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実験を経て、また肉体的なギター・ロックに向かった

――サウンドのほうは、単に『Mirror Mirror』と対照的な志向を打ち出したわけではなく、前回バンドとして消化したエレクトロニックなプロダクションをふまえ、あらためてギター・ロックに向かった感じがします。

雄貴「サウンドはそうですね。でも曲自体は『Family』の収録曲のほうが先に出来ていたんですよ。今回は(北海道の)旭川にある一軒家を借りて、4人で1週間くらい時間をかけて曲を仕上げていった。ガレージを家に改築したみたいな場所でいい雰囲気で書けました。僕の弾き語りやデモはすでにあったとはいえ、みんなで集まってゼロから曲を作り上げることは、実はあまりやったことがなかったんです」

『Family』収録曲“なにもしらない”

――今回は一部の曲のミックスは外部のエンジニアが手掛けていて、“真夜中のダンス”を担ったロブ・マレイというアメリカ人は初の起用ですよね。

雄貴「テキサスで釣りをしながら暮らしている人なんです。アマチュアも含めてエンジニアが登録しているサイトがあって、そこで見つけたんです。顔写真にピンときて(笑)。みんな澄まして卓の前でポーズを取ったりしているのに、何もない空間にまるっとしたオジサンがいて、しかも笑顔。〈この人はいい音を作るんじゃないか〉と思ったら、実際すごくよかった。巨大なバスを抱えている写真もあったんですけそ、そういう生活感や心が音に表れるような人が僕は好きだから、エンジニアもそんな人を見つけたかったんです」

――『Moon Boots』をバンドと共同プロデュースしたお馴染みのクリストファー・チュウも“水面を叩け”のミックスを担当しています。BBHFが経てきた変化を、気心の知れた彼はどう受け止めているんでしょう?

雄貴「クリスはいまの僕らの方向性を結構気に入ってくれています。あと、最近彼が一緒に仕事をしているタイのSTAMPというアーティストがいて、地元ではかなりビッグなんですけど、彼も〈『Mirror Mirror』を聴いたよ〉と連絡をくれたり、クリスの方面で広がってくれている印象がある。でもミックスを彼に依頼するのは初めてでした。今回は基本的にセルフ・プロデュースで、自分たちの責任の元に作りたかったので、ミックスだけどやってくれない?とクリスに訊いたら、やると言ってくれたんです。僕はクリスの音が好きで、彼の作品のデモ・ヴァージョンもよく聴かせてもらっていて、一人でやったときにどういう音を鳴らすのか知っているんですが、その音そのままだなという感じでした」

『Family』収録曲“水面を叩け”

――ちなみに『Mirror Mirror』を作っていたときは、メンバー全員がたまたまヒップホップを聴いていて、そのことが作品に反映されたとおっしゃっていましたよね。今回も何か全員が共通して聴いていて、何らかの形で影響を与えた音楽はあったんでしょうか?

雄貴「ヒップホップに関しては、僕個人で言うとヒップホップそのものではなく歌の感じとかリズム・マシーンの使い方が好きだったので、そこは継続して取り入れていると思います。でも、特定の作品からの影響は今回、何もなかったですね。いままでは何かを聴いて感銘を受けて、そこにレールを見出すようなところがあったけど、初めて〈〇〇みたいなもの〉というのがなくて。聴いているものと出てきたものの関係性としては、普段の自分が普通に好きな音楽があって、それと別に自分が作る音楽がある――という感じでした。

今作のサウンドのベースになっているいわゆるゲーテッド・スネアの音はフィル・コリンズに倣っているから、〈フィル・コリンズみたいな〉という会話はあるけど、楽曲全体の参考元としてアーティスト名が会話に出てくることはなく、それって結構いいことだなと制作中に思いました。だからこそ自分が聴いているものが、きっと予期していない形でじわじわと作品に出ているんだろうと思っています。それでいて、いま客観的に聴いても何に影響を受けたのかわからないから、そこはおもしろいですよね」

 

シンプルでストレートな言葉を使いたい

――歌詞については、何か軸はありましたか? 言葉の表現がストレートになりましたよね。例えば、“真夜中のダンス”にある〈心の中だけのダンス/今すぐ君だけの拍手を浴びたい/そうさ 浮かれているんだ/君の待つ家まですこし足早になる〉という愛情表現しかり、“なにもしらない”の〈考えるよりずっと感じれるようにありたい〉といった意思表示しかり。

雄貴「そうですね。〈パワーを感じさせる〉ってことを考えながら書いたと思っています。ドアを殴りつけるパワーとか、脱出するパワーとか、アクシデントから逃げるパワーとか、そうした何らかのパワーを意識しながら。細かいストーリーを綴ったり、特定の作品をオマージュしたりといった言葉遊び的な歌詞の書き方が好きだったんですけど、今回はそうじゃなくて、言葉のパワーを感じてほしくて。だからストレートな言葉を多く使うようにしていました」

――そういうアプローチをとったのは、何か新しいことをしたいという想いから?

雄貴「うん。実際ライヴで歌っていて、言葉を口にして、〈あっ〉と思う瞬間があるんです。そういう言葉はたいていストレートな言葉だったりして。普遍的で、ストレートな言葉。それをテーマとして一回やってみたいと思っていたので、『Family』の歌詞は基本的にそういう感じで書きましたね」

――実際、ヴォーカルが前面に押し出されたことも相俟って、〈自分はこれをしたい〉とか〈これを信じている〉とか、歌い手の人物像がかつてなく明確に打ち出されているような気がします。

雄貴「そうですね。例えば、良いか悪いかで言うと良い立場、正義の立場に立って歌うのではなく、間違っているけどそれが正しいと思っている人として歌う。その人は正しいと思って生きているわけだから。そういう人が周りの人を強引に説得する言葉ではなく、〈俺はこうだ〉と自分を表現するときの話し方を選んでいます。

じゃあ特定の人の歌なのかというとそうじゃないし、僕のなかのもうひとつの部分というのが歌詞になっていて。僕は基本的に自負できるくらいストレートな人間だと思っているんです。周りにはたぶん、結構面倒くさい人間だと思われているんだろうけど(笑)、個人的にはシンプルに生きていて、愛情表現も結構シンプルだし、シンプルに愛情で返して欲しい。猫か犬かと言えば犬が好きだし」