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主演の笠松将が語る「花と雨」とSEEDA

 今回の映画「花と雨」で主人公の吉田=SEEDAを演じるのは、本作が初主演作となった笠松将だ。もともと笠松はラップが好きで、10代の頃に『花と雨』に出会って以来、SEEDAは特別な存在だったとか。今回は憧れのアーティストを演じるだけではなくラップにも初挑戦。ラップのコーチをしたのは仙人掌で、「仙人掌さんの歌う“花と雨”が最高でした」と笑顔を浮かべる笠松に、映画やラップについて話を訊いた。


 

――SEEDAさんの曲は以前から聴かれていたそうですね。

「『花と雨』が発売された時に親友が教えてくれたんです。その後、20歳くらいで愛知から東京に出てきて、いろいろ良くしてくれる先輩がいたんですけど、その人もSEEDAさんが大好きで、カーステレオには必ず『花と雨』が入ってるし、LINEは韻踏んで返してくるんですよ(笑)。その時期に『花と雨』はけっこう聴きました。カラオケでも一緒に歌いましたし」

――ということは、SEEDAさん役に決まった時はテンションあがったんじゃないですか?

「嬉しかったですね。マネージャーが僕がラップを好きだってことを知ってて、オーディションのことを教えてくれたんです。〈SEEDAっていうラッパーの映画をやるらしいよ〉って言われて、〈マジで? 書類出しといてよ〉ってお願いしたんですけど、興味がないラッパーだったらオーディションは受けてないと思います」

――実在する、しかも、好きなアーティストを演じるというのは、やってみてどうでした?

「最初はSEEDAさんのクセとかを探して、それを取り入れていこうと思ってたんですけど、だんだんそうじゃないな、と思ってきました。SEEDAさんというより、映画に登場する吉田というキャラクターをもっと知って、その人物を表現していこうと思ったんです。SEEDAさんに関しては、何で笑うのか、何で悔しがるのか、そういった感覚的なところを参考にしようと思って、SEEDAさんと話をしながらいろいろ探りました」

――撮影に入る日の前日にSEEDAさんから深夜のドライヴに誘われたそうですね。

「〈ちょっと二人で会いたい〉って言われたんです。車で走りながらいろいろ話をさせて頂きました。その時、話を聞いて自分なりにわかったことがあって。20代の頃、SEEDAさんはラップをやって、周りからは褒められるけどお金にはならなかった。それでドラッグのディールをやったら、それはお金になって〈自分の才能を活かせるのはこれじゃないか〉と思いはじめるんです。でも、逮捕されてしまって目が覚めて今度は就職をしようとする。そんな時に仲間が〈お前にはラップがあるだろ!〉って言ってくれて、全力でラップしたことでいまのSEEDAさんがある。SEEDAさんにとっていちばん重要なのは〈自分に才能があるかどうか〉なんです。この映画はラッパーになる夢を追いかける話じゃなくて、自分の才能を探す旅なんだって思いました」

――自分探しの旅。それはみんなが経験することかもしれないですね。

「SEEDAさんは全部に才能があったんだと思います。でも、才能を活かせるタイミングっていうのがあると思うんです。だから才能があっても、うまくいく時といかない時がある」

――ちなみに、SEEDAさんとのドライヴではどんなところに行ったんですか?

「SEEDAさんはどこに行くのか全然説明してくれなかったんです。例えば刺青を入れた人の家に行き、〈俺のツレを連れてきたんだよ〉って紹介されて握手するんですけど、その人が誰なのかわからない。相手の人がチラッと僕のほうを見て〈大丈夫なの?〉ってSEEDAさんに訊くと〈大丈夫だよ〉って。こっちは〈何が大丈夫なんだろう?〉って思うじゃないですか(笑)」

――ヒヤヒヤしますね(笑)。でも、そうやって自分がどんな世界に身を置いてきたのかを教えてくれたのかもしれませんね。

「そうですね。だから僕もドキドキしながら、その場の雰囲気とか、SEEDAさんの表情を観察したりしていました」

――ラップは仙人掌さんからコーチを受けたそうですね。どんな風に教えてもらったのでしょうか。

「最初は僕が歌ったのを録音して、それを一緒に聴いて〈どう思う?〉って訊かれて、また録音して……という繰り返しでした。仙人掌さんは優しい方で、どれを聴いても〈カッコいいね〉って言ってくれるんです。それで〈あ、大丈夫なのかな〉と思って家で聴き直すと全然良くないんです。単純になんか違うんですよね」

――ピンとこない?

「それで仙人掌さんのライヴを観に行った時、仙人掌さんが〈なんで俺が10年も最高のMCって言われるのか教えてやるよ〉ってラップをやったら、フロアの底が抜けるんじゃないかっていうくらいお客さんが沸いて。それを見た時、〈ステージに立つってこういうことだな〉って思って、〈自分との差って何だろう?〉って考えたんです。その後、仙人掌さんの前でラップした時から、〈ボソボソ言うんじゃなくて口を大きく開けながらやってみて〉とか〈SEEDA君はクセでここでキレるから〉とか、具体的に言ってくれるようになりました」

――仙人掌さんのライヴに影響を受けた笠松さんのラップを聴いて、何か変化を感じたんでしょうね。笠松さんにとってラップの難しさってどんなところですか。

「ラップっていろんな要素が詰まってるんですよ。言葉、音程、リズム感、聴き心地……。でも、〈誰が何を言うか〉っていうのがすごい大事だと思いました。僕がSEEDAさんの曲を自分の曲のように歌っても意味がない。曲を歌う覚悟みたいなものが必要なんだなって。とにかく“花と雨”は何度も練習しました。2018年にいちばん“花と雨”を歌ったのは僕だと思います(笑)。本番は一発OKで〈ホントに大丈夫なの?〉って思いました」

――それは練習の賜物でしょう。吉田は周りに認められたくて、いつも満たされない気持ちを抱えてます。笠松さん自身もそういう怒りや焦燥感を感じたりしますか?

「全然ありますよ。だから吉田にはすごく共感できたし、他のキャラクター全員に共感できました。映画やドラマって、どうしても無理して演じなきゃいけないところがあるんですよ。監督が〈こういう絵が撮りたいから〉って説明して、段取りで話し合いになったり。でも、この映画は自分の感情に嘘をつかないで演じることができました」

――ドラマも音楽もリアルさを追求した映画になりましたね。

「そうですね。この映画にはヒップホップというカルチャーに対する理解やリスペクトがある。これまで、ラップ映画はあったけど、これくらいちゃんとしたヒップホップ映画は日本にはなかったと思います。もちろん、ヒップホップ・ファンじゃなくても楽しめる作品で、自分がいまやってることが正しいのかどうかわからないっていう人が観て、〈みんなそうなんだ〉って思ってくれたら嬉しいですね」 *村尾泰郎

「花と雨」にてラップ指導を担当した仙人掌の2018年作『BOY MEETS WORLD』(Pヴァイン)