取り残されてる感じ
――乃々子さんはいままで悩んだ瞬間はあったんですか?
「うーん……」
――年齢的にも最初に進路を考えなきゃいけないタイミングはあったわけじゃないですか。
「そうですね、たしかに。もともと看護師さんになりたくて、高校も看護師さんになるための学科だったりしたので、土曜授業もあったんです。でもRYUTistは土曜日にイヴェントがあるので、デビュー当時は学校を優先してたんですけど、やっぱりRYUTistをやりたいなっていう気持ちもあって。そのときはどうしようか悩んだんですけど、高校2年生が終わるときに科を替えて、大学に行って授業を受けたりしてたのもやめて、RYUTistに専念しようと思ってクラス変更して普通科に行ったんですけど、そこはちょっと悩みましたね。でも、結果的によかったです」
――じゃあ、早い段階で腹を括ってたんですね。
「はい、高校3年生の前に決めました。楽しかったので」
――この道で生きていくのって金銭的にもたいへんじゃないですか。
「そうですね。でも、楽しければいいかなって。あんまり深く考えてないです、明日のことを考えるぐらいで(笑)」
――ダハハハハ! 手応えのある活動ができていれば、とりあえずはいいかなって(笑)。
「はい、そんな感じです」
――それこそ同級生がどんどん大人になっていることを実感する年齢だと思うんですよ。
「そうですね、幼なじみが学校の先生になってもう担任を持ってたり、子供がいたりするので。私は気持ち的には高校生のままで止まってるんですけど、たまに会ったときにそういう話を聞くと、私もそんな年齢なんだってそこで知りますね。活動してるとぜんぜんわからないんです」
――すごいわかります。周りに真っ当に生きている人がいない生活を送ってると、すっかり麻痺しちゃうじゃないですか。
「そうなんです、麻痺しますよね」
――1年に1回ぐらい現実を突きつけられて、自分だけ時間の流れから取り残されてる感じが……。
「ありますよね、取り残されてる感じ」
――まあ、楽しいからいいんですけど。
「はい、ぜんぜんいいです」
――じゃあ、活動にはほぼ迷いはなかったんですね。
「はい、ないですね。楽しくやってます」

高橋みなみ、℃-ute矢島舞美、ももクロ百田夏菜子……理想のリーダー像
――リーダーに向いてないんじゃないかなって思う瞬間はあったんですか?
「私の考えるリーダー像がたかみな(高橋みなみ)さんだったので」
――あそこまでになるのは無理ですよ(笑)。
「フフフフ、あの感じがリーダーなんだっていうのが頭にこびりついてたので、しっかり言わなきゃと思ってちょっと空回っちゃったり」
――あの時期のたかみなさんに1回取材しましたけど、ボクもヘコヘコするしかないぐらいにリーダー・オーラがすごくて。
「何百人をまとめてたんですもんね。私はそれができないからすごいなって思います」
――そうなろうとした時期があった。
「一時期ありました。でも、ぜんぜんできなくてどうしようって」
――たかみなをやるには周りのサポートも必要ですからね。〈たかみな怒ってるよ!〉みたいに言ってくれる人が。
「そうなんですよ。(自分は)そういう感じにしっかり言える人ではなかったので。でもあるとき、℃-uteさんの矢島舞美さんみたいに、しっかり言わないけどメンバーのことを思いやって柔らかくメンバーをまとめるみたいな感じのリーダーさんもいるんだよっていうのを教えてもらって、自分のやり方でいいんだなって。いろんなリーダーさんがいるんだなって、そんなに気を張らなくていいんだなと思いました」
――Berryz工房と℃-uteのリーダー対談の司会をやったことがあって、〈昔はメンバーがよくケンカしてたんですよ。シール交換してて、そっちのシールのほうがいいとか悪いとかで〉って、すごい子供でほっこりしました。(笑)。
「かわいいですね(笑)」
――そりゃあ小学生グループはそうなるだろうと思ったんですけど、RYUTistはケンカがぜんぜんないみたいですね。
「ないですね、ホントに」
――ただ、ケンカしたほうがいいこともあるし、ケンカして仲良くなるグループもあるんですよね。
「そうですね、ケンカして絆が深まるみたいな感じもあるので、一時期ケンカしようっていう話も……」
――ダハハハハ! そんな話になったんですか!
