Page 2 / 2 1ページ目から読む

誰の声だかわかるような、わからないような音楽

――きっと優河さんに限らず、今回のすべての参加ミュージシャンにそういう気持ちを持ったうえでオファーしたのだろうな、といまの話を聞いていて思いました。

三船「そうですね。ロットはずっと男バンドなので、今回はアルバムに関わってくれる人間を、年齢も性別も国籍もこの世界の縮図のようにちゃんと全員がいるっていうものにしたかったんです。でも最初のきっかけはやっぱり楽曲で、浮かんじゃったっていうところからスタートしました。僕の声も高いから、それが優河ちゃん、マイカ(・ルブテ)やermhoiの声と混ざって、誰の声だかわかるような、わからないような音楽を作れたら、2010年代の最後にふさわしいのではないかなと。浮かんじゃったからもう作るしかないですよね」

――“ウォーデンクリフのささやき”では、三船くんが終始低い声で抑え気味に歌ってて。そこが新鮮でした。

三船「ファルセットでもよかったんですけど、それだと何も起きないんですよ。何もスペシャルのことがないなって。〈たゆたうようにいろんな声が一緒にあってもいいんじゃないか〉というのを、あの曲ではめざしました。でも特別新しいことをやったかっていうわけではなくて、5月にめぐろパーシモンホールでライブをやることをふまえて、ホールに合う曲を作ろうと取り掛かったら、ホントに5分くらいで出来たんです」

優河「すごい」

――優河さんと『めぐる』リリースの際にお話ししたときに、曲作りはかなり難産というふうにおっしゃってましたよね。

優河「そうですね。『めぐる』は結構大変でした」

――しかもタイトル曲についてはいろいろなオーダーもあって、自分のイメージと映画『長いお別れ』の中野量太監督とのイメージを合わせながら作っていたそうですし。

優河「前向きな曲、明るい曲、を自分の中で落としこむのが難しかった。そこを監督と疎通するまでに時間がかかったかも」

三船「(監督の求めていたものと)明るさのジャンルが違ったってことだよね。僕のなかで優河ちゃんは明るいですけどね」

――三船くんの思う優河さんの明るさとはどういうことなのか、もう少し噛み砕いて説明してもらえますか?

三船「エナジーがあるっていうか、光を発している方ですよね。パーリーピーポー的な意味のない騒ぎはしないけど、光に値することがあるときは光ることもできる。自分の力でグッと行ける芯の強さを持っているから、病的ではないし、とても健康的」

優河「それはそうかも。病的ではないんですよ。歌を歌ったり、物事を作ったりする人のなかには陰がある人がすごく多いじゃないですか。それがもちろんいいときもあるけど、そうでないときもあるのかなと」

三船「東京だと特に多いよね。暗さを〈これがオルタナティヴだ〉って利用している人がいっぱいいる気がするな。いまの人たちにとって、髪の毛をカラフルにすることは、世界に対するアンチテーゼではなくて、みんなと仲間になるためのように思える。それはオルタナティヴとは言えないですよね」

 

歌は誰のもの?

――いま東京で暮らしていることが、自分の音楽作りに影響を与えている面はありますか? 東京で鳴るべき音楽はなんだろう?と考えたり。

三船「うーん、でも日本の1億2000万人の人のためだけに音楽を作りたくないってところからはじめているから。70億人に届くことをいつも考えています。いま、世界ははっきりと不安定な状況で、みんなが誰もが〈不安だ、不安だ〉と口々に言っている。そんななか、子供たちが元気でいられるわけじゃないじゃないですか。でも、〈もう環境もヤバいんで、人間はダメです〉とは言えないですよね。自分は、この先どうしようもなくなることを、どうにかするには、どうすればいいのかを考えています。それをぶち破れるきっかけの一部になりえるのが、音楽だなって」

優河「音楽は聴いた人に何がしかの影響を絶対に与えるから、どんな歌であれ道しるべとなる灯みたいなものは、絶対に歌に置いておかなきゃいけないと思っています。それは具体的なことじゃないかもしれないし、自分やみんなで作り出す空気感なのかもしれない。閉ざされたものを生み出すってものは私はよくわかんないんです。逆にそれをできる人はそれをやればいいのかなと思う。ただ私は絶対に温度のある人でありたい。人間っぽいっていうか。三船くんはすごく人間っぽいよね。温度がある」

――少なくとも優河さんの琴線に触れるような音楽を作る人は温度がある?

