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音楽作品を発表する場としてインスタレーションの可能性

梅田宏明の作品では、楽曲とシンクロした光の線条が横長のスクリーンをすばやく横切り、投影空間を効果的に使用していた。床の投影面には観客が入ることができるので、そうした作品では映像と音の中に没入している感覚を得ることができる。その中で梅田のダンスが行なわれる時もある。

また、楽曲の中の音の要素を視覚化する大西景太の作品や動画ファイルのソース・コードを壊して映像にエラーを生じさせるUCNVなど、映像表現はヴァラエティに富んでいる。

「今回みんなおもしろかったんですが、あのひたすら音を追う大西(景太)さん。あれは音の追い方が極めてる感じがしました。あれはすべての音を追っていると思います。UCNVさんは上を歩くとすごい酔うんですよね。ループしたり止まったりするから感覚がおかしくなります」

昨今では、自作の理想的な聴取環境をインスタレーションに求める傾向がある。今回の展示では、サウンドシステム的にはシンプルなステレオだったが、生演奏や再生装置による擬似的な音響空間とは異なる、オリジナルな体験としてのサウンド・インスタレーションという形態にも関心を寄せている。

「今回の展示もライヴでもないしCDでもない、それらと違う音楽の発表の仕方として、坂本(龍一)さんのインスタレーション(設置音楽)がそうなように、たとえば新しいアルバムを発表して何週間かそこでインスタレーションとして体験できるとか、ライヴでもCDでもなくインスタレーションで作品を発表するみたいなかたちもおもしろいなって思いますね」

そして、9月には『Mellow Waves』以降の音源を中心にコンパイルされたアルバム『Ripple Waves』が発表される。細野晴臣、坂本龍一をはじめ、ビーチ・フォッシルズ、80~90年代にフェルトやデニムといったバンドで活動したローレンスらがそれぞれ『Mellow Waves』の収録曲を再解釈(リワーク)したトラック、Drakeのカヴァー、CDには未収録だった7インチシングルのB面曲、ライヴ演奏、そして、先にあげた〈音のアーキテクチャ展〉のために制作された“AUDIO ARCHITECTURE”などの未発表曲や新曲が収められている。当初は、アメリカのレーベルから『Mellow Waves』をSpotifyなどで宣伝するためのリミックスの依頼だった。

「ビーチ・フォッシルズがすごいよかった。この人たちはブルックリンの若いバンドなんだけど。ジャンルもめちゃくちゃで世代もめちゃくちゃで人種もめちゃくちゃな感じで、(リワークは)単純に僕が聴いて好きだった人、やってもらったらおもしろいかなっていう人にリクエストした感じですね。これが縁でビーチ・フォッシルズには去年会ったりしました。あと、フェルトっていうバンドをやってたローレンスが1曲やってくれてるんですけど、それはほんとに、全く違うものになってるよね。リワークのほかにちょいちょい録音してたものとか、テクニクスのオーディオテスト用の音源をもとにした“Audio Check”とか。『Mellow Waves』周辺で作っていたいろんな曲が溜まってきたんで1回まとめたいなと思って」

Cornelius 『Ripple Waves』 ワーナー(2018)

10月から行なわれるツアーでは、ヴィジュアルとライトワークに加えてプラスの演出を考えてもいるという。前回演奏されなかった曲などを含む、『Mellow Waves』ツアーの集大成的なもので、ライヴハウスではなくホールでゆっくり体験できるものになる(観客の高年齢化に伴い?)。アルバムともども期待して待ちたい。(interview & text:畠中実)

 


コーネリアス(Cornelius)
1969年東京都生まれ。
’89年、フリッパーズ・ギターのメンバーとしてデビュー。バンド解散後、’93年、Cornelius(コーネリアス)として活動開始。現在まで5枚のオリジナルアルバムをリリース。自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやREMIX、プロデュースなど 幅広く活動中。