より直感的に音楽制作が可能になったDTMの進化を前提に、〈ラッパーでもバンドマンでもない〉と自称するMomは、ジャンルを超えたフリーフォームな表現世界を操る22歳の現役大学生シンガー・ソングライター/トラックメイカー。ギターや鍵盤などの生音を活かしたトラップ以降のビートと、オートチューンを交えたヴォーカル、ラップのメロディアスなフロウを〈ローファイ〉とも評される歪にして愛らしい自家製音楽に昇華する彼の感性は、そのしなやかさが実に魅力的だ。

 「フリーの音楽制作ソフトだから何となく使いはじめ、愛着が沸いて今も使い続けているGarageBandには、他では出せない音の質感があるんですね。僕は常々、現行のトレンドとは異なる音楽を作りたいと思っているんですけど、そうなった時、GarageBandのローファイな質感がおもしろいんじゃないかなって。そのことに関連して、自分の音楽を〈クラフト・ヒップホップ〉と呼んでいるのは、今のヒップホップはプロデューサー主体の音楽というか、トラックがかっちり作られてさえいれば、なんとなく良さそうに聴こえるところにがっかりすることも多いから。その点、自分はギター主体で曲を作るシンガー・ソングライター的な側面もあるので、曲もビートも血の通った音楽を指向していることを打ち出したかったんです」。

 自身ならではの表現と、その表現の普遍性を共存させる絶妙なバランス感覚に腐心した前作『PLAYGROUND』。そこから半年の短いインターヴァルで完成させたセカンド・アルバム『Detox』は、彼の表現に対する強い思いや決意を反映させたパーソナルなストーリーテリングが際立った作品だ。

Mom Detox Life Is Craft(2019)

 「前作は、〈いかに名前を知ってもらうか、人にどう見られるか〉を意識しすぎて、自分のパーソナリティーが希薄な、ドライすぎる音楽になってしまった気がして、こんな感じで音楽を作っていていいのかなって。そうではなく、今の自分をちゃんと歌として切り取らなきゃ精神衛生上良くないなって思ったんです。それが『Detox』というタイトルや作品のコンセプトにも繋がるんですけど、今回はいろんなことに思いを馳せたり、今思っていることを形にしようと意識した15曲になっています」。

 フランク・オーシャン『Blond』以降のクロスオーヴァー感覚を土台に、2ステップのビートが躍動感を生み出しているリード・トラックの“Boys and Girls”をはじめとしたサウンド面での進化と、SNSのフレーム越しの息苦しい日常からみずからを解き放とうと紡ぎ出すリリック。それらが一体となったことで、本作でのMomは人目を気にせず、独自性を自由に謳歌するヘルシーなポップセンスをより色濃いものにしている。

 「ヒップホップは音の変遷が激しい音楽じゃないですか。でも、その人のセンスが問われるジャンルというか、技巧的な視点で捉える必要のない音楽であるところは変わらないし、そこが他の音楽とは違うおもしろさだなと思って。今はどんな音楽でもすぐにそれっぽく作ることができる時代だからこそ、ヒップホップがそうであるように、他とは違う作り手のセンスやパーソナルな部分にもっと焦点を当てた音楽を作りたくて。そのうえで、サンプリングは異なる時代や質感の音を組み合わせるところにおもしろさがあると思うんですけど、今回はGarageBandで異なる質感に加工した自分のヴォーカルやギターを組み合わせることで、他の人には真似できない自分独自の尖ったサウンドになったと思います。そこによりパーソナルな歌詞を乗せたこのアルバムを作り終えて思うのは、人目を気にせず、自分の作りたいものが作れたら、心が豊かに満たされるんだなってことで。ここまで来たら、自分だけの尖った表現をこの先も極めていきたいです」。  

 


Mom
現役大学生でもある22歳のシンガー・ソングライター/トラックメイカー。2018年春より本格的に活動を開始。ライヴ会場やタワーレコードの未流通コーナーのみでリリースされた自主制作盤を経て、同年11月には初の全国流通盤『PLAYGROUND』を発表。渋谷O-nestで開催したレコ発ライヴはソールドアウトに。2019年2月からは創作的な活動を行う大学生が登場するAppleのキャンペーンCM〈Macの向こうから〉に出演。当人のナレーションと共に流れる提供曲“Boys and Girls”のほか、“スーパースター”“ひみつのふたり”などの先行デジタル・シングルをコンスタントに送り出し、このたび、ニュー・アルバム『Detox』(Life Is Craft)をリリースしたばかり。