インタビュー

Taiko Super Kicksは〈個〉の4人の集まり――伊藤暁里が語るシングル『感性の網目/bones』に込めたもの

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“感性の網目”の演奏は、1人だけでは成立しないんです

――今回は2曲とも『Fragment』の音楽性とはちょっと違いますよね。

「『Fragment』にはJ-Popっぽさがなかったなと思って、ポップス感を出したかったんです。前からシングルを出したかったので、ポップス感のある曲を作ろうって。あと、『Fragment』に“汗はひき”って曲があるんですけど、〈ドラムのパターンがおもしろい〉って感想をよく聞いたんです。実は、よくあるドラム・パターンの、ハイハットをずらしただけなんですけど。今回のシングルはそれを押し出していこうと思って、2曲ともドラムがちょっと変な感じなんです」

――確かに“bones”のドラムは変わっていますね。

「あのドラムは、ロバート・ワイアットのソロ作を参考にしました。『Fragment』を作った後、のぞみんとロバート・ワイアットの話をよくしてて。『Nothing Can Stop Us』(82年)っていうアルバムとかですね」

ロバート・ワイアットの82年作『Nothing Can Stop Us』収録曲“At Last I Am Free”

――歌い方の変化という話もありましたが、親密さを感じる、優しい発声になっています。

「『Fragment』のエンジニアの中村(公輔)さんが〈伊藤くんは声を張り上げないほうがいい〉ってディレクションをしてくれたんです。『霊感』(2014年)の頃は〈ヴォーカルっていうのはマックスで歌うものなんだ〉っていう考えだったんですけど(笑)、中村さんは〈ちょっと遠いところで静かに歌ってるくらいでいいよ〉って言ってくれて。

あと、今回はキーが低い。特に“bones”は、かなり低くて。だから、わりとしゃべり声に近い。それと、“感性の網目”の歌のテイク選びでは、イノセンスなほうを選びました。すごく綺麗に録れたのもあるんですけど、納得がいかなくて。もっと素の感じっていうか」

“感性の網目”

――演奏やアレンジの面ではどうでしょう?

「『Fragment』はそれぞれのフレーズだけで成立してるものにしたかったんですけど、“感性の網目”はそれでは成立しないんです。〈自分1人だけでは練習できない〉って、メンバーみんなが言ってました」

――他の音がないと駄目?

「1人で演奏するとコード感もわからないし、ギリギリの絶妙な感じで。それと、大堀さんに言われて〈そうだな〉って思ったんですけど、良いか悪いかは別にして、引っ掛かりがない2曲ですね。録音も、〈あんまり気張らずにやろう〉って感じでやりました。『Fragment』はもうちょっと硬い、緊張感のある感じでしたが、今回は、わりとルーズかもしれないですね(笑)」

――“bones”は、シンセサイザーが入っているのが印象的です。

「さっきの補助線的なルーツの話に戻りますが、〈2000年感〉のようなものも自分にとって重要だと思って。マウス・オン・マーズとかフォー・テットとか、90年代の終わりから2000年代の初めくらいのIDM/エレクトロニカが好きだったので、その感じを出したいなと。元々ピアノをやってて、大学生の頃はシンセで他のバンドに参加してたこともあったので、バンドに導入したいと思ってたんです」

“bones”

 

戦ったり逃げたりするんじゃなくて、守ってくれる何かのほうが大事だと思って

――“bones”はどのようにして生まれた曲なんですか?

「ああでもない、こうでもないとこねくり回して、現状こうなってるのが“bones”なんです。元々は、『Fragment』のツアーが終わって、4月頃に“友達(仮)”っていう曲を作ったんです。でも、あまりスタジオで演奏してもハマりませんでした。さっき言った、うまくいってなかった期間というのはこの頃です。

そんなときにbutajiさんのワンマン・ライヴが(東京・神保町の)試聴室であったんですけど、そこで“秘匿”を聴いたときに感じ入るものがあって。その直後に詞を書こうと思い立って、すぐ外に出て、コンビニの前で20分くらいかけてスマホのメモに詞を打ち込んだんです。次の日に、それでメロディーを作って。やっぱり、自分にとって大事な歌詞が出来ないと、何も始まらないなと思いました」

――もちろん“bones”もですが、“感性の網目”は、とりわけ素晴らしい歌詞ですね。

「自分で言うのも恥ずかしいんですけど、この2曲の詞は、かなりいいものが書けたと思ってるんです。詩としての良さがありつつ、歌詞にもなってるっていうところに近づけてきてるのかな」

――“感性の網目”の詞はどうのようにして書かれたのでしょう?

「最近、すごくやかましい話が多いなって思いませんか? 何か発言をすれば、すぐに〈いや、そうじゃないんですよ〉みたいなことを言ってくる人がいる。それはTwitterとか、SNS上でだけのことかもしれないんですけど、最近、特にそういう気がしてて。同じことを感じてる人の発言もよく見ますし、たぶん、時代の空気感としてあると思うんです」

――SNSの息苦しさ?

「息苦しさが増してませんか? 僕は噂が嫌いなんですけど、結局、SNSで流れてくるのって噂なんですよね。どこに確証やルーツがあるかもわからないことを、どこの誰かもわからない人が言ってて、どこの誰かもわからない人がそれに反応してる……」

――フェイク・ニュースとポスト・トゥルースが蔓延している世界。

「そういう空気が強まってきてることが、“感性の網目”のテーマです。でも、そこで戦ったり逃げたりするんじゃなくて、そういったことから守ってくれる何かのほうが大事だと思って。〈Twitterやりません〉っていうのも難しいし、〈スマホ持ちません〉っていうのもできない。そのときに自分を守るものとして、〈網目〉っていう言葉はすごくいいな、しっくりくるなって、朝5時くらいにコンビニの前で思ったんですよ(笑)。つまり、〈壁〉じゃないんです」

――網目だったら、通すものもあれば、ブロックするものもあると。

「そうです。網目に囲まれたなかにいれば、他人と隣り合ってても、その間にちゃんと線が引かれてる。〈それでちゃんと守られてるんだよ〉っていうことを言いたかったんです」

――一方でフィルター・バブルという言葉もあって、インターネットには自分の都合のいいものしか見えなくなるという機能もあります。網目には、そういう環境も作れてしまう側面もある。

「だけど、壁よりは絶対にいいと思ったんですよね」

――壁に囲まれると周りは何も見えないけど、網目だったら向こう側が見える。

「網目くらいでいいと思うんです、僕は。〈自分はこう思ってる〉っていうことに、みんなが〈確かにそうだね〉って賛同してくれる世界のなかで生きてる人たちのことも、僕は否定できないんです」

――ある人がエコー・チェンバーのなかにいるとしても、それを否定できない?

「それを乗り越えて、わざわざ否定してしまうのが問題だと思うんです。網目に守られていることすらも許されないような状況で」

――だから、〈すれ違う人に手を振って〉という歌詞なんですね。

「それは逃げかもしれないですし、間違ってるかもしれないんですけど、僕のいまの気持ちはそうなんです。〈他者と向き合って話そうよ〉っていう人もいると思うんですけど、向き合った結果、ただ争いになって終わることも多いと思います。だったら……」

――〈迎え撃つ声を留めて〉。

「そういうふうに、いまは思うんですよね」

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