ROTH BART BARONの〈ロット熊戦記〉

ROTH BART BARON三船&優河の〈歌〉をめぐる対話「誰も所有できないけど、触れることはできる」

ロットバルトバロン三船雅也がお届けする世界音楽〈熊〉紀行:第十話

(左から)優河、三船雅也
 

さぁさ皆さん、やってまいりました、師匠も走ると書いて師走! 皆さんも忙しい日々をお過ごしだと思います。お待ちかね、〈熊戦記〉のお時間です。
バンドはやっとアルバムがリリースできました。アルバムが完成してよかったなーって安心してる暇もなく、三船もプロモーションツアーで北に行ったり南に行ったりあっちに行ったりこっちに行ったり。東京でもツアーが始まりました。まぁ、いつも通りです。

今回はロッ熊史上初の日本の女性シンガー! 優河ちゃんの登場です。
彼女の日本人離れしたとても美しい歌声と感性、なんでも小さい時は外国に留学した経験もあるとか。話してみると彼女はとても落ち着いていて、そのゆったりとしたペースに飲み込まれてしまいそうになるのですが、それがなんだか心地良くてですね。自分の心がまるでチューニングされるようになるんです。今回、僕らのアルバムでは“ウォーデンクリフのささやき”を筆頭にそれ以外の楽曲でもたくさん歌っていただいております。ツアーの浜松公演にもゲスト・アクトとして参加してもらいますよ。

さぁどんな話になるのやら。冬眠に失敗した2人の熊の優しい会話をお楽しみください。

 


誰かと一緒に音楽を作ること

――さきほど、シャムキャッツの夏目(知幸)くんと彼らのEP『はなたば』をプロデュースした王舟くんの対談を収録してきたんです。その2人が音楽制作の際、作り手は曲を大事にするあまりアンタッチャブルなものになりすぎて、それについて何かを言いにくかったりすることがあるよね、と話していて。

三船雅也(ROTH BART BARON)「言いづらくなるっていうのは作った本人がってこと? それとも周りが?」

――どっちもだと思います。アーティストが公開前の曲を誰かに聴かせてみたり、第三者がそれについてフランクに意見を述べたり、そういうのって意外とやりづらいものだなっていう。

三船「俺も絶対できないっすね」

優河「私もやだな。それはやだ」

――2人もそうなんですね。夏目くんたちが言っていたのは、だからこそもっと気軽に他者が関われたら、結果的に作品がよくなることもあるんじゃないかってことだったんだけど。ロットの新作には、優河さん含め多くの人が参加していますし、もしかしたら三船くんたちにもそういう意識があったのかなと思ったんですよ。それは、制作という構えた状況でなくとも、日常の友人とのやりとりが結果的に音楽に結びついていくということも含めて。

三船「自分のコミュニティーのことが音楽に反映されるかっていうことですよね」

――そういうこと。

三船「〈PALACE〉のメンバーにいま生きづらかったり閉塞感を感じるのはどうしてだと思う?と訊いたりはします。ちょっとした会話として」

――わりと重めの話ですね。

三船「それを重いとは思ってないんですよね。いま生きてるとあるじゃん?って。そこを放置せずに、試しによく見てみましょうってことですね」

――実際、みんな率直に語ってくれるもんなんですか?

三船「語りたい人が語ることもあれば、何もレスがなかったりすることも。みんなで一緒にイベントや、新しいグッズを作ろうみたいなトピックが、やっぱりいちばん話が弾みますね。妄想が拡がりすぎて受け止めきれないくらい(笑)。でも音楽の内容に関しては、ファンも触れたくない感があるかも」

――ファンとしては楽しみにとっておきたいってこと?

三船「そんな感じはします、だからギリギリまで触れずに、驚きたいというか」

――なるほど。優河さんの場合はどうですか? 基本的には自分1人で作ることが多いと思うんですけど、ロットのサポートもしている岡田(拓郎)くんとも一緒に作ってましたよね。そういうときは自分を曝け出すものなんですか?

優河「どうなんですかね。共作みたいなのは岡田くんとしかやったことがないので。岡田くんとは、わりとクールに水の上をサラサラサラサラ……みたいな。その曲に関してどういう気持ちなのかとかは、あんまり話してないかな。他人と一緒に言葉の内容までどうこう話し合いながら曲を作ったことはない」

優河の2019年のミニ・アルバム『めぐる』収録曲“June”。岡田拓郎がプロデュースを担当した
 

――してみたいとは思いますか?

