フラメンコ・ギターにしかできないアレンジで、誰もが思い浮かぶ“Spain”を表現
フラメンコ・ギタリスト、沖仁の新作『Spain』は、レコード会社移籍第一弾であり、意外なことに初めてのスペイン作品集になる。
「灯台下暗しですよね。わりとオリジナル作品を作りたいという気持ちが強くあったので、新しい環境でこのテーマを提案されて、初めてそういう切り口もあるなと(笑)。ただ、スペインにまつわる曲は、膨大にあるので、楽曲を絞り込むのが結構大変でしたね」
選曲は幅広い。定番曲の“アルハンブラ宮殿の思い出”や“禁じられた遊び”の他に、アルバムの冒頭をオペラ“カルメン”のアリアが飾るなど多彩だ。4回目の録音になるチック・コリアの名曲“スペイン”は、これまでとは全く異なるバンドとの共演で弾いている。
〈誰もが知る有名曲〉に的を絞るなかで、アレンジ、演奏面で掲げたテーマのひとつが〈王道路線〉だった。
「フラメンコ・ギターは、リズムもアレンジも特殊という思い込みが僕の中にあった。楽器の特性として単音が弱いので、どうしても手数が多くなったり、パーカッシヴな演奏になったりする。聴いた人に原曲とは全然違う曲に聴こえますね、なんて言われると、シメシメなんて思っていた。でも、今回は、手数を減らすなどフラメンコ音楽の特長を封じて、多くの曲をシンプルで、スタンダードなアレンジで演奏しています」
そんな大きな発想の転換へと彼を導いたのは、初期にレコーディングした名曲“アマポーラ”だった。
「シンプルに歌のメロディだけを弾くなんて、曲として成り立つのかなと、当初はすごく不安でした。初めてのアプローチを前にひとりでいろいろ試して、いざスタジオでピアノやパーカッションなどと〈せーの〉で、ライヴ式で演奏してみると、結構いいね、ということになり、僕の意識がすごく変わりましたね」
そのシンプルなアレンジの演奏に、師匠から譲り受けた1967年製の名器ラミレスが貢献してくれた。
「これまでは弾きやすさでギターを選ぶことが多く、音色は二の次になっていた。でも、それでは今回は通用しないと思い、あまり弾いていなかったラミレスを引っ張り出してきました。歌のメロディをシンプルに弾くには一音にどれだけの説得力、存在感、魅力があるかが問われてくる。ラミレスがあったからこそ、この新境地を拓けたと思っています」
曲に合わせて楽器を持ち替えているので、今回は多彩な音色でも楽しめる。フラメンコ・ギターが時にはハープにも和楽器にも聴こえたりする。また、“スペイン舞曲”などではシンプルななかに「フラメンコにしか出来ないアプローチ」を隠し味として忍ばせている。その絶妙なバランスが新境地をより豊かにしている。
LIVE INFORMATION
沖仁 CONCERT TOUR 2018
2018年11月21日(水)愛知・名古屋 電気文化会館 ザ・コンサートホール
2018年11月28日(水)大阪 住友生命いずみホール
2018年12月8日(土)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
2018年12月15日(土)福岡 電気ビル みらいホール
2018年12月19日(水)東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
2018年12月21(金)宮城・仙台 電力ホール
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