ジャミロクワイもノエルも惚れ込む才能
もしも自分がレコード店のバイヤーだったら、今年の秋は迷わずジャングルの最新作『For Ever』をプッシュするだろう。彼らに対して、ジャミロクワイが〈一緒にやりたい〉とラヴコールを送ったのは有名な話。近年のアーバンなムードがJ-Popにも浸透し、TENDREやSIRUPなどの新鋭が国内のシーンを賑わすなか、このバンドを素通りするのはもったいない。まずは甘美なディスコ・チューン“Heavy, California”で、その魅力を味わってみてほしい。
ジャングルは2013年のシングル“Platoon”で注目されると、UKの新人登竜門〈BBC Sound Of 2014〉にもリストアップ。初作『Jungle』(2014年)はゴールド・ディスクを獲得するほどのベストセラーとなり、辛口のノエル・ギャラガーが〈ファッキン素晴らしい〉と称え、栄えあるマーキュリー・プライズにもノミネートされている。
そして、2年間に及ぶツアーを回ったジャングルは、ステージ上での研鑽を経て、デュオから男女混合の7人編成にビルドアップ。この度発表されたセカンド『For Ever』で、持ち前のエレクトロ・ファンク/ソウルはさらなる拡張を遂げている。来年1月31日(木)には東京公演も予定。彼らはいったい何者なのか、その音楽的背景を掘り下げてみたい。
時代のムードに呼応したヒット作『Jungle』の新しさ
最初に、バンドの成り立ちから振り返っておこう。ジョシュ・ロイド・ワトソンとトム・マクファーランドは、ロンドン西部のシェパーズ・ブッシュで育ち、9歳の頃からの親友だった。両者はいくつかのバンドで活動を共にしたあと、2013年にジャングルを立ち上げる。
初期の彼らは、覆面コンビとして素性を明かさぬままベッドルームでの録音に明け暮れていた。“Platoon”を発表したときには、〈ジャングルの情報はオンライン上に存在しない〉と驚く記事もあったほどだ。しかし、6歳のBガールがブレイクダンスを披露する同曲のMVは、かのジャスティン・ティンバーレイクも絶賛。その後も、ダンス・チームをフィーチャーした“Busy Earnin'”のMVがヴァイラル・ヒットとなり、初作の大ヒットをもたらすことになる。
もちろん、彼らはサウンド面でも冴えていた。『Jungle』の新しさとは、ポスト・ダブステップを通過したプロデューサー的な観点から、USの動向にも目配せしつつ、UK独自のソウル解釈を前進させたところだろう。
この頃のUKでは、ポスト・ダブステップとソウル/R&Bが急接近したあと、ディスクロージャーが2013年の初作『Settle』で90年代ハウスを復興。この流れは、サム・スミスやジェシー・ウェア、サンファといった新世代シンガーの台頭を促した。その一方で、ダフト・パンクの“Get Lucky”がディスコの再評価を決定付けた2013年は、ジャスティン・ティンバーレイクの“Suit & Tie”が象徴するように、アーバンな気分が加速化した時期でもあった。
『Jungle』の音作りは、こういった時代背景ともリンクしている。トラックメイカー的な資質を持つ彼らのアウトプットは、ダンサブルではあるが、どこかマシーナリーな抑制を感じさせるもの。しかし、ライやインクのようなインディーR&Bと比べれば、軽妙なファンクネスが明らかに際立っていた。当時のUSメインストリームともシンクロする、ありそうでなかったグルーヴ感もヒットに繋がった要因かもしれない。
そして、ジャングルの個性を何より表していたのは、ジョシュとトムによるヴォーカル・ハーモニーだろう。彼らはファルセットを徹底して重ねることで、中性的かつナイーヴな響きを生み出している。それはまるで、ボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクが声を加工することで生み出したトーンを、オーガニックに再現するようでもあった。