自身主宰のネットメディアを立ち上げるなど、音楽家としての新たな立ち位置を模索するぼくりり。この新アルバムでは、短編小説も付いたシングル『ディストピア』で提示した世界観の、さらに先のヴィジョンを描いている。現代社会を〈情報の洪水〉と捉え、その危うさと不穏さ、終末感に立ち向かう本作はまさしく〈ノアの方舟〉。ラップはより緩やかに解けて、メロディアスなフロウとなる部分が増えた。におササノマリイら続投組に加え、ELECTROCUTICA雲のすみかといった、ボカロPや同人音楽などを背景に持つクリエイター陣のトラックは、冒頭の“Be Noble”や表題曲はドラムンベースだが、全体的にマシナリーなビートが後退。ピアノやストリングス、ギターを活かした豊潤で美しく、ドラマティックなものになっている。シリアスな作品だが、ニコラ・コンテが提供した珠玉のジャズ・ボッサ“after that”で示される決意と寛容こそ、本作を読み解くカギであり、この時代に強く求められる表現だと思う。