Marginalia:マージナリア~自然と対話する音楽~が生活にもたらすヒント

 ソロ活動を中心に、映画音楽やCMなど幅広い分野で活動する高木正勝。新作『Marginalia(マージナリア)』は、里山で自然に囲まれて暮らしている高木の生活を切り取ったようなアルバムだ。制作のきっかけは、ソロモン諸島で聴いた「不自然な音」だった。

高木正勝 マージナリア ワーナー(2018)

 「海と島しかないような場所だったんですけど、夜中に『ドッ、ドッ、ドッ』って遠くから低音が聞こえてきたんです。それは20キロくらい離れた島でやっていたパーティーの音らしくて。人以外の生き物が出している音って、何かしら意味があって、お互いにその音を聴いているんです。でも、人は好き勝手に音を出している。その不自然な音は、人以外の生き物にとっては迷惑だろうなって思ったんです」

 そこで高木は自然と対話する音楽を考えた。高木は自宅で生活するなかで、鳥や虫の声など自然が発する音に反応してピアノを演奏して録音。それを、その日のうちにホームページにあげるプロジェクト、〈Marginalia〉をスタート。そこから選曲してアルバムにまとめたのが今回の新作だ。

「(家では)スイッチを押したら、すぐ録れるようになってるんです。でも、例えばヒグラシが良い声で鳴いてるけど、自分のピアノはなんかなあ……って、自然の音に混じれなくてボツにすることもるし、逆にピアノはよく弾けたけど、セミが黙っちゃうこともある。これまでは、そういうものも出してたけど、このプロジェクトでは『鳴き止んだってことは、この演奏は違うんだな』って潔く忘れる。そうしているうちに、これまでみたいな演奏が良いと思わなくなってきたんです。なんかドヤ顔が入ってる気がして(笑)」

 重要なのは、自然との関係性。自然音をフィールドレコーディングして作品に取り入れるのではなく、自分が風景の一部となることが重要なのだ。

 「ピグミーやアイヌの人達みたいに、自然に近い環境で生活している人達の音楽を聴いていると、そこに自然の音が入っていても違和感が無いんです。彼らは音を出すことで、ふだんは喋れない木や虫、鳥とかと気持ちを通じることができる。鳥が鳴き出したら、それも音楽の一部になるんです。そうやって関係性を広げていくことで、味方がどんどん増えていく。自然の音を素材として取り入れるだけなら、観光地で記念写真を撮って帰ってくるのと同じで、そこには自分しか写ってないんです」

 『Marginalia(マージナリア)』は、分断化が進む社会のなかで関係性を音楽で捉えようとする試み。そこには、世界との向き合い方のヒントも隠されているのだ。