かねてよりラヴコールを送っていた石野卓球によるリメイクも今年7月にリリースされた“もぐらたたきのような人”などで知られる異能のシンガー・ソングライター、町あかりと、来年4月に地下アイドルを卒業するというアナウンスもあったシンガー/ライターの姫乃たま。彼女たちが去る10月19日(金)、10月20日(土)の2日間にわたり、韓国・ソウルにて〈町あかり・姫乃たま ポンチャック恩返し韓国ソウル弾丸ツアー〉を開催した。
互いを〈町さん〉〈たまちゃん〉と呼び合い、〈プライヴェートでは一番よく会う人〉とも公言する呑み友達であり、姫乃のソロ・アルバム『もしもし、今日はどうだった』(2017年)では町が全面プロデュースを手掛けるなど、公私共に親交の深いふたり。今回は、町は『ベストヒット☆ポンチャック』(2018年)、姫乃は『もしもし~』のリミックスとなる『もしもし、今日はポンチャック』(2017年)と、共に自身の楽曲を韓国発の大衆歌謡であるポンチャック※・アレンジした作品をリリースしているということで、本国に〈恩返し〉をしにツアーを敢行することとなった(ちなみにふたりとも渡韓自体、初とのこと)。
※リズム・ボックスのチープなサウンドで、2拍子を基調とする大衆音楽。ポンチャック・テクノ、ポンチャック・ディスコとも言われる
ここでは、それぞれのミニ・ライヴを行った10月19日(金)、満を持してポンチャック・セットのライヴを披露した10月20日(土)の計2公演の模様を、さくっとレポートしていく。
初日、10月19日(金)の会場は、ソウル・宇宙萬物(Cosmos Wholesale)。ここは、乙支路3街の雑居ビル2階にある、数人のクリエイターが運営する小さな雑貨店/イヴェント・スペースだ(目立つ看板などがなくややわかりずらいので、行かれる際には注意!)。新品/中古のレコードやカセットテープ、書籍、アパレルなど、オーナーによってセレクトされた濃厚なグッズたちがところ狭しと並んでいて、〈何コレ!〉とついついあれこれ手にとってみたくなってしまう。2日目の公演のDJとして出演したDJ yes yesこと日本のインディー・シーンとの繋がりも深いパク・ダハムも宇宙萬物のオーナーのひとりで、同月には井手健介もライヴを行うなど、日本でも知る人ぞ知る、ソウルのホット・スポットである。
開場時間の19時の少し前になると、入り口付近には日本から駆け付けた町・姫乃のファンの人々が。開場後はふたりとファンの人々の皆でワイワイ交流する様子も見られ(姫乃&町同様、ファン同士も仲が良いようだ)、そんな微笑ましい光景を横目で見ながら宇宙萬物の商品を漁っているうちに、観客は次々と来店。今回のツアーの企画をしたマルチ・アーティストの星葡萄がDJで場を温めていると、いよいよライヴがスタートした。
先発は、姫乃たま。ふんわりとしたワンピースに身を包んだ姫乃が元気にあいさつをし、観客もそれに応えると、彼女の所属するユニット、僕とジョルジュの楽曲“恋のすゝめ”からライヴはスタート。みずからPCを操作しトラックをかけ、“来来ラブソング”“やすらぎインダハウス”などと、一人一人の目を見ながら丁寧にキュートに歌い上げていく。町が提供した“ああ人生、迷子丸”では町も登場。仲良しのふたりならではのユルい掛け合いでいいコンビ感を見せ、並んで振付を交えながら歌う様子に、ファンもニコニコだ。
続く“脳みそをマッサージ”では、今回コーディネーターとしてブッキングやアテンドを担当した、韓国在住のmisato氏が登場し、姫乃の歌を韓国語に翻訳していくという、海外公演ならではのオーディエンスへの粋なサプライズも。そして、僕とジョルジュの名曲“二月生まれ”でフロアをさらに湧かせ、姫乃のターンは大盛り上がりで終了した。
続いて、真っ赤な昭和アイドル風のミニ・ドレスを召した町あかりが、お馴染みのピコピコ・ハンマーを手にこれまた元気に登場。〈誰か譲ってください 誰か優しさください 優先席に座りたい だけど座りたい〉と哀愁たっぷりに歌う演歌調の“優先席に座りたい”から余裕のステージングを見せ、フロアの注目を一気に集める。そして“ナンタラカンタラっていう人”“コテンパン”など一度聴いたら絶対に忘れられない町あかり印のナンバーを次々と披露。煽り上手な町に先導され、観客はどんどん町あかりワールドに引き込まれていく。
