全国のロッ熊ファンのみなさんご無沙汰しております。もうすっかり初夏ですね。
気づいたら2019年も半分が終わりです、なんと言うことでしょう、皆様は何をしていまして過ごしておられるのでしょうか? 三船は〈HEX TOUR〉が一区切り、2010年代を終わらせ20年代に備えるべく、音楽に旅に大忙しの日々です。
さて今回はついにこの日を待っていた! Bird Bear Hare and Fishのフロントマンとしても知られるwarbearこと尾崎(雄貴)くんとの対談です。
もうすぐ共演※となる彼との話は電話(skype)越しの〈はじめまして〉で、なんだかお互い緊張してたのですが、同じミュージシャン(彼のほうが大先輩ですが)ということで音楽の話になるととても心地よく、なんだか三船も緊張しながらも素直に話すことができました。お互いに機材を集めてスタジオを作ってしまう穴熊思考な?二人の熊対談です。インタヴュアーは金子厚武さん。どうぞお楽しみください。
warbear
尾崎雄貴(Bird Bear Hare and Fish)によるソロ・プロジェクト。
2010年にメジャーデビューしたGalileo Galileiとして、4枚のオリジナル・アルバムと3枚のミニ・アルバムを発表、活動中ギター・ロックからニューウェイヴ、インディー・ロック、ルーツ・ロックなど、影響を感じさせる音楽性を深化させつつ、2016年10月の日本武道館公演を最後に活動を終了する。
約1年の空白を経て始動したwarbearは、札幌〈わんわんスタジオ〉でそのレコーディングのほぼすべてを行いつつ、世界的なエンジニアたちと作業することにより更なる音楽的な深化を見せた。2017年12月6日にファースト・アルバム『warbear』のリリース。2018年からは全国ツアー〈warbear tour 2018 "鳥と熊と野兎と魚"〉を開催し、全公演即SOLD OUT。
2019年、Bird Bear Hare and Fishの活動と並行し、各イヴェント、夏フェスへの参加など、積極的なライヴ活動を行なっている。
同じフィラデルフィアのスタジオで録音していた2バンド
――今回の対談はROTH BART BARON(以下、ロット)がMikikiで連載しているブログに掲載されるんですけど、そのタイトルが〈ロット熊戦記〉で、直訳したらwarbearじゃんっていう(笑)。warbearという名前にはどんな由来があるんですか?
尾崎雄貴(warbear)「実は熊とはあんまり関係なくて……バンド名何がいいかって息子に聞いたら、〈ウォーベア!〉って言ったんで、warbearにしようかなっていう」
三船雅也(ROTH BART BARON)「かわいいな、理由が(笑)」
尾崎「〈戦うクマさん〉っていいなあと思って」
――対バンは今回初めてとのことですが、尾崎くんはロットの音楽はどの程度聴いてましたか?
尾崎「『ATOM』(2015年)をiTunesで見かけて、あのロボットが出てくるみたいな感じのジャケットに惹かれて聴いてみたら、〈え、これ日本のバンドなんだ!〉と思って、それが最初かな」
――当時はGalileo Galilei(以下、ガリレオ)として活動していて、いわゆる〈邦ロック〉みたいなバンドが周りに多かった中で、〈仲間がいた!〉みたいな?
尾崎「逆に、こういうことやってる人たちだからこそ、僕らが〈仲間だ!〉っていう気持ちで会っても、冷たいんだろうなっていう……」
三船「そういうこと思うんだ(笑)」
尾崎「ストイックな人たちであってほしいなっていう気持ちがありましたね。そのときは、そういうほうがかっこいいと思ってたんで」
三船「尾崎くん、何年生まれですか?」
尾崎「91年ですね」
――ガリレオはデビュー早かったですしね。
三船「だから、ガリレオの曲を自然と何曲か聴いてて、〈声がきれいだな〉って思ってました。本格的に聴いたのはwarbearになってからで、ある日突然、ブライアン(・マクティアー)からメールがあって、僕らはファースト・アルバム(2014年作『ロットバルトバロンの氷河期』)をブライアンがフィラデルフィアに持つ〈Miner Street Recordings〉で録ったんですけど、〈おまえオザキっての知ってるか? また日本人バンドに関われるのが俺はすごく嬉しい〉って。で、〈尾崎くんはGalileo Galileiっていうバンドやってて、すごく有名なんだよ〉みたいな話をして」
尾崎「そうだったんですね」
三船「で、warbearの音源を実際聴いたときに、〈この音知ってるぞ〉って思って。サックスが入ってきたときに〈この鳴り方、体で知ってる!〉って思った。そこで何か繋がった感覚があったというか」
――尾崎くんはwarbearのミックスをブライアンに頼む段階で、ロットがファーストをブライアンで録っていることは認識してたんですか?
