいたり、恋愛が続かなくなったり、いろいろとね。そういうなかで自分はどういうアーティストとして存在したいのかを深く考えるようになったんだ。で、そのひとつとして、自分の表現はスピリチュアルなものであり続けたいと思うようになった。音楽を始めた頃の純粋さやスピリットを保ちながら表現を続けていきたいと改めて思ったんだよ。それが歌詞に反映されたんじゃないかな」。

 とりわけスピリチュアルな色合いの濃く表れた曲が、NY在住の女性シンガー兼ギタリストであるベッカ・スティーヴンスを迎えて録音されたスロウの“While You Were Sleeping”と“Bodhisattva”、そして“Dragon”だ。“Dragon”は詞曲もベッカが手掛け、ホセと繊細かつ甘美なデュエットを聴かせている。

 「ベッカはNYのニュー・スクールに通ってたときの同級生だったんだ。みんながスタンダードを勉強しているときに彼女はすでにオリジナル曲を作っていた。素晴らしいギタリストでソングライターであるうえに、ジャズのテクニカルな面でも優れていて、才能が際立っていたね。今回はピュアで雰囲気のある女性の声が欲しくて彼女に頼んだんだけど、思った以上に素晴らしい仕上がりになった。自分のアルバムに女性の声を入れるのが好きだし、すごく大事だと思っているんだ」。

 前作ではエミリー・キングをゲストに迎えていたホセだが、今作ではベッカの他にも、やはりニュー・スクール時代の友人である女性シンガー・ソングライター、タリア・ビリングとコラボレーション。さらに日本盤のみ収録のボーナストラック“明日の人”では椎名林檎とデュエットしている。男性性と女性性が溶け合い、いずれの曲も美しい化学反応が生まれていると言えるだろう。

 「女性の声が入ることで、バランスの取れた作品になる気がするんだ。だからなるべく女性を迎えて作るようにしているんだよ」。

 7月には本作を携えての来日公演も。

 「すでにアメリカで何か所かやったけど、このアルバムの曲はライヴでやることによってサウンドが広大になり、みんなを巻き込む感じで広がっていく。それこそが僕の意図していたところなんだ。一方的にメッセージを伝えたかったわけじゃなく、そこにいる全員が光と音に包まれる、そういうイメージを浮かべながらこのアルバムを作ったんだよ」。 

 

▼ホセ・ジェイムズの作品

左から、2008年作『The Dreamer』、2010年作『Blackmagic』(共にBrownswood)、ジェフ・ニーヴとの2010年作『For All We Know』(Impulse!)、2013年作『No Beginning No End』(Blue Note)

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▼関連作品

日本盤ボーナストラックに参加した椎名林檎のニュー・シングル“NIPPON”(ユニバーサル)

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