©Juan Pupeto Mastropasqua

息子が語る、父アストル・ピアソラという音楽家

 笑ったり、おどけたり。CDや本に映っている、あるいはライヴの様子を撮ったものでも、強面が中心だった。それが、どうだ。こんな表情をしたんだな。とってもいい。

 アストル・ピアソラのドキュメンタリーの公開である。これまでも制作されたことはなかったらしい。単純に、輸入されなかったんだとおもっていた。

 息子のダニエルが何度もあらわれる。ダニエルが父を語り、姉ディアナが父と対話するテープがながれる。家族のプライヴェート・フィルムが、ニューヨークやブエノスアイレス、パリの、そのときどきの映像のあいだにあらわれる。アストルは英語で、スペイン語で、フランス語で話す。

©Juan Pupeto Mastropasqua

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 ピアソラという音楽家を、さまざまな人たちの顔と語りによって立体的に描きだしてゆく、のではない。よくあるドキュメンタリーのスタイルを踏襲していない。むしろ、ダニエルからみえる、ダニエルに近かったり遠かったりした父・アストルがここにいる。

 多くの、タンゴの、ではない音楽家との交友や共演について、映画や舞台のしごとについて、もっとあったら。ミルバとの『エル・タンゴ』や、晩年のセステートのライヴの映像があったら。そんなふうにおもわないではない。それは、でも、またべつの人がつくるべきもので、ないものねだりはするべきじゃない。古いオープンリールやカセットのテープ、8ミリ・ヴィデオに記録された音や映像が、こんなかたちで、姿をあらわすことをこそ、宝のようにおもうべきなのだ。アストルは微笑んでいる。釣ったサメの顎骨を庭にならべている。

©Daniel Rosenfeld

 ピアソラの音楽がこの列島のみならず、世界的にリヴァイヴァルしたのはほぼ20年前。ついこのあいだのような気がするが、月日の経つのははやい。

 聴く人によってアストル・ピアソラは異なった表情を、いや、表情をというよりは、その活動の側面を変えて、みせる。わたしだったら、いま、どんなふうに、いわゆる「タンゴ」とはべつの音楽とかかわりつつ、「タンゴ」にしてゆくか、「タンゴ」の遺伝子をどう相手に植えつけ、他の遺伝子をどうみずからの音楽に移植するか、だ。あなたにとっては、では、どうか? *text:小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」 製作総指揮:ピエール=オリビエ・バルデ
監督:ダニエル・ローゼンフェルド
音楽:アストル・ピアソラ
撮影:ラミロ・シビータ
出演:アストル・ピアソラ
配給:東北新社 クラシカ・ジャパン (2017年 フランス・アルゼンチン 94分)
©Daniel Rosenfeld
PHOTO:©Juan Pupeto Mastropasqua
◎12/1(土)Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー!
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