優河「思いますよ。でも自分に音楽言語がないから、どうやって一緒に曲を作ればいいのかがよくわからない。あと、私は人に努力してるところを見られたくなくて」

三船「それ、いいと思う」

優河「その場でできないことは、1回持ち帰るみたいな感じになっちゃうかな。〈こういうことを言ってるのかな?〉って咀嚼しないと、会話があんまりできないかも」

――三船くんはどうですか? 人を巻き込んでいくのが得意なイメージもありますが。

三船「えーと、身近な制作でいうなら、俺も岡田くんも優河ちゃんも基本シャイなんです。でも、シャイな人が3人いると誰かがリーダーシップを取らなきゃいけなくなるっていうね」

――(笑)。

三船「岡田くんはマイペースだし、優河ちゃんはのびのびできているときにいちばんいい歌を歌うから、優河パワーを100%引き出すための滑走路を用意しとくという」

優河「気使わせてすみません(笑)」

三船「岡田くんには、君の場所は用意しといたからやっといてねっていう。人によってベストな音楽の作り方が違うから」

 

フラれてもしょうがないという気持ちでオファーした

――そもそも今回、優河さんをゲスト・ヴォーカルに招いた経緯は?

三船「最初は岡田くんからの紹介なんですよ。彼が『ノスタルジア』(2017年)っていうアルバムを作ってたときから、しきりに〈優河ちゃんに(ロットの曲を)歌ってもらいなよ〉と言うわけですよ」

――岡田くんがそこまでプッシュしてたんだ。

三船「そのあとに岡田拓郎バンドで優河ちゃんと一緒に演奏したとき、バンドがロックなアンサンブルを出しても、そこに埋もれないフォークのニュアンスを持っていることに気付いた。優河さん自身のバンドを観ても、岡田くんとか千葉(広樹)さんとか神谷洵平さんとか、すげーメンバーがいるのに、優河ちゃんがボーンって出てくると〈優河とその仲間たち〉みたいになるっていうか(笑)」

――わかる。

優河「恥ずかしいな」

三船「一緒に歌ってみて、自分の声とこんなふうに混ざることにも、誰にも負けないオリジナリティーがあることにも驚きました。そこで、やっぱり何かこれをちゃんとパッケージしたいなと思ったんです。だから〈この曲は優河ちゃんに絶対歌ってもらいたいな〉って曲が出来たときにオファーしようと思って」

――それが“ウォーデンクリフのささやき”だったと。優河さんは曲を聴いてみて、いかがでしたか?

『けものたちの名前』収録曲“ウォーデンクリフのささやき”
 

優河「何も不自然なことはなかったっていうか、何も考えずにやったら多分ハマるんだろうなって思えました。普段はあまりしないんですが、この曲に関しては、家で最初に全パートを一緒に歌ったのを録音してみたんですよ。そんなことやったのは初めてだったけど、そうすると三船くんが言ってることにもっと寄り添える気がして」

――それは歌詞の解釈ということですか?

優河「歌詞への理解もですけど、この曲がどういうものを求めているのかを掴むのは歌ってみたほうが早いだろうなと思ってやってみたんですよ。そこで録音してみたものを聴きながら、1人で夜ニヤニヤしてました」

――優河さんはヴォーカリストとして三船くんをどう見ていますか?

優河「ライブを見たときに、この規模感で歌える人がいるんだなとすごくびっくりしました。スケール感がちょっと違うっていうか。何も違和感がなくヴォーカルを聴けることは少ないんです。気になる点はあるけど、この人はここがいいよねとフォローしながら聴いていることが多い。そこに敏感になりすぎちゃうと聴けなくなることもある……」

三船「わかる気がする」

優河「三船くんの歌と音楽の密接さに、すごく共感できます。歌をサウンドでごまかしている人は少なからずいるけど、歌そのものにパワーがあると思える人ってなかなかいない。三船くんはすごいですよ。私が唯一尊敬するヴォーカリストかも」

三船「ありがとうございます!」

優河「めちゃ偉そうだけど(笑)」

三船「この通り、好き嫌いがはっきりしてらっしゃる方なんですよ。自分の心に嘘をつかないんですよ。自分のできないことはやらないし、嫌いなことはやらない。だから、オファーしてダメだったら彼女の心に響かなかったっていうこと。でも、思い浮かんじゃったから、お願いしてみようってね。フラれたらしょうがない、そんな気持ちでした(笑)」

 

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