リリース日より一か月を切って突如メジャーからの離脱を宣言し、自身の密室ノイローゼから送り出されたcali≠gariのニュー・アルバム『14』。結成から25周年を迎える記念盤でもある本作は、音楽性や詞世界、空気感など、さまざまある〈cali≠gariらしさ〉が凝縮された一枚に。全10曲、それぞれの解説を含めて3人へたっぷり話を訊いた。

cali≠gari 『14』 密室ノイローゼ(2018)

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〈終活はじめ〉って感じですかね(笑)

――リリース直前にメジャーから離れての新作『14』ですが、制作はかなり大変だったのではないかと。

桜井青(ギター)「バップさんでやってもらってたことが全部なくなってしまって、振り出しに戻って。でも、そういうことがなくなっても(作品を)出せちゃうのが25年やってきたバンドの強みですよね」

――楽曲も仕切り直しで制作を?

桜井「僕は、9月末には曲が揃ってたから結構レコーディングしたりしてたんですけど、みんなはバップを抜けてから作りはじめて。研次郎君(村井研次郎、ベース)はストックがあったかもしれないけど、石井さん(石井秀仁、ヴォーカル)はもうゼロからですからね」

――直近の2作品とは違って、今回は特にテーマなどはなく曲を作りはじめて……とのことですが。

桜井「最初はね、〈14〉の勝手なイメージを石井さんにしてたんですよ。〈エヴァンゲリオン〉は14歳じゃないと乗れないし、自殺する人は14歳が多いとか、大人なのか子供なのかわからない時期で……とか。ただ、よく考えたら『13』とその前の『憧憬、睡蓮と向日葵』がたまたまコンセプチュアルだっただけで、そもそもcali≠gariはテーマを決めて作ってなかったんですよね。だから、さっき言った〈14〉のテーマは自分のなかであればいいし、あとは各自で勝手に書いてくるでしょ、みたいな。そう思ってたら、歌詞的には僕と石井さん、狙いすましたように同じことを書いてて笑っちゃった(笑)」

石井「俺はここ数年、そういうことしか書いてない。それこそGOATBED(石井の別プロジェクト)のインタヴューでもそういう話をしてましたよね? 何も考えずに書くと全部そうなるみたいな」

――はい。〈死ぬまで生きよう〉といった、死生観のようなことですね。

石井「うん。そんなことばっかり書いてますよね、って。で、青さんも青さんで、(ファンクラブ用の)配布の曲でそんなこと言ってたんですよね」

桜井「ああ、“ラストダンス”でしょ? いや、人はどうしても死ぬから、踊るっていうか馬鹿やろうよ、それがいちばんいいってね」

石井「そのへんから、テーマじゃないけどお互い書いてることが結構同じような感じになってきたなっていうのはあったんですよ」

桜井「ほかに言いたいこともあるにはあるんだけど、バンドはやっぱり楽しみたいし、愛に溢れていたいから、例えば政治的なメッセージとかは持ち込みたくない。茶化したり、皮肉ったりするぐらいはいいけど、ガチでやっちゃいけない。じゃあ、そういうものを取り除いたとき、僕は何が言いたいんだろう?って考えたら、まあ、人は死ぬよね、ぐらいで。だから、個人的に『14』は〈終活〉のアルバム。〈終活はじめ〉って感じですかね(笑)」

――歌詞としてはそういう大まかな統一感がありつつ、サウンド面では全体からいわゆる〈cali≠gariらしさ〉が感じられる印象で。cali≠gariらしさといってもさまざまありますけど、そのさまざまな方向性が楽曲ごとに突出して表れているといいますか。

桜井「25周年目にして、良くも悪くも円熟してきちゃったなって感じ。まあ、25年は僕だけですけど」

――円熟……そうですね、今作はcali≠gariにおける各ソングライターの個性もわかりやすく出ていたように思います。ここからは1曲ずつ伺いますが、まず、青さん作曲の冒頭曲“カメラ オブスキュラ”はミニマルな構成の楽曲ですが、淡々と捻れていくような世界観、妖しい色気はcali≠gariというバンドそのもののイメージと重なるもので。こちらは漫画家の楠本まきさんへ宛てて書かれたそうですね。

桜井「そう、来年で漫画家生活35周年を迎えるまきさんのために書いたんです。まきさんの『KISSxxxx』(風変わりなバンドマンと女子高生のカップルを日常を描いた作品。初出は88年)がなかったら、cali≠gariはなかったなって。タイトルもまきさんの短編から取ってるんですけど、われわれは〈暗い小部屋〉のなかでまきさんが作った作品を見て、それをトレースしてるような人生を送ったのかもしれないね、って」

――楠本さんからの影響で、今も昔もご自身のなかで大きいのはどういった点ですか?

桜井「空気感。あの世界観に憧れましたよね〜。それで、気が付いたらこんな漫画のキャラクターみたいな生き方をしてて。思ったんですけど、石井さんにしても、研次郎君にしても、普通じゃないじゃないですか(笑)。そういう人たちが集まってるから、バンドってできるんだなって。だから、その〈空気感〉みたいなものは、いまのcali≠gariで出せてるんじゃないかなと思うんですけれど」

――で、その〈空気感〉を音にするとこういうアレンジに?

桜井「はい、スッカスカ(笑)。ミニマルにも程がある曲。自分としては6曲目ぐらいって位置付けで書いてたんですけど、最終的に1曲目になって意外でした」