〈完全版〉の名称を冠するにふさわしい2冊となって登場!
その作品をクラシックやジャズの演奏家がこぞって採り上げているアストル・ピアソラ。“リベルタンゴ”をはじめとする作品が多くの聴衆に届くようになったのは、没後5年を過ぎたあたりだった。当時音源を求める人も増えたが、アルバムがいくつものレーベルに跨がっていたことや、CD化されていない音源も多数あり、ピアソラ作品を集めることは非常に難しかった。そんな状況下の1998年に出版されたのが斎藤充正による「アストル・ピアソラ 闘うタンゴ」だ。見るだけで圧倒される一冊だったが、ピアソラの評伝となる本文に加え、生涯に関わってきた人物に関する情報や、正規から編集盤まで、当時判明する限りの情報を盛り込んだディスコグラフィーなど、ピアソラに関する情報を押し込めた1冊だったが、出版から20年を過ぎる頃には在庫も無く重版予定もないという状況になっていた。著者も出版社も電子書籍化も含めて様々な方策を検討されたようだが、結果として〈まったく新しい改訂版〉(本書あとがきより)を制作することを決定。27年を経たこの春、完全版として出版された。


ともかく驚かされるのはそのボリューム。前作を越えて600ページにも及び、さらに上下巻の2冊になった。もちろん内容も前作からの修正が成されているだけで無く、この27年の間に新たにわかった事柄や、それぞれの項目で多くの情報が追加されている。まさに〈完全版〉の名称を冠するにふさわしい2冊となって登場した。
下巻の後半を占めるディスコグラフィーに関しても、レコード、CDについての情報に加えて、ストリーミングで配信されている音源の情報や、YouTubeなどで動画として視聴できるモノの情報など、社会のデジタル化に対応した形で紹介されている。
一見先鋭的に見えるその音楽スタイルから曲解され、誤解を受けやすいピアソラ作品。だからこそ、ピアソラ作品に挑むなり論じるなりをするならば、ひるまずに読んでおくべき2冊だといえよう。