優河「普通に話すのでも、この人は温度ないなって人と話したくないっていうか。誰しもに優しさは絶対あると思うんだけど、それを見せようとしない確固たる壁がある人のことは、スーッてよけるみたいな(笑)。戦うことはないし、反発することはないけど、自分は絶対に温度を失いたくないから。そういう温度が自然と歌で伝わったらいいなと思っています」

――今日は三船くん、優河さんという2人のヴォーカリストに〈歌〉のことを中心に話してもらいました。そこで思ったのは、最初の夏目くんたちとの話にも繋がるんですけど、そもそも歌は誰のものなのか?ということなんです。最後にお2人の見解を教えてもらえますか?

三船「うーん、そもそも歌はコミュニケーションだと思うんです。独り言なのかもしれないけど、独り言が広まってスーパースターになった例もいっぱいあると思うんですよ。だから結果コミュニケーションになる。なんて言うのかな……もとはといえば自然現象の一つじゃないですか。クジラが歌うのとか鹿が鳴くのとかオオカミが仲間を呼ぶために吠えるのとか。その現代の人間ヴァージョンがもしかしたらライブなのかもしれない。そう考えると、僕たちはすごく根源的な職業をやっているんですよ。だから歌がコミュニティーを生み出す原始的な能力を持っているとすれば、作り手が何をしようと、みんなのものになっていく」

――優河さんはどうですか?

優河「私は人間みたいなものだと思っているかな。別に誰も所有できないっていうか。母親は私を産んだけど、でも私は母親のものじゃないでしょう。所有することはできない。だけど触れることはできるし、完全に消えることもない。ただそこに存在するだけ」

三船「誰のものかって概念を取っ払ってもいいかもしれないですね。それが人を苦しめている気がします。家とか資産とか土地とか。むしろ歌って、そこを唯一解き放てるものですよね、形ないし、空気の振動にすぎないし。そもそも歌うって気持ちいいですから」

 


PROFILE: 優河(yuga)
92年、東京生まれ。2011年からシンガー・ソングライターとしての活動を開始。
2015年11月、プロデューサーにゴンドウトモヒコを迎え、ファースト・オリジナル・フル・アルバム『Tabiji』をリリース。
2016年3月から全国ツアーを開催、10月よりNHK Eテレ「シャキーン!」に提供した楽曲“朝にはじまる”がオンエアされる。
2017年2月、おおはた雄一とのツアーの集大成となるミニ・アルバム『街灯りの夢』(ライブ会場限定販売)をリリース。
2018年3月に待望のセカンド・フル・アルバム 『魔法』をPヴァインからリリースし、世界観がより一層深まったダイナミックな音像で好評を博す。
2019年、中野量太監督の映画「長いお別れ」の主題歌“めぐる”を書き下ろし、同タイトルのEPをリリースした。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’19〉への出演を果たす。
全国各地でツアーやライブも精力的に行っている。TV CMのナレーション(UNIQLO、POLAなど)や、TV CMのサウンド・ロゴを歌唱するなど、幅広い活動を展開している。

 


LIVE INFORMATION
ROTH BART BARON ”TOUR 2019-2020~けものたちの名前~”
2020年3月14日(土)静岡・浜松 舘山寺
開場/開演:14:00/15:00
出演:ROTH BART BARON/優河
前売り/学生:3,000円/1,000円(いずれもドリンク代別)
※保護者同伴に限り2名まで小学生以下入場無料
★公演の詳細はこちら

2019年12月21日(土)台湾・台北 The Wall ※単独公演
2020年2月1日(土)富山・高岡 善興寺
2020年2月2日(日)石川・金沢 アートグミ
2020年2月7日(金)福岡・天神 the Voodoo Lounge ※単独公演
2020年2月8日(土)鹿児島 SR Hall
2020年2月9日(日)熊本 NAVARO
2020年2月10日(月)山口・岩国 Rock Country ※単独公演
2020年2月11日(火)大阪・梅田 Shangri-la ※単独公演
2020年2月22日(土)愛知・愛知芸術文化センター 中リハーサル室
2020年2月23日(日)広島・福山 Cable
2020年2月28日(金)北海道・札幌 mole ※単独公演
2020年3月7日(土)山形・大蔵村 肘折温泉 肘折国際音楽祭 
2020年3月8日(日)青森・八戸 Powerstation A7
2020年3月22日(日)京都 磔磔 ※単独公演
2020年5月30日(土)東京・目黒 めぐろパーシモン 大ホール 
★ツアーの詳細はこちら

三船雅也 “HOWL SESSION” vol2 ~special guest 徳澤青弦~ 
2020年1月30日(木)東京・渋谷7th Floor
開場/開演:18:45/19:30
前売り/当日:3,000円(別途1ドリンク要)
出演:三船雅也(ヴォーカル/ギター)/徳澤青弦(チェロ)/西池達也(ピアノ)
★公演の詳細はこちら