この1年をどう生きたのか──。〈反発〉を形にしたポップ・ミュージックたちをミックステープ的に編んだ新作から浮かび上がるのは、根源的な歌の力で……

どう生きていたのか忘れないように

 ヒップホップ的なビートやフロウ、コラージュ感覚と、シンガー・ソングライターとしての研ぎ澄まされたストーリーテリング/メロディーセンスを併せ持つ新世代クリエイターのMom。昨年7月にリリースされたサード・アルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』は、コロナ禍の逆境にあってライヴをはじめとするリスナーとの接点が狭まるなか、収録曲の“あかるいみらい“が今年3月にAppleのTVCMに起用されるなど、そのオルタナティヴな作品世界はより広いフィールドへ着実に拡がりつつある。

 「前作はリリースこそ昨年の7月だったんですけど、コロナ以前に制作したアルバムだったんですね。だから、コロナ以降の心持ちや空気感はすべて今回のアルバムに反映されてます。音楽に限らず、表現によって自分の意志を時代に残していく人たちというのは、みんな、何かしなければいけない、何か作らなければいけないと考えたと思うんです。自分の場合はライヴが軒並み中止になってしまったので、2020年、2021年をどう生きていたのかを自分が忘れないように歌に残そうと、ひたすら曲を書いていましたね」。

Mom 『終わりのカリカチュア』 Colourful(2021)

 セカンド・アルバム『Detox』以降、真偽の判別がつかない情報や加速する消費傾向の渦に揉まれる日々の生活をシニカルなリリックで考察してきたMomにとって、コロナ禍が浮き彫りにした現代社会の狂騒は自身のクリエイティヴィティーを大いに刺激するもの。前作から1年ぶりとなる4枚目のアルバム『終わりのカリカチュア』は、30曲以上の候補曲から19曲を厳選した大作となった。

 「音楽をやっている人間として、歌を作ったり、それを人前で披露したりすることで何か前向きなエネルギーが生まれたほうがいいんでしょうけど、僕がただ〈俺たちは大丈夫だよ〉と言ったところで、みんな生きていけるんだろうか?とも思うんですよ。もちろん、先の見えない流動的な状況がずっと続いていくなかで、〈みんなで繋がっていきましょう〉というメッセージに勇気づけられる人もいるとは思うんですけど、音楽やスポーツのようなものは政治利用されやすかったりもするし、〈この映画は泣ける〉みたいな形で感動や感情が安易に商品にされてしまったりもする。そう考えた時、自分は前向きなメッセージだけを糧に生きてはいけないし、自分と同じようにメッセージに対して懐疑的で、輪からはみ出してしまう人はたくさんいると思うんですよ。そういう人たちにとっての光となるものが、音楽を通じて一気に発露していくようなイメージで作品を作らなきゃダメだなって」。

 2ステップの洗練されたビートが疾走する先行シングル“祝日”は、そのタイトルに反して寄り添う2人が共有する空虚さや不安感を滲ませ、ヒップホップのアティテュードにも大きな影響を与えた映画「スカーフェイス」の名フレーズと同じ曲名の“ワールドイズユアーズ”もキャッチーな楽曲と共に描かれる未来は決して明るいとはいえない。

 「歴史というのは〈華やかなものが残る〉というか、権力者がそうやって意図的に編んでいくものじゃないですか。だから、人々の時代精神が知りたければ、その時代に歌われている曲や言葉、映画なんかを紐解くべきであって。どれだけ華やかな歴史がそこにあったとしても、空しさや悲哀、怒りを持って生きていた人々はいたと思うし、そういう時代精神と結び付いたものをアルバムという形で残したかったんです。そういう声なき人の声を投影した表現こそがヒップホップであり、フォーク・ミュージックでもあるという」。