日本で開催された4回のレーベル・ショウケース
――日本での話に戻すと、レーベル・ショウケースをこれまで4回開催していますよね。
若鍋「そうですね。最初は2010年にフライロー、ガスランプ・キラー、サムアイアムの3組だったのが、2011年はサンダーキャット、マーティン、トキモンスタ、オースティン・ペラルタ、ティーブスの5組に増えています」
――しかも、第2回の時点でフライローが出なくても成立したのがすごい。
白川「2回目からは〈お前たちだけでやっておいて〉っていう感じで」
若鍋「これは結果論ですけど、ビートのイヴェント・チームの狙いもあったかもしれない。ブレインフィーダー全体として強くなって、そのなかからサンダーキャットのような主役を張れる人が出てきてほしかった。毎回フライローを呼ばないと、お客さんが集まらないというのでは続かないので。それで、軸になる人がちゃんと出てきているのもすごいところです」
白川「あと、当時はトキモンスタもいましたしね。(男所帯のイメージがあったなか)女性で韓国系という彼女の存在感は大きかった。それ以外の部分でも、レーベルの懐の深さを示したアーティストですね」

2011年に開催された〈BRAINFEEDER 2〉でのトキモンスタ
――並行する形で、2008年から〈ロウ・エンド・セオリー〉が日本で開催されるようになって、ブレインフィーダー周辺のLAシーンが活発に紹介されたこともムーヴメント化に繋がった印象です。さらに、トム・ヨーク(レディオヘッド)がLAビートを熱心に推したことで、ロック・リスナーもこのへんを聴くようになった。サンダーキャットに至ってはメタルやプログレ、ハードコア好きにも歓迎された印象で。
白川「サンダーキャットが〈BRAINFEEDER 2〉で西麻布elevenに出たとき、(クラブ系のイヴェントなのに)意外なお客さんがいるなって思ったんですよ。皮ジャンに鋲を打ってるような人で。〈なんで観に来たんですか?〉って訊いたら、〈あのベーシスト、スイサイダル・テンデンシーズで弾いてるでしょ? ヤバいんだよね〉と言ってて。そしたら、本当に演奏がヤバかった(笑)。あれはびっくりしましたね」
ブレインフィーダーと日本のカルチャー
――そんなブレインフィーダーを日本でブレイクさせるために、ビートインクとしてはどうプッシュしようと考えたのでしょう?
若鍋「これは結論になってしまいそうだけど、僕らが何かを仕向けたというわけではないんですよ。彼らは日本のカルチャーを無邪気に愛しているし、そこには深い理解があって。それこそ、フライローやサンダーキャットは、マーベルと同じ感覚で鳥山明の漫画を語るわけですよ」
――〈憧れの海外アーティスト〉というよりは、僕らと同じ空気を吸っている人間なんだなって感じがしますよね。おまけに、みんな漫画のキャラみたいだし(笑)。
若鍋「そうそう。気がつけば、自分たちのほうから〈すごく応援したくなるレーベル〉になっていって。そこに関して、僕らがヘタに動くのはきっと逆効果になるでしょうし。どちらかといえば、彼らのキャラクターをそのまま伝えたい。そこはいまも意識しています」
白川「〈SonarSound Tokyo 2011〉で、フライローとサンダーキャット、ドリアン・コンセプトが一緒にステージに上がったじゃないですか? あのとき、みんなコスプレしてましたけど、僕らはぜんぜん知らされてなくて。フライローは『ドラゴンボール』の孫悟空で、サンダーキャットはベジータ。で、ドリアン・コンセプトは『機動戦士ガンダム』のシャアだったけど、彼は無理やり着せられたんじゃないかっていう(笑)」

〈SonarSound Tokyo 2011〉でのフライング・ロータス、サンダーキャット、ドリアン・コンセプト。ライヴ中〈かめはめ波〉を繰り出したことでも話題に

――かなり似合ってましたけどね(笑)。
若鍋「サンダーキャットは、今年の〈SONIC MANIA〉に出演したときもベジータの格好で。〈今回のは特別なベジータで、肩パッドがないんだ〉と自慢してましたけど、逆に何のコスチュームなのかわかりづらくなってて(笑)。そういうところは微笑ましいですよね」
――カマシは格闘ゲームが大好きなんですよね。レーベル移籍してから、「ストリートファイターII」ネタのミュージック・ビデオを作ってましたし。
白川「ルイス・コールも『マリオカート』に激ハマりしていたとか。サンダーキャットが、ゲーム音楽の下村陽子さんと対談したときの目の輝きようといったら。本当に好きなんだなーって」
――イグルーゴーストは日本のエレクトロニカに影響されていて、アルバムにはCuusheが参加していました。
白川「それで言ったら、フライローは『You’re Dead!』(2014年)のジャケットに駕籠真太郎さんを起用しましたよね。あとは塚本晋也さんも大好きで、いつも会いたいと言ってますね。取材中に『KUSO』のDVDを持った塚本さんの写真を見せたら、やっべー!って叫んでました(笑)」
若鍋「サンダーキャットが“Tokyo”のビデオを撮った翌日に、プライヴェートでも(撮影場所だった)秋葉原に行ったんですよ。フラッと匂いに惹かれて、その日にオープンした立ち食いの焼肉屋さんに入ったらしいんですけど、偶然ワイドショーのTVクルーが取材に来て、〈LAから来た客〉として、サンダーキャットがサムズアップしている様子が放送されたっていうのもありましたね(笑)。そういったことが起こってしまうのも、ブレインフィーダーならではというか」
白川「だから、ブレインフィーダーは〈現象〉として、僕らの手はすでに離れているんです。後から〈こんなことになっているの?〉ということが多い」