「なったんですけど、結局できなくて。難しかったですね、ケンカしようと思っても。自分を無理に変えても不自然な感じがみんな出ちゃうと思うので、自然体が一番いいかなって。やっとそういうふうに思えるようになりました。たかみなさんにはなれないなと思ったので、このままいこうと思います。難しいですよね、性格を変えてまでやろうとするのは」
――みんな向き不向きはあって、それこそ百田夏菜子さん(ももいろクローバーZ)もたかみなになろうとして1日であきらめたって言ってました。
「1日!?」
――まったく向いてなかったって(笑)。
「そうなんですね……夏菜子ちゃん大好きです」
――これでいいんだと思いますよ。RYUTistが安部さんの色に染まることなく平和な空気が保ててるのは、乃々子さんの力なんだと思います。
「そうですか? よかったです……たしかに染まらなかったし、染まったらトゲトゲしそうですよね(笑)」
――ダハハハハ! RYUTistは最初から不思議なグループではあったと思うんですよ。結成直後から、おかしなカヴァーをやる※おかしなグループが新潟にいるっていう評判になっていて。
※RYUTistがこれまでにカヴァーしてきた楽曲一覧はこちら
「ああ、カヴァーのことは言われてましたね。自分たちは何がなんだかっていう感じだったんですけど」
――わかるわけがないですよね。ふつうだったらメンバーとしては〈AKBを歌いたいのに〉とか〈ももクロを歌いたいのに〉ってなるところを、そうさせなかったのがホントに正解だったと思ってます。
「そうですね。しかも、毎週新曲もやってたので」
――ヲタにもわからない曲を歌わされ、持ち歌もどんどん増えて、さらにボクとかと定期的に共演することになった結果、ボクのリクエストでさらにわからない曲を歌わされることになって。
「でも、いろんな曲を歌わせてもらえてよかったなって思います」
――ホームページに出てるメンバーの好きなカヴァー曲に、ボクが選んだ曲が比較的入っていて安心しました。
「よかった、森下恵理さんの“Hey! Baby”とかすごい好きです。いっぱいカヴァーしましたね」
――これはおかしなグループかもっていうのはどれくらいで気づいたんですか?
「やっぱりカヴァーのことを最初は言われてて。あんまり(アイドルは)カヴァーしない曲をカヴァーしてるって言われて、それでわかった感じですね。何が何だかわからなくて活動してたので」
――何が何だかわからないままスタン・ハンセンの入場テーマ“サンライズ”のカヴァーとかさせられて(笑)。
「フフフフ、とにかく来た曲を覚えてライヴをがんばるのに必死だったので、あんまり考えずにやってました。言われて初めて変わってるんだって気づいて。でも、楽しかったですね」

楽曲派アイドルの悩み
――手応えを感じはじめた瞬間はあったんですか?
「TIFさん(〈TOKYO IDOL FESTIVAL〉)に初めて出られるってなったときはビックリしましたね。出てもいいグループなんだと思って。そこでちょっとだけ自信が持てた気がします。ももクロさんが出た映像を観てたので、その夢のようなところに行けるんだと思うとすごいうれしかったし、これからもアイドルでがんばろうって思えました」
――実際どんどん音楽的な評判が上がっていくのはやってる側としても当然わかりますよね?
