現代のカルトボーイが繰り出す目の覚めるようなカウンター――ハッとする驚きが散りばめられたSF音楽がリーチする〈新たなポップス〉とは?

 Mac、iPhoneの無料音楽制作アプリ、GarageBandを駆使し、ヒップホップのラフなコラージュ感覚とレックス・オレンジ・カウンティやチャンス・ザ・ラッパーを彷彿とさせるキャッチーなメロディーセンスをDIYマナーで融合。その綻びや温かい耳触りを活かした〈クラフト・ヒップホップ〉をフレッシュに体現してきたシンガー・ソングライター/トラックメイカーのMom。屈託のない音遊び、言葉遊びに興じたファースト・アルバム『PLAYGROUND』(2018年)から自身の内面を吐露した昨年のセカンド・アルバム『Detox』へ――わずか半年でその音楽性を急速に進化させた彼がさらなる飛躍を果たし、1年2か月ぶりとなるサード・アルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』を完成させた。

Mom 『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』 Colourful(2020)

 「人に何かを伝えたり、楽しんでもらえるようなアウトプットの仕方は一貫していますけど、『PLAYGROUND』から『Detox』にかけて殻を破って、よりエモーショナルになり、今回のアルバムではさらに自分のエモーションをもとに、ストーリーを紡いでいきました。そういう意味で表現のステージは着実に上がっていってると思います」。

 精神面での成長や気持ちの余裕がサウンド、リリックの両面に色濃く反映された本作は、彼の作風の大きな特徴であったローファイな鳴りがハイファイで立体的な鳴りへと驚きのアップデートを果たしている。

 「今回は制作のプラットフォームをGar­ageBandからLogicに変えました。これまではローファイな音の質感に新鮮さを感じて、そういうサウンドを自分なりに追求してきたんですけど、今はローファイが時代のスタンダードですし、もっと言えば、ヒップホップを血肉に、それをポップス化していくアプローチが形骸化しているように感じて、よりダイレクトに格好良い音楽をやりたいなと思うようになったんです。音楽って、特定のスタイルが流行っては形骸化して、また新しいスタイルが生まれていくものだし、そんななか、アーティスティックな作風をアルバムごとに進化させてきたカニエ・ウェストやジェイペグマフィアのオルナティヴな作品には大いに触発されましたね」。

 

ハッとする驚きを

 アップデートされたプロダクションは、しかし、特定のジャンルや既存のフォーマットに小綺麗にまとめられる方向には向かわず、クラフトなポップセンスを活かしたまま、遊び心溢れる逸脱や脱線を重ねたことで風通しの良い自由なムードを纏っている。

 「曲作りもシンプルなビートのループから、音響的にも緻密に作り込んで、展開を付けていくアプローチへと意識的に変えていったんです。それから、これは僕がヒップホップで一番好きな部分なんですけど、例えば、LAメタルの大味なギターにラップを乗せてもLAメタルにはならないし、ハウス・トラックにラップを乗せてもオーソドックスなハウスにはならないですよね。ヒップホップのサンプリングやレイヤーがもたらす超越的な、メタ的な性質を現代でどう表現するか。今回はたくさん作った曲をセルフ・サンプリングして他の曲で用いることで、1曲のなかで異なる質感を同居させたりもしています」。

 ベース・ミュージックやインダストリアルのエッジーなトラックとメランコリックなメロディーが共存した“マスク”や音響の変化とリリックが呼応し合う“アンチタイムトラベル”。ビートルズの遺伝子を継承したかのようなカラフルなトラックとシニカルなリリックがコントラストを成す“ゴーストワーク”、アグレッシヴなトラップ・チューンがメロウな転調を果たす“カルトボーイ”など、自由奔放な楽曲の数々は、オープニングの“胎内回帰”から近未来のディストピアが描かれた“2040”へと至る作品の大きな流れ、現実の閉塞感をデフォルメしたSF的な世界観でまとめられている。

 「昨今の音楽はリスナーとの関係にあまりに縛られていて、作家性が希薄になっているというか、ハッとさせるような驚きがないような気がするし、それは音楽に限らず、SNSを含めた社会全体に感じられる想像力の欠如とも繋がっている気がするんです。それだったら、リスナーがそれぞれ考えたり、想像力を刺激されるような、ハッとさせる音楽を自分で作ろう、と。そこでサウンドだけでなく、リリックに関しても昔から大好きな星新一さんや筒井康隆さんの『笑うな』といったショートショート、藤子不二雄さんのSF短編漫画からインスピレーションを得て、シニカルな視点や驚きが感じられるストーリー性や表現を意識しました」。

 SNSのタグのように、簡単にはラベリングできない人間の感情や日々の営み。頭ではわかっていても、真偽の定かではない膨大な情報や思念が押し寄せる混沌とした日々にあっては、耳触りのいい言葉や声の大きい意見に流され、安易に白黒つけてしまうことが多かったりする。そんな現代社会に対して、Momは想像力を増幅させる音楽によって、目の覚めるようなカウンターを提示する。

