波瀾万丈なれど実り多き7年を通じて、アシンメトリーな〈ふたりでひとつ〉を貫いた鳥取のアイドル・ユニット。数々の名曲を残してきた彼女たちに最後のインタヴュー!

 井次麻友と藤井美音のコンビで鳥取を拠点に活動してきたアイドル・ユニット、Chelip。2012年8月24日の活動開始から7年、それ以前に遡れば10年に及ぶ関係を培ってきた2人でしたが、5月2日に地元で行った定期公演にて〈アイドル活動の引退〉という言葉で活動の終了を報告しました。最後の舞台となるのは、8月31日に行われる鳥取・米子市公会堂 大ホールでのワンマン。それに先駆けてメモリアルなベスト・アルバム『LAST FIRST - CHELIP ALL TIME BEST -』を完成させた彼女たちへの、これがラスト・インタヴューです。

Chelip LAST FIRST -CHELIP ALL TIME BEST- doles U(2019)

 

みんなと一緒に作ってきた

――前提として、引退を決断されるに至った詳細は明かさないということですね。

美音「はい。けど、もちろん突発的に決めたことではなくて。まあ、ずっと私たちの活動って安定してる時期は全然なかったので、特にdoles Uさんから出す前は、いつ解散してもおかしくなかったですし。その間には私の進学もあったし、それこそデビュー半年くらいで麻友も高校卒業してどうするかっていう時期もあったりしたから」

麻友「すぐ卒業したからな」

美音「そうそう。だから、ずっと隣り合わせにはあったんだけれども。まあ、アイドルさんの終わり方もいろいろですけども、自分たちはファンの人たちや関係者の方が気持ち良く見送れるよう、キレイに終わりたいっていうのが2人の中にあって」

――決定した時期を明かさないのもそういう美意識ということですよね。

美音「はい。やっぱ自分たちの使命はみんなを楽しませることだから、それも〈キレイに終わりたい〉のなかに含まれてます」

――例えば〈解散〉とか〈無期限活動休止〉ではなく〈アイドル活動引退〉っていう言葉を選ばれた意図は何でしょう?

美音「はい。ここまで7年、みんなと一緒に作ってきたChelipっていうのを、〈解散〉っていう言葉でなくすのもやっぱり寂しいし、だからって〈休止〉ってなると、〈また復活するのかな?〉っていう」

麻友「期待がね」

美音「うん。だから〈アイドルを引退する〉っていう言い方が私たちにはいちばん合ってるなって思って。あと、私たちが歌ったり踊ったりしないっていうだけで、曲はずっと生き続けるので、Chelipっていう存在が残っていれば、みんながそれを中心に繋がっていることもできると思ったので」

――はい。で、まさにそんな楽曲たちが初のアルバム、ベスト盤にまとめられて。ほぼ全シングルが並んでますけど、改めて自分たちの曲を振り返ってみていかがですか。

美音「いや~、曲順がもうリリースの順番そのままなので、あの、最初のほうは歌がホント下手だなって(笑)」

麻友「歌ってないしな、ほぼ」

美音「2回くらい歌って、それを加工しただけなので。ピコピコしてるし」

――そういう感じだったんですね。

美音「だから成長も如実にわかるし、でも最初に“アシンメトリー”(2012年)があったことによって、それ以降のChelipの傾向というか、ちょっと踊る感じの曲とかができたから、自分たちの歌の感じを作ったのは“アシンメトリー”だと思うし。だから作家さんも毎回違うし、曲調もいろいろあるんだけれども、どれもChelipの曲だなって、全部を通して思えますね」

――確かに、どの時代でも大きい意味でのカラーは共通してるように思えますね。

美音「Disc-1の曲はどのシングルも同じレーベルじゃないのに(笑)」

麻友「ヤバイよね。それ、ヤバイんだ」

――いろいろ紆余曲折もあって。

美音「逆に、引退するからこそ、こうやってひとつの作品にまとめることができたと思うんですよね。その、いろいろ」

――権利関係もあるでしょうし。

美音「はい、〈Chelipの曲、最後にアルバムにしてあげよう〉って関係者の皆さんが思ってくださったからスムースに運んだことだと思うので、そこはファンの皆さんにもプラスに思っていただけたら嬉しいです」

――麻友さんは聴いてみてどうですか?

麻友「全部聴いても似たような曲がないですよね。好みはありますけど、やっぱり。“希望交響曲”(2015年)とか好きです。あと“サマータイムシンデレラ”(2018年)も……あ、これ全部言わんといけないんか」

――(笑)美音さんが印象的な曲は?

美音「ん~、選ぶのは難しい。まあ、私の場合は一曲一曲が気持ち的に戦いだったので、それぞれの曲に〈最初は歌えなかったな〉とか思い出があって。〈Chelipは歌が上手いね〉って言っていただけることがあるんですけれども、私自身はホントにヘタクソなんですよ。けど、作家さんが自分たちに寄り添って作ってくださるから、難しいけど歌いやすいですし、自分でも一生懸命に表現したいって思えるから、Chelipの歌だから私は歌えてるので。例えば、“フラッシュバック”(2018年)は難しかったけど、凄い歌いやすくって、表現に意識が向けられた曲だったりしました」

麻友「うん」

美音「で、そうやって歌に向かう姿勢が変わった曲ってなると、麻友と同じシングルからになりますけど、“again”(2015年)ですね。やっぱそれ以前の曲って私の声が低くて音域も狭いので、どうしても麻友がメインで歌って、私がハモる歌割が多かったんですけど、“again”は2人共が歌いやすい音域で作っていただいて、サビの最後の〈行かないで行かないで〉のところを多く歌わせてもらったり、初めてちょっとメインで歌わせてもらえた感のある曲だったので、思い入れも強いですし、レコーディングも凄い時間かけてやったのを覚えています」