尾崎「知りませんでした。でも、ブライアンとやり取りを進めていく上で、あっちから〈君たちのことは知ってた〉って言ってきたんですよ。〈ROTH BART BARONってバンドから聞いた〉って。だから、〈伝えてくれてたんだ!〉って思って、勝手にすごく感謝をしてたんです。そのおかげで、やり取りがすごいスムーズだったので」
三船「じゃあ、最初に尾崎くんからオファーが来たときに、相談みたいな形で俺にメールが来たのかな。ところで、そもそも何故、Miner Street Recordingsのブライアンにミックスを頼んだのかすげえ聞きたかったんですけど」
尾崎「もともと自分たちでミックスをやってたので、勉強とか研究も兼ねていろいろ調べてたときに、ブライアンさんがやってる〈WEATHERVANE〉っていう団体を知って」
三船「あのドキュメンタリーみたいなのを作ってる……」
尾崎「はい。それを見つけて、その有料会員になったんですよ。有料会員になると、スタジオで録った音のパラデータとかを落とせるんです。なので、いろいろ研究になるかなと思ってそれに加入したら、ブライアンさんから連絡がきて。〈日本からの登録は少ないから、なんで登録したのか聞きたいんだ〉って。あと、そのドキュメンタリーの映像にブライアンさんが出てくるんですけど、その眼がすごくかっこよかったし、機材をいろいろ使ったり、的確なアドヴァイスをしたり、クリエイティヴな人だなと思って。で、話をしてみたっていう感じですね」
尾崎「僕らは自分たちの家のガレージのスタジオで録った音を彼に送って、ミックスしてもらったんですけど、ミックスの様子を動画で送ってくれて。で、トラックの1個にローランドのテープエコーをかけてすごい飛ばしたりとかしてて。それがすごく嬉しかったんですよ。クリエイティブで繋がれたんだなって」
三船「曲を作っている人間からすると、倍返しにしてくれる感じがすごく嬉しいし、自分の予測を超えたところでクリエイティヴが起きるから、人とやる意味があるなっていうかね。じゃあ、実際のスタジオには行ってない?」
尾崎「行ってないんですよ。レコーディングが終わったあとに、〈ドキュメンタリーに出てみないか?〉っていう話が来たんですけど、タイミング的に行けなくて」
三船「今度みんなで行きたいっすね。下に泊まれるんですよ」
尾崎「スタジオって一軒家なんですか?」
三船「そう、一軒家で、普通に周りに家とかあるんですけど」
尾崎「ビルの中にあるみたいな感じじゃないんですね」
――尾崎くんは地元の札幌に〈わんわんスタジオ〉を構えているわけですが、そこはどんな環境なんですか?
尾崎「もともとガリレオのときにメンバーで住んでた家があって、三階建ての一軒家なんですけど、その一階の車庫を改造して、プライヴェート・スタジオとして使ってる感じですね。全部自分たちで完結できるようにしたいっていうのがあったんです。スタジオを押さえて、そこにいるエンジニアの人とやるのが苦手というか、自分たちのタイミングで自分たちでやりたかったので。なので、小さいけどいろいろスペースも工夫して、防音も工夫して……お隣さんに怒られないように(笑)。〈サンレコ〉に載っている海外のクリエイターのスタジオみたいな、おしゃれな感じではまったくないです。毛布を窓に貼って、どうにか外に音が漏れないようにしてたり、天井にマイクを吊るしたいから貼ったガムテープがベタベタだったり。でも、それが自分にとってはすごく落ち着く場所なんです」
三船「僕も小さいながら自分の家にスタジオがあって、〈BEARBASE〉って言うんですけど、そこの環境づくりをする上では、〈Miner Street〉のスタジオに影響をすごく受けました」
現行のラップにシンパシーを抱けるのは〈歌心で聴ける〉から
――三船さんはwarbearやBird Bear Hare and Fish(以下、BBHF)の音源を聴いて、どんな印象を持ちましたか?
