今週必聴の5曲
天野龍太郎「みなさんこんにちは。毎週金曜日にMikiki編集部の田中と天野がお送りしている〈Pop Style Now〉です。ちょっとお休みしていました」
田中亮太「おひさしぶりです。僕が心身ともにブレイクダウンしてました……。みなさまも内部からのSOSには耳を傾けてくださいね。ところで天野くんはジミー・イート・ワールドの新曲“Love Never”聴きました? 最高ですよねー」
天野「じゃあ、3週間ぶりですが、気を取り直していってみましょう!」
Childish Gambino “This Is America”
Song Of The Week
天野「ゴッチから星野源まで、多くの著名人が言及していますし、今更感もありますが、ここ日本でもびっくりするくらい話題になっているチャイルディッシュ・ガンビーノの新曲……というかビデオです。ビデオを観てもらえればそのすごさは一発で伝わるかと思いますので、まずは観てください。
チャイルディッシュ・ガンビーノは俳優/コメディアンのドナルド・グローヴァーがラッパー/シンガーとして活動する際に名乗るステージ・ネームです。2016年の濃厚ファンク・アルバム『"Awaken, My Love!"』は音楽ファンの間でかなり話題になりましたね。グラミーにもノミネートされましたし。
閑話休題。〈childish gambino this is america〉でググってもらえれば、FNMNLとか渡辺志保さんのラジオとか、日本語の記事がたくさん出てくるので、それを読んでいただくとして。それにしても、これほどのバズを日本国内で引き起こしたアメリカのポップ・ソング/ビデオを、僕は知りません。〈コーチェラのビヨンセ〉は女性の力強さやブラック・パワーを誇示することで、女性やアフリカ系の人々を勇気づけるパフォーマンスだったと思うんです。でも、チャイルディッシュ・ガンビーノのこれは銃社会やレイシズムに対する〈告発〉ですよね。
本当にものすごくたくさん言及すべきポイントがあって、いまも多くの人たちがこのビデオを分析しています。実は、この曲にはヤング・サグとか21サヴェージとか、アトランタのラッパーが多く参加してるんですが、その一方でチャイルディッシュ・ガンビーノは、そういったラッパーたちがいまのアフリカ系アメリカ人のステレオタイプとして(つまり、〈現代のジム・クロウ〉として)消費されてることを見破っているかのようでもあります。だから、かなりツイストしていますよね」
Frorence + The Machine “Hunger”
田中「フローレンス・アンド・ザ・マシーンは、シンガーのフローレンス・ウェルチ率いるバンド……と思われがちですが、〈ザ・マシーン〉とは彼女と並んでグループの中核をなすイザベラ・サマーズの呼称でもあるんですね。イザベラもイギー・アザレアの楽曲“Trouble”にクレジットされたり、ビヨンセのリミックスをしたり、プロデューサーとして活躍しています。
日本での知名度と、本国イギリスを含めた世界規模での人気具合にものすごく温度差がある存在で、これまでにリリースしたアルバム3作はすべて英チャートで1位をマーク。2015年の前作『How Big, How Blue, How Beautiful』は、ついにUSでも首位を獲得しました。どれほどのスターなのかは、このあたりの動画を観ると納得かと思いますが、とにかくものすごくビッグ・アクトなわけです。
この“Hunger”は6月29日(金)にリリースされる新作『High As Hope』からのリード楽曲。起伏を持ったオーケストラル・ポップ・サウンドに乗せ、コブシのきいた節回しで〈愛への飢餓〉を歌いあげるさまは、いかにも英国大衆のアンセム!といった力強さ&濃さ。ソングライティングにはトバイアス・ジェッソ・Jrも参加していて、コーラス前の流れるようなメロディー・ラインには彼らしさも感じますね。ちなみに、アルバムにはジェイミーXXやカマシ・ワシントン、サンファら(ヤング・タークス勢!)ら先鋭的な面々も参加している模様で、期待が高まります!」
Dawn Richard & Mumdance “Guardian Angel”
天野「ドーン・リチャードは〈D∆WN〉の名前でも活動していた、ニューオーリンズ出身のシンガーです。実はキャリアは長く、ダニティ・ケインっていうリアリティー番組発のヴォーカル・グループに2005年から所属していた人なんですよね。いまで言うフィフス・ハーモニーみたいな。
ぼくがドーンを認知したのは、2015年の『Blackheart』あたりで、つい最近です。その頃から明らかに主流ではない、UKベースとかのサウンドを取り入れたオルタナティヴなR&Bをやっていました。まあ、ケレラの先駆けみたいな存在ですよね。
そんなドーンの新曲“Guardian Angel”は、UKグライム界の異端児、マムダンスとのコラボレーションとなってます。マムダンスらしいインダストリアルでノイジーなビートも聴けますが、楽曲のコアはゴージャスなストリングスですね。ストリングスがグイグイと引っ張っていって展開する、実にユニークな曲です」
Jungle “Happy Man”
田中「2014年の初作『Jungle』が、ミュージック・ビデオのヴァイラル・ヒットにも後押しされ話題に。同年の〈マーキュリー〉にもノミネートされるなど音楽的にも高く評価されたデュオ、ジャングルがついに再始動。2つの新曲を発表しました!
この“Happy Man”は、そのうちの1曲。官能的なファルセット・ヴォーカル、腰から踊らせるミッドテンポのリズムといった70年代のファンクが基調のサウンドはそのままに、より滑らかさを増した音作りが、さらなる洗練を感じさせます。前作以降、7人編成のバンドとして磨きをかけていったようで、その鍛錬の賜物とも言えそう。
このMVにもバンドで出演していて、人種や性別の異なるメンバーたちがクールな装いでくつろいでいるさまが滅茶苦茶カッコイイ。ソウルIIソウルやヤング・ディサイプルズといった90年代初頭のアシッド・ジャズ~グラウンド・ビート勢を彷彿とさせるコスモポリタンなコレクティヴ感もあって、これぞ〈10年代のモッド!〉なのでは」
Blueprint Blue “Tourist”
田中「こちらは〈10年代のウィークエンド〉? あ、STARBOYのほうじゃなく、80年代のポストパンク~ネオ・アコースティックのほうです。このブループリント・ブルーはロンドンを拠点に活動している4人組。以前はトリオだったのに、いつの間にかメンバーが増えたみたいです。
2014年から数枚のEPをリリースしており、“Tourist”は2018年最初の楽曲。2本のギターによる軽やかなアンサンブルと細やかなドラミング、爽やかな男女ヴォーカルが魅力のアコ・ポップになっています。洒落たコード感を醸しつつ、キメすぎず/気取らない振舞いが、むしろ最大限にお洒落~。イギリスならではのインディーの矜持を感じさせるバンドです。
なお、↑のアーティスト写真や曲調からは想像できませんが、メンバーの数人がかつて在籍していたのは、カルト的な人気を持っていたダークウェイヴ・バンド、S.C.U.M。ちなみにホラーズのスパイダー・ウェブの弟、ヒュー・ウェブもS.C.U.M~ブループリント・ブルー組です。加えてメインのソングライターであるエリオット・ヘイワードも、同じくホラーズのジョシュの兄弟のようで、ロンドン・シーンの血の濃さのみならず、やはりホラーズは本当に偉大なのだなと再認識させられますね」