麻友「確かに。懐かしいな」

美音「やっぱ最初の頃は生歌でやることを前提にしてなかったので、表現とか歌に向き合うっていう意味で、それ以降のChelipを作ってくれたのが4枚目のシングルかなって思います」

――そこがあったから、このDisc-2収録曲のようなChelip感も出来上がって。

美音「まあ、このへんからいまの私の歌い方になって。強く太く、みたいな(笑)」

麻友「安定してきたな」

美音「安定してきた(笑)」

 

終わるけど終わらない

――そんなDisc-2には新曲が2つ入っていて、まず“君へのprologue”は、“輝る風の中の全て”(2017年)に続いて小林清美先生が作詞作曲されたバラードですね。

美音「はい。きよきよが〈Chelipに最後に贈りたい曲〉って。だから、私たちが曲調を指定したというよりかは」

麻友「清美が」

美音「Chelipに作りたい曲を作っていただいたっていう感じです。まあ、そんなテンポ遅くなりすぎず、くらいの要望で」

麻友「ややバラードめで、ぐらいの」

――これは歌詞も印象的です。

美音「はい。まず、悲しい気持ちになってほしくなくって。悲しいけど、それぞれがんばっていたら、どこかで会えるかもしれないし。そういうポジティヴでいたい気持ちを、きよきよが汲んでくれて、たぶん」

麻友「うん」

美音「だから、寂しいけど寂しくないよみたいな、言葉では矛盾してますけど。寂しさがあるからこそ得られるものもあるんじゃないかなっていうイメージですね、私は」

――お二人が互いにかける言葉みたいな意味合いも感じますし、もちろんChelipとファンの皆さんの関係でもあるし。

麻友「うんうん」

美音「そういうところも掛けて。自分たち同士もあるし、きよきよからChelipへ向けてもあるし」

麻友「確かに、ホントだ! 良い曲かも」

美音「いや、でも高いんですよね、これがまたホントに」

麻友「高い、高い!」

美音「この前も米子に来てくださって、ちょっと練習をしたんですけど、最後なのに高くて私が歌えなくて号泣みたいな(笑)」

麻友「アハハハ。全部ハモリだもんね」

美音「そうね。だからサビもハモリにして」

麻友「いや、高いよ。麻友も出るかわかんないもん。風邪引いたら終わりだな」

美音「まあ、毎回そんな感じですけど(笑)」

――はい。で、もう1曲の“Partyは終わらない”は、“it's SHOWTIME”(2016年)に続き筑田浩志さんならではのディスコで。

美音「これ、実は以前からあった曲だったんです。Bメロの掛け合っていく展開とか最初に聴いた時から凄くカッコイイって思って〈どうしても歌いたい!〉って思ってたんですけど、話が途中で宙ぶらりんになっていて。その後でやっぱり筑田さんにお願いしたくて、“it's SHOWTIME”を作っていただいたという流れでした」

――そういう順番だったんですね。

美音「筑田さんも前に酔いながら〈これイイ曲だから本当はコンペ出したいんだよ~〉とか言ってて(笑)」

麻友「言ってたな、ふざけんなよ~(笑)」

美音「でも、〈これはどうしてもChelipで歌いたいから出さないでください〉って言ってて。今回はいろんな偶然が重なって、〈最後にどうしても歌いたいよね〉ってことで歌わせていただけました。歌詞は当時のものとは変えてもらいましたけど」

麻友「メロディーはほぼ変わってないな」

美音「レコーディングまでは行ってなかったけど、もう練習もしてたので、その練習の癖が残ってて、ちょっと昔の歌詞で口ずさんでしまったり(笑)」

麻友「逆に昔の歌詞覚えてるのスゲエな」

美音「それぐらい歌いたかったので」

――歌詞はけっこう変わったんですか?

美音「もう全体的に変わってます」

麻友「そうだな。でも、〈麻友と美音とパーティー!〉ってとこだけ変わってない(笑)」

美音「そうそう、〈ここ恥ずかしいんですけど……〉って言っても筑田さんが絶対変えないんですよ。当時から〈ちょっと変えてもらえませんか?〉って言ってたけど(笑)」

麻友「逆にカッコイイな。いまとなってはめっちゃ良い気がする、うん」

――ここにきて名前の入る曲というのがアイドル感というか、なかなかないですよね。

麻友「ないでしょ(笑)」

美音「攻めてる。〈俺たちの曲だぜ~〉って」

麻友「だよ、まさしく」

美音「まあ、デビュー曲がもう“Che Che Chelip ~魔法のコトバ~”(2012年)で突き抜けてたんで(笑)」

麻友「なあ? 言いすぎでしょって。当時はそんなん言えんかったけどな(笑)」

――これはChelipらしいノリが集約されたというか、最後に〈終わらない〉って賑やかに歌うのも良い終わり方ですね。

麻友「うんうん、良い終わり方だと思う」

――出したかった曲がここで出せるようになるっていうタイミングも運命的ですし、単純に改めて聴くと良い曲ばっかりで。

美音「そうですね。これは1人でも多くの人に届くことが意味のあるアルバムだと思ってるので。だからもう、アイドル好きな人は全員買ってねっていう感じ(笑)。アイドル好きならChelipも知っといてよ、って。誰が聴いても一曲はお気に入りがあると言えるくらい幅広い曲を歌わせていただいたので。そうやってこのCDがもう名盤と呼ばれるやつになって残っていったら嬉しいし、ここまで作家さんがいろいろで、全曲がA面みたいなアルバムはないと思うので」