日本とヨーロッパを往復しながら演奏、教育活動を積極的に繰り広げるピアニスト、赤松林太郎がデビュー盤(一般発売ベース)『ふたりのドメニコ』をキングインターナショナルからリリースした。ともにイタリア人ながら、ドメニコ・スカルラッティは18世紀前半、ドメニコ・チマローザは18世紀後半に活躍した。赤松は前者20曲、後者14曲のソナタを岡山県のベルフォーレ津山で昨年12月2~4日の3日間で一気に録音した。使用ピアノはホール所有のベヒシュタイン。現場で3倍以上のソナタを収めた中から厳選したそうだ。
イタリアに留学した訳でもないのに、なぜ、正規デビュー盤がいきなりナポリ派の鍵盤音楽なのか? 「実は、4歳の時に使った初めてのバロック作品の教材がスカルラッティとチマローザだった。J・S・バッハより先。技術的には子どもでも弾けるので、むしろ日本人にとって縁遠い色彩感を絵本のように感じ、感動していた。教育用音源の制作などを経て、せっかく市販盤に至ったのだから、原点に立ち返るのがふさわしいと思った」。
大人のプロ・ピアニストの目で見直した2人の作曲家像を訊いた。最大の違いは「装飾性の多寡にある」という。「スカルラッティは鍵盤楽器の演奏技術史上の発明者といえ、跳躍などの動きの付加によって、人間の手が再現できる領域を確実に広げた」。スカルラッティに対しチマローザの音符の数は必ずしも多くない代わり、「いかにもオペラ作曲家らしく、旋律を徹底的に歌わせる。とりとめない流れのうちに響き、フレージングを巧みに変化させ『モーツァルトが嫉妬したと言われるのもかくや』と思わせる瞬間がある」と指摘する。
赤松によれば、チマローザの鍵盤作品の研究は1990年代にようやく本格化、今回の録音にはイタリアの音楽学者アンドレア・コーエンによる最新の校訂楽譜を採用している。スカルラッティ作品の整理番号「K」がアメリカの音楽学者&チェンバロ奏者ラルフ・カークパトリックの姓の頭文字であるように、赤松盤のチマローザに添えられた「C」の整理番号はコーエンの姓に由来する。日本では関孝弘が96年に当時の徳間ジャパンからチマローザの「ソナタ全集」を発表、全音楽譜出版社から自身の校訂譜も出版した。「関先生の版とコーエン版では基にした写本が別らしく、私の録音はかなり異なって響くはず」と、赤松は独自性を強調した。すでに制作を決定しているセカンドアルバムは一転、「全曲ピアノ・ソロ編曲によるピアソラで行く!」。かなり、血気盛んなピアニストなのかもしれない。
LIVE INFORMATION
赤松林太郎ピアノリサイタル
○9/29(月) 19:00開演
会場:札幌コンサートホールKitara 小ホール
○11/18(火)19:00開演
会場:兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール