進取のアイデアと意欲とミュージシャンシップの集合が織り成した、ディープにしてスピリチュアルな歌世界。私たちが眠っている間に、この男はさらに進化していた!!

マイルスもコルトレーンも

 あなたはもう聴かれただろうか。オルタナティヴなロックやエレクトロニクスを大胆に採り入れて新たな音世界を示してみせた、ホセ・ジェイムズの衝撃的なニューアルバム『While You Were Sleeping』を。

 「みんな驚いてるね。アルバムの前にリード曲の“EveryLittleThing”を聴いてショックを受けてた人もたくさんいた。〈すごくいい!〉って言ってくれる人と戸惑ってる人の両方がいるようだけど、それはいいことだと思うんだ。マイルス・デイヴィスもジョン・コルトレーンも、そうやって音楽を進化させてきた。賛否両論があってあたりまえ。僕はクールなステップを踏めたと思ってるよ」。

JOSÉ JAMES 『While You Were Sleeping』 Blue Note/ユニバーサル(2014)

 今作ではリチャード・スペイヴン(ドラムス)、ソロモン・ドーシー(ベース)、クリス・バワーズ(キーボード)というお馴染みの腕利きメンバーに加え、「ソウルの感覚を持っていながら、ロックも弾ける才能深きミュージシャン」とホセが言うギタリストのブラッド・アレン・ウィリアムズが初参加。縦横無尽に曲空間を飛び回るブラッドのエレクトリック・ギターが〈新しいサウンド〉を決定づけている。だが、ギターの主張が多いからといって、これを〈ロック・アルバム〉のように言われるのはホセの本意じゃないようだ。

 「エレクトリックにすることとロックっぽくすることは、僕にとって同義ではない。アイズレー・ブラザーズだってエレクトリック・ギターをふんだんに入れてるけど、あれをロックとは言わないよね。確かにインディー系ロックからの影響はあったけど、〈ロック・アルバムを作ろう〉と思ったわけではないんだ。ただロック全開のバンド・サウンドにすることも恐れてはいなかったけどね」。

 そして、こうも続ける。

 「これまでよりもエネルギッシュな作品にしたかったっていうのはあったね。若々しい雰囲気を持たせて、コンテンポラリーな作品にしたいという意識があった。だからドラムのサウンドひとつ決めるにしても、バンド・メンバーみんなの意見を自由に飛び交わせたんだ。参加したメンバー全員が、〈自分がいなければこういうアルバムにはならなかった〉と思っているんじゃないかな(笑)」。

 そうしたサウンド自体の変化にまず気を取られるのは当然だが、ホセはそれより「これまでともっとも変わったところは、何よりソングライティングを重視したこと」だと言う。

 「いい歌を作ることに集中した。というのも、グルーヴに重きの置かれている音楽がいまは多すぎるから。若い世代の作る音楽は特にそういうものが多いよね。グルーヴを重視するのはいいんだけど、歌詞とメロディーをみんなあまりにも軽視しすぎているんじゃないかな。ネオ・ソウルのムーヴメントが起きた頃は、例えば(エリカ・バドゥの)『Mama’s Gun』のように歌詞も大事にしたものもいくつかあった。でも徐々にトレンドに巻かれていって、グルーヴ第一、クールなのが最高っていう方向にみんなが流れだしたんだ。モータウンの時代には意味のある曲がたくさんあった。ネオ・ソウル全盛の頃は素晴らしいプロダクションがたくさんあったけど、残る曲は思ったほど生まれなかった。僕はそう考えていて、だから素晴らしい曲、残る曲を書くことに意識が向かっていったんだ」。