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哀しく、ほろ苦い新作『For Ever』

『Jungle』のツアーを経て、カリフォルニアへ渡ったジョシュとトムは揃って失恋したこともあり、〈世界の終わりに、ラジオから流れる別れの歌〉というテーマを軸に『For Ever』を作り上げた。初作がバンドを定義したアルバムだとすれば、このセカンドでは、さまざまな面で拡張したジャングルの現在を確かめることができる。

「今回は実験的な試みをしたかった」とジョシュも語るように、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイ直系のオーガニックな音作りを踏襲しながら、プロダクションはより先鋭的に。フレンチ・ハウスのビートを導入した“Beat 54(All Good Now)”は、ジャスティスの近作にも通じる洒脱なディスコ・チューン。“Casio”はサンダーキャットのコズミックなAOR解釈、“Give Over”はレディオヘッドが持つダークでエレクトロニックな質感に通じるものがある。

さらに、LAの陽射しが働きかけたのか、メロウでサイケデリックな響きがこれまで以上に強調されている。それを後押しするのが、本人たち曰く、50年代のハリウッド映画を思わせるストリングス。その音色はポジティヴな昂揚感と共に、儚さや哀愁に満ちたムードを演出している。そう、このアルバムには、ほろ苦いフィーリングを感じずにいられない。そこには、〈もう一つのハートブレイク〉が関係している。

 

UKソウルは、アメリカの音楽に憧れ続ける

イギリスの音楽家は、いつだってアメリカの音楽に憧れてきた。古くはモッズから、ビートルズやデヴィッド・ボウイの時代を経て、80年代にスタイル・カウンシルやブロウ・モンキーズがソウルを再解釈すると、ルース・エンズからソウル・II・ソウルへと連なるUKソウル〜グラウンド・ビート、そして90年代のアシッド・ジャズと、独自の系譜は広がっていく。

21世紀に入ると、UKソウルの王道はジョス・ストーンやエイミー・ワインハウス、アデルへと受け継がれた。さらに最近では、エラ・メイやジョルジャ・スミスといった次世代のアイコンも台頭。UKならではのエクレクティックな感性は、ホンネやイジー・ビズといったアーバン・ポップの新鋭や、トム・ミッシュやジェイミー・アイザックなどのサウス・ロンドン勢にも拡散している。ジェイムス・ブレイクやコリーヌ・ベイリー・レイといった異能のアクトがLAに拠点を移し、音楽観をアップデートさせているのも興味深い。

ジャングルもまた、こういったUK独自のヒストリーと無縁ではなく、初作はアメリカン・ソウルへの憧憬を形にしたアルバムだったと認めている。しかし、念願のLAに辿り着いたトムとジョシュは、現地での生活に馴染めず、憧れが幻想でしかないことを悟ってしまう。『For Ever』もLAではなく、地元のベッドルームで仕上げたというのだから、あまりにも切ない。

ちなみに、彼らが本作のために制作したプレイリスト〈For Ever FM〉には、トラヴィス・スコットやカニエ・ウェストによる最新のラップ・ミュージックから、ジェイムス・ブレイクやビッグ・レッド・マシーンなどのインディー系まで広義のサイケデリック・ソウルが並んでいる。そのなかで気になるのが、ビーチ・ボーイズの“'Til I Die”。西海岸の申し子が、果てなき絶望を歌ったナンバーを敢えて選ぶところにも、『For Ever』に込めた想いが伝わってくる。

 

ライヴ・バンドとして成長したジャングルの来日を観逃すな

「このアルバムは自伝的」とジョシュも語るように、すっかり正体が知れ渡ったジャングルは、前作よりも遥かに人間臭さを曝け出している。それに加えて、女声コーラスを多用したり、トムとジョシュがソロで歌うパートも用意するなど、持ち前のハーモニーにこだわらない姿勢にも変化が窺えるだろう。これまでの〈ジャングルらしさ〉に安住せず、傷だらけになろうと前進を試みた結果、『For Ever』はエモーショナルで風通しの良い作品に仕上がった。

来年の東京公演は、バンドの最新モードを確かめる絶好の機会だ。初来日となった2014年の〈フジロック〉では経験不足を露呈していた彼らだが、あれから4年経ったいまでは、ライヴ・バンドとしても見違えるほど成長したはず。USの人気番組「ジミー・キンメル・ライヴ!」に出演した際の映像で、その美しいハーモニーと温かみのあるアンサンブルをぜひとも体感してほしい。あとはそもそも、〈コスモポリタンなコレクティヴ感〉を持つ大所帯が最先端のソウルを歌い奏でるというだけで、どう考えても楽しそうだし、必見のステージだろう。

「ジミー・キンメル・ライヴ!」でのパフォーマンス映像

 


LIVE INFORMATION
Jungle Live in Japan
2019年1月31日(木) 東京・渋谷 WWW X
開場/開演:19:00/19:30
前売:6,500円(税込/ドリンク代別)
※未就学児童入場不可

■一般発売
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ローソンチケット 0570-084-003 https://l-tike.com/
チケットぴあ(Pコード:129-331) 0570-02-9999 https://t.pia.jp/
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