ビートルズの遺伝子を受け継ぐザ・ミスティーズがデビュー!

 今秋は『アビイ・ロード』50周年記念版の発売と、世代を超え、今も音楽界に大きな存在感を持ち続けるビートルズ。彼らが残した作品は幅広い音楽への関心と探究を急速に広げて生まれた多彩なもので、70年代以降のロックの様々なスタイルの基礎となった。

 とはいえ、世界が最初に夢中になったのは、たちまち耳をとらえるフックを持つメロディックかつビートの効いたヒット曲の数々で、そのポップな曲を作るソングライティングの見事な腕前こそがビートルズに大成功をもたらした。恋焦がれる思いから、失恋の悲しみや後悔、現状への不満と将来への不安といった、時にネガティヴな感情を表現する歌詞すら、美しいメロディとハーモニーを軽快なビートに乗せたサウンドが聴き手をわくわくさせるというポップの魔法いっぱいの曲のスタイルは、70年代以降はその後継者たちに「パワー・ポップ」という名称も与えられ、音楽界の変わりゆくトレンドとは別に、不変の魅力を持つ音楽として愛され続けている。

 そんなビートルズのポップな遺伝子を引き継ぐアーティストやバンドを紹介していく「BeatleDNA」という企画をソニーが始める。新人の紹介、過去の名作の再プッシュ、そして、知る人ぞ知るアーティストの日本企画盤(マイク・ヴァイオラなど)と多彩なラインアップが予定されており、実に楽しみだ。

THE MISTIES Driftwood  ソニー(2019)

 その第一弾として日本先行で発売されるのが、ザ・ミスティーズのデビュー・アルバム『ドリフトウッド』。瑞々しいメロディとキャッチーなフックを持つキラキラしたポップが満載の1枚だ。デビュー作にして、この完成度と驚くなかれ、このバンドの実体は元トランポリンズのヨハン・ステントープのソロ・プロジェクトなのである。トランポリンズといえば、スウェーデンのポップが注目された90年代に、日本でデビュー・アルバムを10万枚売るほどの人気を得たバンドだった。ヨハンはバンド以外でもソングライターやプロデューサーとして活躍したが、しばしの充電期を経て、6年前から「自分が一番好きなスタイルで」「自分の声のために書かれた曲」を歌う新曲を少しずつ録音していたという。本作はそこから選ばれた「ハーモニーを多用して、ちょっとしたひねりを効かせた、妥協のないポップ」がたっぷり詰まっている。

 確かに、そのポップな音楽は「ビートルズ直系」だが、ヨハン自身も認めるように「80年代のレノン&マッカトニー」とも呼ばれたディフォード&ティルブルック率いるスクイーズなどの影響も明らかだ。ビートルズを原点に脈々と続く「パワー・ポップ」の流れが積み重ねてきた遺産を糧にした作品でもあるわけだ。「BeatleDNA」シリーズの幕開けにまさにふさわしいアルバムと言えよう。