 「この作品には自分なりのステートメントを込めたつもりではあるんですけど、何かが良い悪いということが言いたいわけではなく、音楽として楽しんでもらえる瞬間もたくさん用意して、そのバランスを大切にしました。例えば、シングル曲の“ハッピーニュースペーパー”は〈楽しい曲〉という感想がめちゃくちゃ多くて、ヒップホップ好きの方からはポップすぎると言われたりもしたんですけど、よくよくリリックを聴けば、実はシニカルだったりする。つまり、自分としてはただ楽しいだけ、後味が悪いだけでは終わらせたくはないし、その絶妙なバランスのなかで自分なりに戦っていきたいんですよね」。

 

カルト少年に幸あれ

 自身の内面と向き合い、みずからを浄化するようにエモーショナルな歌を紡ぎ出していた前作『Detox』に対して、本作では決して明るいとはいえない外界に目を向け、皮肉交じりのユーモアを散りばめたサイエンスフィクションを描きながらも、その奥底では人との繋がりを求め、すべてを諦めきれないでいる。そんな矛盾を呑み込みながら、未来に向けて音楽を放つMomは見違えるようにタフになった。アルバム・タイトルの『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』にも、そんな彼の気持ちの大きな変化が表れている。

 「今作の制作中盤に作品を完成させる自信を失ってしまった時期があって。そこで、モチベーションを高めるべく、もともとカルチャー自体が好きだったスケートボードを始めたら、すごい新鮮だったというか、長らく忘れていた感覚が蘇ってきて。転びまくってアザだらけになったり、滑っていると怪訝な目で見られたりもするんですけど、そうした経験を通じてタフになったような気がしたし、自分のなかでスケートボードが少年性や前に進んでいく推進力を象徴するものになっていったんです。だから、〈Sk8board〉という言葉を用いたアルバム・タイトルも自分にとってはポジティヴなものというか、〈21世紀を生きるカルトな少年たちよ、幸あれ〉という思いが込められているんです」。

 

近頃のMomのCultboiライフを彩ってきた音楽たち

JPEGMAFIA 『All My Heroes Are Cornballs』 EQT(2019)

「過激なものが好きなので」と語るMomが常に聴いているというMC。インダストリアル・ノイズ~パンク/ハードコア~トラップなどが連なる実験的なサウンド・コラージュのなかで熱を帯びるフロウはクールでありながらエモーショナル。最新作は過去作よりポップと言える耳触りだが、エキセントリックな佇まいは相変わらず。

 

KANYE WEST 『Jesus Is King』 G.O.O.D./Def Jam/ユニバーサル(2019)

「ダイレクトに格好良いもの」を考えた際に聴いていたというヒップホップ界の大御所。音楽性は予測不能で最新作はゴスペル作品。「〈アルバム〉というアートフォームを続けてるのもいいなって思うし、世界規模で売れてるのにいろいろアウトじゃないですか、あの人。ああいうセンセーショナルなものを自分もやりたいです」。

 

BON IVER 『i,i』 Jagjaguwar/BIG NOTHING(2019)

卓越したコラージュ/エディット感覚はそのままにより〈歌〉にフォーカスした最新作。「(本文で触れている)メタっぽさ、レイヤー感みたいなところで聴いてました。ボン・イヴェールも姿勢としてはシンガー・ソングライター的な像が浮かぶけど、いろんなマテリアルが連なって、混ざっている感覚は結構刺激になった気がしますね」。

 

DEAN BLUNT,INGA COPELAND 『Black Is Beautiful』 Hyperdub(2012)

謎の溶解サウンドを展開する男女デュオ。奇妙でありつつフレンドリー。「ディーン・ブラントは自分の中のカルト像というか。結構まんま使いしてて、サンプリングなのか自分で弾いてるのか境がホントわかんないって意味ですごい好き。最近出た編集盤もめちゃくちゃ良かったです。良いとかいう次元じゃなくて、もうヤバい(笑)」。

 

吉田拓郎 『元気です。』 ソニー(1972)

「キャッチーなものだと、(緊急事態宣言よる)外出自粛期間に聴いてたなかでいちばん良かった、自分にフィットした作品がこれ。混じりっけがなくて、なんか、リアルだなと。リアルなものってすごいホッとするんで、信じられるなと思って。短い期間でしたけど、もう吉田拓郎しか……あのリアルさしか信じられなかった(笑)」。

 

YVES TUMOR 『Heaven To A Tortured Mind』 Warp/BEAT(2020)

最新作ではグラム・ロックへ接近した強烈なヴィジュアルの電子音楽家。「めちゃくちゃ格好良いです。MVも良くて、過激な存在を演じ切る感じというか。『21st Century Cultboi~』もモチーフではないですけど、ニュアンスとしてのグラムっぽさは凄くあります。歌詞にも出てきますし、アルバム名の由来もTレックスですしね」。