そして、英語でのMCを挟みつつ、〈待ってました!〉の“もぐらたたきのような人”でこの日最高に〈陽〉なパフォーマンスを見せる町。自分を含め日本勢はついつい口ずさんでしまうこの曲で観客の心をガッチリ掴み、〈ワールド〉に浸っているうちに、怒涛のステージは終了した。慣れない土地でのライヴのはずが緊張はひとつも感じさせない両者。共に約30分間のミニ・ライヴをバッチリやり終えた印象だった。
ライヴ終了後は、DJ dydsuが縦横無尽でグル―ヴィーな選曲で会場を大いに踊らせ、コアな音楽リスナーが多い姫乃・町ファンも絶賛(DJ dydsuは12月2日(日)に来日予定なのでぜひ)。この日のイヴェントは終了し、町・姫乃ペアは近隣の呑み屋街へと消えていった(町あかりのライヴの様子はこちら)。
2日目の会場は、ソウルはホンデにあるイヴェント・スペース、センギ・スタジオ(senggi studio)。DYGLや、シャムキャッツも2日違いで出演していたりと、日本のインディー・バンドもたびたび出演している、ソウルのインディー・シーンのこれまたホット・スポットである。ウッディーでお洒落な内装と、ステージの向かって左手にある大きな窓/ベランダから見えるホンデの夜景、そして韓国のクラブには併設されていることが多いという(!)休憩や喫煙ができる広いテラス・スペースがあり、前日の宇宙萬物とはまた違った良さがありテンションが上がった。
この日のDJは、先述したDJ yes yes(パク・ダハム)。その選曲に揺られ、日本のファンに現地在住と思われる人、アジア以外の人など国際色豊かな人々が集まってくると、やがて対バンのゴールデンドゥードゥル(goldendoodle)の演奏が始まった。ゴールデンドゥードゥルは、韓国の夫婦エレクトロ・ポップ・ユニット。東京に住んでいたことがあり、サウンドからその影響も多分に感じられるYMOや日本産のシティー・ポップのファンだそう。MCもすべて韓国語と日本語の両方で話してくれ、歌詞を日本語に翻訳した楽曲(“トムヤムクン・サンセット”)も披露。会場の日本勢からも〈日本でも人気が出そう……〉と大好評だった模様。また、いまは頻繁にライヴをやっていないそうで、現地のファンにとってもなかなかレアな機会だったようだ。
そして、姫乃たまと町あかりによるポンチャック・ライヴがいよいよスタート。
それぞれ単独でのステージかと思いきや、ふたり揃ってステージに登場すると、ポンチャック・アレンジのトラックになったそれぞれの持ち曲を歌っていく。姫乃サイドが“脳みそをマッサージ”“やすらぎインダハウス”“たまちゃん!ハ~イ”“手弁当でまいります”“お母さん!たまが妖怪になってるよ”など披露していくと、町サイドも“もぐらたたきのような人”“いちめんのコスモス”“自律神経乱れ節”“とんでもない!結構です!大丈夫です!”“のっぴきならない事情”などで応戦。ハイペースに次から次へと繰り出されるポンチャック・メドレーに踊らされ、観客は息切れするほど大盛り上がりだった(ポンチャックとはそういうものなのか、テンポも速かったと思うので、町・姫乃ペアもけっこう大変だったと思う)。
ライヴ終了後は、物販コーナーで初日もやっていたチェキ会を実施。物販の売れ行きも非常に良かったようで、10月5日に刊行された姫乃の新刊「周縁漫画界 漫画の世界で生きる14人のインタビュー集」は、多めに持ってきていたそうだが売り切れ。筆者もこのタイミングで買おうと思っていたら、タッチの差でなくなってしまった。そして閉演後、姫乃・町ペアがふたたび呑み屋街へと消えていったかどうかは不明。
音楽シーンだけで言えば日本と韓国及びアジアは年々交流もさかんになっているので、ふたりにはまたぜひツアーを開催してほしいし、このままどんどん国を越えた音楽的な交流が生まれていくと、リスナーとしてもとても嬉しいものだ。また、ポンチャックは冒頭のイ・パクサの動画のようにマダムも踊ってしまう、老若男女に向けたダンス・ミュージックなので、次回、町・姫乃ペアには都市部のソウルだけでなく地方のローカルな場所で、マダムたちを踊らせてほしいな!