「はい、わかりました。楽曲派って言っていただいてホントに毎回いい曲をいただいて幸せだなと思いながら、私たち自身ひとりひとりの魅力をもうちょっと出していきたいなってメンバーで話したことはあります。楽曲のことをたくさん言われるので」
――あまりにもそっちばかり(笑)。
「あまりにも(笑)。ホントにそればっかり言われるので」
――それって曲がいいアイドル・グループの共通の悩みなんですよ。〈みなさん私には興味ないんですよね〉っていう。
「あ、共通なんですか? 私たちだけだと思ってました」
――意外とみなさん悩んでますね。3776とかMaison book girlとかのメンバーにも同じようなことを言われたことがあります。
「あー、ちょっとホッとしました。私たちが控えめなのもそうですけど、楽曲がすごいのと私たちが控えめっていうので楽曲ばっかりになっちゃって、それ(楽曲の良さ)を知っていただけてるだけ幸せなんですけど」
――パフォーマンスのレベルの高さも語られているとは思うんですよ。ダンスのスキルもあって歌もちゃんと歌える、練習量に裏付けられたものがある人たちだなって。異常な練習量ですもんね。前に1日の過ごし方を訊いたときに、ファンの人も衝撃を受けるレベルで練習をしてることが判明して。
「そうですね、休んでると怖くなっちゃうんです。最近やっと休むのも大事だなって思うようになったんですけど。休んでる暇があったらMC考えなきゃとか、もっと練習しようって思っちゃってぜんぜんうまく休めなかったんです。だけど、しばらく休むと前よりうまくできたっていうことがあったりして、最近は休めるようになりました」
――MCの練習するくらいだったら、MCのネタになるようなことを何かしたほうがいいと思いますよ。
「行動したほうがいいですよね、絶対。それなのに家で黙々とMCを考えて(笑)。ネタ探しの旅に行ったほうがいいよなって思いますね」
――ボクは連載で2~3行の近況を書くとき、近況をおもしろくするためだけの活動をしてたんですよ。そのためだけに事件の現場に行くとか有名人の葬式に行くとか。そしたら、そこから仕事につながったりもしたんですよ。
「自分から動かないとダメですね。たしかにそう思います。動こうと思います」
Negiccoさんみたいになれたらいいな
――ちなみに、ともちぃも〈自分が空っぽ〉みたいな話をしていて。
「えーっ、そんなことないと思う」
――空っぽだって悩んでたけど、ようやくその空っぽな部分に中身がちょっとずつ入りはじめたってことで。
「ああ、本とか」
――このレベルで活動してたらRYUTist以外のことはなかなかできないと思うんですよ。
「そうですよね。私も地味なことしかしてないので。散歩とか(笑)。最近は念願の猫ちゃんを飼って、猫ちゃんと遊んだり。あと生け花やってるんですけど、それで心安らいでますね、あんまり若者らしいことはしてないんですけど」
――ボクも猫は大好きで、常に猫の餌は持ち歩いてます(ポケットから〈ちゅ~る〉を出して)。
「あーっ、〈ちゅ~る〉! 〈ちゅ~る〉ってみんな好きですもんね」
――あげてます?
「まだあげたことないんです」
――じゃあ、差し上げます。
「いいんですか? ありがとうございます! いまも家で何してるかずっと考えちゃうんですよね。猫ちゃんがきっかけで、こないだ初めてメンバーが家に来て。いままで8年間、そんなことなかったのにビックリですね、なんでいままでなかったんだろうって(笑)」
――適度な距離感がずっとあって。
「はい。みんなで遊んで青春な感じがしました。4人だけでどこか行ったりとかホントにないので。マネージャーさんについて来てもらうことがほとんどなので、新鮮でおもしろかったですね。4人だけで仕事以外でいるっていうのが楽しかった」
――横山さん効果が意外と大きいみたいですね。
「そうです、ホントにみくちゃんがうるさいので。さっきも1人ですっごい笑ってたんで、うるさいって言ってたんですけど。それくらいにぎやかな空気になれたのは、みくちゃんのおかげだなって思います」
――横山さんの影響も大きいし、ハコイリ♡ムスメさんとのコラボ(柳♡箱)の影響も意外とあるって他の人は言ってました。
「ああ、ハコムスさん、かわいくて大好きです。アイドルってこうなんだなって思って。RYUTistはアイドルのお友達がいないので、ハコムスさんと仲良くさせてもらってうれしいです。ハコムスさんって表情とかもうすごいし個性も強いので、一緒にライヴしてると勉強になるし、柳♡箱は結成できてよかったなと思うところばっかりです」
――これだけキャリアがあってこれだけスキルを高めてきた人たちでも、ハコムスさんが勉強になるわけですよね。
「ホントに毎回勉強になります。ハコムスさんを見てると、これは絶対ファンになるなって思います。すごいアピールしてくれるし、かわいいし。RYUTistはパフォーマンスに徹しすぎてるので、そういうのも忘れないようにしなきゃなって思いました。ハコムスさんは10歳下の子もいるので、そんな子とステージに立ってるのは不思議だしありがたいなって思います。若いパワーを吸収できて」
――年齢が多少気になりはじめたりはしてます?