三船「warbearはパーソナルなテーマがすごくあって、尾崎くんの中に一歩踏み込んでしまうというか。それはちょっと怖さもあるし……ダークっていうじゃないんだけど、純朴なアルバムで。BBHFはやっぱりバンドだから、ジャケットもそうだけど、カラフルというかね。トラップみたいな音も入ってるし、バンド・サウンドからエレクトロニックに花開いてる感じとかがすごくおもしろいなって思ったし、BBHFのほうはエンジニアも3人いるから、単純に関わっている人が増えたことの強さが表れてるのかなって思ったり」
――BBHFの『Moon Boots』(2018年)にはカニエ・ウェストやプッシャTの作品に関わっているアンドリュー・ドーソンが参加していて、ロットの『HEX』には、チャンス・ザ・ラッパーやノー・ネームの作品に関わっているエルトンミックスエディット(L10Mixedit)が参加していて。つまり、新作にヒップホップやR&B寄りのエンジニアが参加しているというのも、お二人の共通点だなと思ったんですけど、尾崎くんがアンドリューを起用したのはどういう理由でしたか?
尾崎「僕はもともとヒップホップを全然聴いてなかったんですけど、カニエ・ウェストから聴きはじめて。そこでやっと聴き方がわかったっていうか、それからすごく聴くのが楽しくなって……」
――カニエのどのアルバムから聴いたのでしょうか?
尾崎「ポップ・エトセトラのクリス・チュウがプロデュースしてくれたときに、『808s & Heartbreak』(2008年)を聴かせてくれたんですけど、そのときはピンとこなくて。でも、少し経って聴き返したときに、〈すごく良いな〉と思ったんです。で、BBHFのギターのDAIKIがヒップホップ詳しいので、彼に色々聞いたりして……個人的に、音楽を人に紹介してもらうのがすごく好きなんですよ。良い友達から紹介された音楽は、特別になったりするから」
三船「僕もちょっと前までヒップホップは全然聴いてなかったんですけど、『ATOM』を録りにモントリオールに行ったときに、空き時間にフェスに行ったら、ケンドリック・ラマーがめちゃんこ人気で。しかも、黒人の子が騒いでるんじゃなくて、白人のティーンの子がめっちゃ騒いでて、〈なんだこりゃ〉と思って。それからちゃんとというか、それこそ〈聴き方がわかった〉じゃないですけど……」
――さっきの尾崎くんの話にも通じますね。
三船「ここ最近のヒップホップの子たち、特にシカゴは、わりと僕らが親しんできたインディー・ロックのフィルターを通してサウンドメイクをしてるから、俺からするとあれはヒップホップじゃなくて、インディー・ロックに聴こえる。フランク・オーシャンもフォーク・シンガーだと思ってて。あとは、アジカンのGotchともよくこの話になるけど、どんどんハイレゾになってきた音響に対しての、ベース・ミュージックの低音の力強さがあったり、RECしてその日のうちに配信しちゃうみたいなフットワークの軽さとかが、バンドより全然クイックで」
――その実践として、エルトンに頼んでみたと。あんまりヒップホップとして捉えてなくて、むしろインディー・ロックの流れを汲んだものとして捉えているというのは、尾崎くんもそういう感じだったりしますか?
尾崎「難しいな……ヒップホップが好きになって、自分が聴いてきたインディー・ロックとの繋がりを感じたりもするんですけど……根本の部分にブルースを感じるというか。ラップっていうのはあんまりピンときてなくて、〈歌心〉のあるヒップホップがすごく好きなんです。バックトラックを作る人がいて、それにその歌っていうか……乗せる人がいてっていう、その関係性もすごくおもしろいし……〈歌心で聴いてる〉って感じなんですよね」
三船「すげえわかる。いまのヒップホップって、現代的な音楽に捉えられがちですけど、さっき言ったブルースとかR&Bの節回しだったり、教会でみんなでコール&レスポンスをして高め合っていく、チャーチ・ミュージックの流れをすごく汲んでて。その〈反復の美学〉みたいなのを、いまのMacBookで作ってるだけというか、実はすごくルーツがあるものだから、動じないっていうかね。すごく歴史のある音楽をやってるって考えれば、単純にソングとして楽しめるっていうのは、すげえわかる」
僕らは〈真心〉を探究し続ける
――尾崎くんは70年代のシンガー・ソングライターが好きで、warbearにしろBBHFにしろ、その影響はありますよね。やはり尾崎くんにとっては〈歌心〉が音楽を作る上での中心にある?
