驚きのラップ・アルバム『ヘブン』から〈2週間ぶり〉に曽我部恵一が新しいアルバムをリリースした。タイトルは『There is no place like Tokyo today!』。リリースの1週間後にこうしてレヴューを書いていると、曽我部という音楽家の速度にまるで着いていけていないことを痛感する。

ソロのスタジオ・アルバムとしては、数えてみると、なんと15作目になる。今年は先の『ヘブン』に加え、「止められるか、俺たちを」のサウンドトラック、そしてサニーデイ・サービスでは『the CITY』、ライヴ・アルバム『DANCE TO THE POPCORN CITY』、リミックス・プロジェクト『the SEA』と、怒涛のリリースを続けてきた曽我部(さらに、みずから手掛けたベスト・アルバム『サニーデイ・サービス BEST 1995-2018』もあった)。

そんな2018年の締め括りに、このアルバムがなるのだろうか。さらなる作品が発表される可能性も、もちろん考えられるが……。カニエ・ウェストが、自身が携わった5作のアルバムを連続でリリースしたことも記憶に新しいが、それに匹敵するような曽我部の身軽さと創作意欲、リリース方法には、おそらく同じ音楽家たちがいちばん驚かされているはずだ。

そんななかで発表された『There is no place like Tokyo today!』に耳を傾けてみると、ベッドルーム感のある音からも、その歌詞からも、気負いのない自然体なムードが感じられる。ドラフトのようなアイデアからスタートし、コンピューターと手元にある機材でビートを組んで歌を乗せ、ときに71年製のストラトキャスターを重ねて構築していったであろう、どこか一筆書きのような楽曲たち。勝手な想像ではあるが、曽我部の孤独なレコーディング風景が思い浮かんでくる(録音とミックスも自身で行っている)。

曽我部のインスタグラムには〈都市型未来派魂音楽〉と書かれているが、ここで歌われているリリックは、まるで都市生活者の日記のようだ。〈スマホの画面夜を照らしてる〉(“There is no place like Tokyo today!”)。〈小さなインディアンレストラン入った カレーは頼まないチャイだけ頼んだ/カレーを食べたら 白い服にはねたら台無しなるから きみはそう言ってた〉(“チャイ”)。〈SNSとGmail 今日ぜんぶゴミ箱に捨てる〉(“ビデオテープ”)。〈近代都市は暗い〉(“心でサウスマリンドライヴ”)。これまでになくナチュラルな、卑近な言葉の選択、そしてリアルな状況の描写。そこには生々しいアクチュアリティーが宿っている。

どちらかといえばブルーな楽曲が多いように感じられるが、2曲目の“暴動”は鮮烈だ。フューチャー・ベースのような派手な音色のシンセサイザーが暴れ回り、田中貴の太いベースとバウンシーなビートが艶っぽく絡まり合う。サニーデイ・サービスのインタヴューで〈いまの歌の「熱」〉だと語っていた、オートチューンを使った楽曲も多い。前作『ヘブン』との大きな違いはそこで、オートチューンがヴォーカルに仄青い熱を与えている。

全体的にベッドルーム・ポップ的な親密な手触りがありつつ、表題曲や“ヘブン”などでは、モダンなトラップ・ポップをユニークな形で咀嚼したフューチャリスティックなムードも同居している。『ヘブン』と地続きではあるが、あのアブストラクトで刺々しさもあったブーンバップ・サウンドとはまた違う。実に不思議な作品だ。ファンの間では『ヘブン』とどちらが好きかという議論も巻き起こっているものの、甲乙つけがたい、双子のような二作である。