「一周回ってあんまり気にならなくなりました。19~20歳ぐらいで気になりはじめて、若い子がいっぱいいるので何歳までできるのかなって一時期は思いましたけど、すぐ終わりました。まあいいやと思って(笑)」
――けっこう悩まない人ですよね。
「考えてもいいことないなと思ったので、あんまり考えないです。楽しいことを考えるようにしてます」
――この平和な空気の理由はそれもあると思いますよ。リーダーが悩まないっていう。
「あんまり悩まないです(笑)。ヘラヘラしてるのでちょうどよかったです」
――そこは絶対大きいです。
「よかった、楽しいことだけを考えてるのでホントに楽しいです」
――個人なりグループなりでやりたいことはありますか?
「1人で何かやりたいっていうのはないですね。グループとしては、いままでたくさんの人に知ってもらいたいっていうようなことしか言ってなかったんですけど、去年から新潟LOTSさんでやらせてもらって、新宿ReNYさんでやらせてもらって、どんどん大きいステージにステップアップしてるので、やっぱりステージの規模を大きくしていきたいなっていうのはありますね。あの景色を見たら、もっと大きいところの景色を見たいっていうのが芽生えました。で、そういうことを思うようになったのが大きな成長かなって思います」
――もともとそんなこと思ってなかったのか、言わないようにしていただけなのか。
「個々ではちょっと思ってたところもあったと思うんですけど、メンバー内でもあんまりそういうのがなかったので。去年くらいから、下からバーンとステージに飛び出るのをやってみたいとか、イヤモニさん(イヤーモニター)つけてみたいとかみんな言うようになって。夢の話もするようになりましたね。前は言わない空気があったのかもしれないです」
――〈地道に新潟でやり続ければ〉だったのが、多少の野心が出てきて。
「はい、出てきたと思います」
――出てくるのが遅いとは思いますけどね(笑)。
「遅いですよね(笑)。7年ですから。やっとです。ファンの人にも〈やっとメンバーから大きいステージに立ちたいって言葉が聞けてうれしい〉って言われたので、待っててくださったんだなってわかって。これからは言っていきたいと思います」
――いままで活動を続けられた理由はなんだと思います?
「楽しいっていうのと、周りの環境がよかったと思います。スタッフさんもそうですが、RYUTistを支えてくださるみなさんが優しくてメンバーのことを考えてくださるので。メンバーもリーダーの私を支えてくれる頼もしい子たちばっかりですし、そういうのがあって続けてこられたと思います」
――そして、この先も続けていけそうですかね。
「そうですね。できるところまでやりたいなと思います。大先輩のNegiccoさんも私たちのずっと先で活動されてて、いいお手本というか。Negiccoさんがいてくださるおかげで私たちもそれを追ってできるので、大切な存在だなと思います。Negiccoさんはずっとかわいくて変わらないですもんね、そんなふうになれたらいいなって思います」
――せっかくいい音楽をやってるんだから続けてください。
「はい、がんばりたいと思います」