インタビュー

Omodaka 『Gujoh Bushi』 伝統と革新を融合させた日本音楽の新たな形=キメラ民謡

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Ⓒ2019 PLUG FLOWSHOW
 

自分が食べてみて美味しかったもので寿司を握る

――見た目も特徴的ですが、個人的には一番最初にライヴを拝見した時に一曲目が“三階節”という曲で、あの曲の和声に衝撃を受けました。ブルガリアン・ヴォイスとか、日本古来の和音にも通じるような、ああいった独特の和音の使い方はどこから来てるんですか?

Boiler Room Tokyoでのライヴ映像。一曲目が“三階節”

 

「民謡っていうのは旋律は洗練されて聴こえるんですけど、一方で和声とかリズムというのはあまり民謡にない部分なんですね。だからそういった磨かれた旋律には、全然違うところから持ってきたヴォイシングをはめられる〈隙間〉があると思ったんです。“三階節”の和声も民謡由来のものではなくて、どちらかというとジャズ・オルガンの和声とか、賛美歌の和声とかから来ていて。でもそういった和声を民謡に持って来ても、ものによってはピッタリはまることがあるんです。あの曲は特にジャズのオルガンと教会のオルガンの間をいってます」

――一歩間違えれば音と音がぶつかって気持ち悪くなりそうな、ギリギリのところでの気持ち良さがありますよね。他の楽曲も、ベースはそういった音楽なんでしょうか?

「基本としては、他の曲から持って来たコード進行を民謡に乗っけてみて、相性が合うものを探すみたいなことをしています。たまに作ったオケの上に金沢さんが即興で歌を乗っけてくれる場合もありますけど」

――本作でもマンボだったり、ボサノヴァ的なフレーズだったり、さまざまなジャンルを取り入れていて、世界中の音楽を研究されているように思います。

「そんなに研究してるってわけじゃないんですけど(笑)、ただ〈ここが好きだな〉っていうコード進行の上に、いろんな民謡を乗っけてみるっていうことを繰り返して、合う組み合わせを見つけていくだけなんです。もちろんそれも研究とか実験みたいなものかもしれないけど、自分が食べてみて美味しかったもので寿司を握ってるみたいな、そういう感じかな」

――例えばジャズとロックなんていう組み合わせは、もう何人ものアーティストが試して取り入れてきたものだと思うんですが、民謡とマンボ、それにチップチューンを組み合わせる人なんてなかなかいないと思うんです。その一方で民謡がいろんなジャンルと合いやすいのは、口伝ゆえに伴奏がないものが多いからかなとも思います。

「そうなんですよね。ただ民謡は口で伝わっていったものだから、同じ民謡でも各地方によってちょっと違ったりとか、伝承する人が絶滅寸前のものがあったりとかもあって。それが20世紀になって印刷技術と録音技術が発達したから、民謡を五線譜に記したり、録音したりして残すという動きができて。それで民謡は残っていったんですよね。

(今作にも収録されている)“こきりこ節”について印象的なエピソードがあって、実は“こきりこ節”って1800年くらい前からある歌らしいんですけど、ある時、富山県に歌えるおばあちゃんが一人しかいない状態になってしまって、昭和にそれを記録した人がいたおかげで絶滅しないで済んだらしいんです」

本作収録曲“こきりこ節(静かな調べ)”
 
“こきりこ節”『さのさ』(2011年作)収録ヴァージョン
 

――おお、それはOmodakaの活動に通ずる部分もある気がします。一方で、“ちゃっきり節”のように伝統民謡ではなく昭和に生まれた〈新民謡〉も扱っていらして。

「“ちゃっきり節”が新しい民謡だというのは自分も知らなくて、金沢さんに訊いて初めて知ったんですが、そういうことも多いんです。 “ちゃっきり節”は作曲者の町田嘉章が亡くなってまだ50年も経ってない、昭和の民謡なんですよね(作詞は北原白秋)。この町田嘉章という人も、作曲家のみならず地方の民謡を採譜していく活動を続けた研究家で、もしかしたら“ちゃっきり節”の原型はどこかの民謡かもしれない。いまで言うリミックスとか編集的なことをして生まれた曲かもしれないし、そういうところにおもしろさを感じるんですよ」

本作収録曲“ちゃっきり節”
 
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民謡歌手・金沢明子との出会い

――金沢明子さんの歌は、あらかじめ用意されているんですか? それともOmodakaのために歌っていただくのですか?