尾崎「そうですね。歳をとっていくごとに、それがどんどん大きな部分を占めていって、最終的には〈歌心〉のみになるんじゃないかなって。色んなことをやりたいっていう気持ちも自分の中にはあるんですけど、やっぱり〈歌心〉を追求していきたい。なので、いまはヒップホップを〈歌心〉という部分で噛み砕いて、どんなことができるかっていうのをいつも考えてる感じかな」
――それは突き詰めた話、〈弾き語りでもすべて表現できる〉みたいな話なのか、〈自分なりのやり方で歌心を表現できるようになりたい〉みたいな話なのか、どちらに近いですか?
尾崎「言いはじめたら何にでも当てはまるんですけど、ギターもそうだし、ドラムもそうだし、全部の楽器に〈歌心〉があると思っていて、〈歌心〉がない人と〈歌心〉がある人っていうのは違うと思う。弾き語りですべて完結するとは絶対思わないし、自分がライヴを観に行くにしても、弾き語りよりもバンドを観に行きたいんですけど……〈歌心なんだよなあ〉って、いつも思いながら過ごしてます(笑)」
三船「〈歌心〉って、合ってるか分からないけど、〈FEEL〉に近いというか。その感覚を大切にして、歌を歌ったり、ギターを爪弾いたり、シンセサイザーの音色を作ったり、空気感だったりとか……それを全部ひっくるめて、大きな意味での歌心というか……真心があるかどうかっていうことだと思うんですよね」
尾崎「〈真心〉ってすごく近いかもしれないですね」
三船「海外のエンジニアを起用するのも、アメリカに行きたいとか、外国人のフリをしたいとか、そういうことじゃなくて、たまたま彼らが良い音を作ってて、なんか心に響いちゃったんですよ。だから、そのエンジニアさんに会いに行きたかったし、やってほしいと思ったし。そうやって音楽を自分が作って、勉強になって、さらに良いものが出来たらいいなっていう、ただそれだけでしかない。今日話して、いまそういう決着に至りました(笑)」
――ただの熊繋がりではなく、この2組は〈歌心〉で繋がっていると。
三船「なんかそんな感じがしましたね。バンドもやりながら、warbearはwarbearでずっとやっていくんですか?」
尾崎「そうですね。すごい言い方ですけど、もしもBBHFが解散してもwarbearは残そうと思ってます。僕自身のプロジェクトなので。僕が音楽を辞めようと思ったら辞めるかもしれない。まあ、そんなこと絶対思わないんですけど」
三船「じゃあ、尾崎くんそのものだね」
尾崎「はい、そう思ってます」
三船「BBHFもすごく好きだったんだけど、warbearのアコギの〈FEEL〉がすげえ好きで、日本でこんな音なかなか聴けねえなと思った。なので、あの音がライヴでどういうふうに鳴るんだろうっていうのが楽しみだし、あとは機材の話もたくさんしたい。ライヴも楽しみだけど、ライヴの後も楽しみだなって」
――warbearのアルバム・リリースからは一年半くらい経ってるわけですけど、ライヴはどんなモードになりそうでしょうか?
尾崎「新曲を結構やろうと思っていて……あとカヴァーか。次の作品の方向性がちょっと見せられるんじゃないかなと思ってます」
――ロットはつい先日ツアー・ファイナルがあり、また新たなフェイズに入っていく最初のタイミングかなと思いますが、どんなライヴになりそうですか?
三船「ツアー・ファイナルと言いつつ、新曲もガンガンやっちゃったんで、次も新曲をガンガン見せつつ、これまでのも見せつつ、かな。でもwarbearが好きなお客さんと僕らのお客さんの良いハーモニーが生み出せるように、どうお互いの世界を綱渡りのように渡って、繋いでいくかを大事に作っていきたいなというのもある。なので、新しいモードを見せるところもちょっとはあるだろうけど、全体としては、みんなで一つの流れを作っていくみたいなセットにしたいなと思っています」
――ちなみに、その日はそれぞれ何人編成になる予定なんですか?
尾崎「今回は6人編成です」
三船「うちも6人です。ロック・ロック・クマ対決ですね(笑)」
――(笑)。対バン、楽しみにしております。
LIVE INFORMATION
〈FEVER 10th ANNIVERSARY "on tabuz ten"〉
2019年6月6日(木)東京・新代田FEVER
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:3,900円/4,400円(いずれもドリンク代600円別)
出演:warbear/ROTH BART BARON
★公演の詳細はこちら