活動終了を控えるシンガー・ソングライターのラスト作は、〈本来の自分〉と〈ぼくりりという偶像〉との乖離が生んだ苦悩と、その偶像の破壊を一枚のアルバムで提示したものとなった。ゆえに、言葉はこれまででもっとも直截的。歌唱も非常にソウルフルだが、Lonely Lewis(ケンカイヨシ)やにお、Monkey_sequence.19、ササノマリイ、雲のすみからに新顔の常田大希(King Gnu)を加えたクリエイター陣によるエッジーなヒップホップ/ビート音楽とのマッチングで、生き苦しさがリアルに迫る歌世界をモダンなポップスへと昇華している。終曲はELECTROCUTICA製の荘厳な叙事詩の如き電子オーケストラにニーチェの思想が浮かぶ“超克”。聴後はしばし呆然とするほどに凄絶なエンターテイメント作品だ。