「Omodakaで発表するものはOmodakaのために録っています。でもさっきも言ったように〈この曲にこのコードは合うか〉っていう実験をするために、純邦楽の伴奏で金沢さんに歌っていただいて、その歌をアカペラにして抜き出して、それを使って曲を作るということもあります。その上で、形ができたらもう一度歌い直してもらうこともあるし、そのまま使う時もあります」

――金沢さんといえばすでに民謡界のレジェンド的存在ではありますが、改めて金沢さんの声の魅力というのは何でしょう?

「金沢さんは、声のトーンも歌の表現力も素晴らしいっていうのはもちろんありますが、その他にも、何かのリズムやバックトラックを聴いただけですぐにメロディラインを思い付くっていう、ジャズ的な即興、インプロヴィゼーションの部分がすごく冴え渡る人です。ラッパーがトラックを聴いたらすぐラップを始めるのと同じくらいのレスポンスで、別の曲の上で民謡を歌い出すような方です。いわゆる〈歌手〉と言われている人以上のものをお持ちの方だなと思います」

――Omodakaのトラックによって、金沢さんの歌い方や節回しは変わるんですか?

「そうですね。最初の仮歌から歌い直してもらう時に、トラックに合わせて意図的に歌い方を変えるというのはよくあります。それが逆にハマりすぎて、元の歌を使うという場合もあるんですけどね」

――それは金沢さんにとっても寺田さんにとっても、結構な労力を使う作業ではないですか?

「そういう時もあるし、意外とすぐにできてる時もあります」

――またライヴで使用される映像にも金沢さんはたくさん登場しますよね。観ている側としては、金沢さんをあそこまでイジっちゃっていいのかなとも思います(笑)。

「企画段階から、金沢さんがステージで歌うというのはできないと言われていたんですが、映像として登場するのは了解をもらっていて。曲ごとに結構違うメイクとヘアースタイルで撮影するんですけど、〈この曲はこういうほうがおもしろい〉っていうアイデアは金沢さんからノリノリで出てくるんです。だから〈うわ、こんな恰好でやってる!〉って思う部分は、実は金沢さん本人のアイデアですね」

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――そうだったんですね。そもそも寺田さんと金沢さんとの出会いは?

「金沢さんの歌を聴くきっかけは、90年代の始めに金沢さんのハウス・ミックスを作るっていう企画のアルバムがあって(『金沢明子HOUSE MIX 1』)、それに参加したことですね。それまで自分は民謡を聴いたことがなかったんです」

――いまでは金沢さん抜きでは考えられないプロジェクトですよね。

「Omodakaは映像も含めて金沢さんに歌っていただいているので、金沢さんの協力なしにはできないですね」

――今作に収録されている“十三みれん”は、オリジナルは金沢さんの楽曲で、その編曲を寺田さんが手掛けたんですよね。

「ええ。“十三みれん”は自分が編曲をしました。ディレクターの方も理解があって、普通は作曲者のつけたコード進行を変えるっていうのは編曲ではやらないことですけど、そういうこともOKだったんです。で、今回のアルバムが〈これで完成かな〉という時に、民謡以外の全然毛色の異なるものも欲しいなと思って、それで金沢さんの曲をOmodakaでカヴァーするっていうことを思い付いたんです。〈へんてこでいいかな〉って。歌も金沢さんに改めて歌っていただいて」

――原曲とは全く異なるドラムンベース調になりましたね。何も言われなければOmodakaの曲だけど、原曲を知ってると違いに驚けるという。

「そうなんです。元の曲と聴き比べてもらえたらおもしろいと思います」

金沢明子“十三みれん”(2013年)
 

本作収録曲“十三みれん”
 
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