©Arthur Williams

もっと自由に、もっと大胆に世界を踊らせる! 未来志向のダンス・ミュージックがさらにダンサブルに振り切れて届ける、この解放感と熱さはまさに『Volcano』だ!

 「あまり他人の言葉や考えに自分たちの行動や気持ちを左右されないようにしているんだ。クリエイティヴな人間にとって、自分のやりたいことをやるというのはすごく重要なことだと思う。逆に、他人の感情で自分の芸術的なアクションを決めつけようとするのは、かなり危険なことだからね。特に、メンタルヘルスの面でも、人がどう思うかということから自分を切り離せば離すほど、よりハッピーになれると思うんだ。初期の頃は、聴き手の判断に対する恐れや失敗への不安が潜在的にあったと思う。でも、いまはそんなことはどうでもいいと思えるようになったんだよね(笑)」。

 サード・アルバム『Loving In Stereo』(2021年)が全英3位まで浮上、USのダンス・チャートでも首位を獲得するなどの好成績を残したジャングルだが、トム・マクファーランドとジョシュ・ロイドの二人がそうした反応をフラットに受け止めているのは、コロナ禍への反動で開放的なダンス・ミュージックに振り切った充実感が数字以上に彼らを昂揚させているからかもしれない。2年ぶりのニュー・アルバム『Volcano』は現在の彼らの志向をよりダイレクトに反映したアッパーな快作に仕上がってきた。

「もっと激しい、もっとエネルギッシュなレコードを作りたいという気持ちで制作していたと思う。クラブやフェスでDJをするようになって最高の経験をしてきたんだ。そして、他のアーティストの曲をプレイすることでオーディエンスがどんな反応をするのかを見ることができた。その経験はこのアルバムを作るにあたって、より大胆に、よりポジティヴになるモチベーションを間違いなく与えてくれたと思う」。

JUNGLE 『Volcano』 Caiola/AWAL/BEAT(2023)

 前作にはインフローの参加もあったが、今回はジョシュのソロ作からの縁で「もうジャングルの一部のような存在」だというリディア・キットが共作に関わったのみ。ツアーを経た勢いと自分たちの盛り上がりをスピーディーに作品に反映することを重視し、「分析しすぎない」ことを心がけながら、全体的にアップビートでインパクトのある内容に仕上げられている。

 「自分たちがクリエイティヴな面ですごく良い状態だったから、その創作意欲を活かして早くアルバムを作りたかったんだよ。長い時間を費やすとそれがアイデアの希釈に繋がって、最初に興奮したものとはまったく違うものになってしまうこともある。今回は最初のアイデアをできるだけ純粋な形で捉えることを意識したんだ。これまでも後から〈最初のデモがいちばん良かったよな〉って思うことがあったからね(笑)」。

 本作用にドラムマシーンやシンセを新調しつつも「特に新しいことはやっていない」と語る『Volcano』だが、大きな変化は声のゲストが増えたことだろう。リディアを経由して紹介されたというエリック・ザ・アーキテクト(フラットブッシュ・ゾンビーズ)をはじめ、UKの重鎮で「僕たちのアイドルな的存在。多くのロンドンっ子にとって、彼は間違いなくある世代の声のような存在だと思う」というルーツ・マヌーヴァ、SGルイスやムラ・マサとの仕事で知られるチャンネル・トレス、前作でも組んだドリームヴィル所属のバス、そしてジョシュが楽曲制作で関わるシンガーのJNRウィリアムズが参加している。「いまは自分たちで歌うことに対してワクワクしないし、それよりも自分たちの音楽で他のアーティストたちが彼ら自身の物語を語るのを聴くほうが刺激的なんだ」との言葉通り、彼らの存在によって聴き心地のヴァラエティーは格段に広がっている。

 今回はよりサンプリング・ベースで「ミュージシャンというより、DJがアルバムを作ったような感じ」だそうで、ディスコやソウル・ミュージックへの敬愛を主軸に、エレクトロの“Holding On”やノスタルジックな“Back On 74”、南国フレイヴァーの心地良い“Coming Back”、そして往年のフィルター・ハウスっぽい“Candle Flame”や“Don’t Play”などキャッチーな楽曲が並ぶ。

 「好きに楽しんでくれたらそれで十分。究極を言えば、僕らは自分たちで楽しむために音楽を作っているんだ。だから、みんなにも楽しんでアルバムを聴いてもらいたい。それがいちばんだね」。

ジャングルの作品。
左から、2014年作『Jungle』、2018年『For Ever』(共にXL)、2021年作『Loving In Stereo』(Caiola/AWAL)、2019年のミックスCD『Back To Mine』(Back To Mine)

関連盤を紹介。
左から、J・ロイドの2020年作『Kosmos』(JFC)、ディプロの2022年作『Diplo』(Higher Ground)、アルフィー・テンプルマンの2022年作『Mellow Moon』(Chess Club)、ソーの2021年作『Nine』(Forever Living Originals)、『Volcano』に参加したルーツ・マヌーヴァの2015年作『Bleeds』(Big Dada)、バスの2018年作『Milky Way』(Dreamville/Interscope)、フラットブッシュ・ゾンビーズの2018年作『Vacation In Hell』(Glorious Dead)