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誰のものでもないから、どのコミュニティーとも会える

――新作に至る流れを追っていくと、去年は〈フジロック〉への出演や〈全感覚祭〉も話題になりました。

「うん、〈フジロック〉は気持ち良かったです。いろんなフェスがあるけど、最初に実績のないものをバーンと誘ってくれるのは〈フジロック〉なんだなって。やっぱり気概があるところは先に動いてる。それは〈全感覚祭〉で関わってくれたライブハウスだったり、俺らに関係してくれる人のフットワークの軽さを見てても思います」

――コネはない、お金が動いているわけでもない。でも個と個の連帯が力を生み出していく実感が、去年は特に強かったのでは?

「そうですね。ひとりでいるってすごく存在が曖昧だから、余計に他者が必要になる気もする。わかると思うんですけど、俺らって別に人格的にも能力的にも優れてるわけではないし、4人ですべてを回せてしまうような力が備わってるわけじゃない。不完全なまま存在してるし、ドキュメントに対して率直に流されていく感覚がある。だからこそ毎回いろんな人が関わってくれたりするし。

俺にとっても結局は余所者なんですね、GEZANって。自分がやってるけど自分のモノになりきならないし。だけど誰のものでもないからどのコミュニティーにも会えるっていう状態が、けっこう去年は象徴的だったかな。誰のものでもないからみんなのものになれる。いまGEZANがやってるのはそういう動き方なのかな」

〈フジロック 19〉でのライブ映像

 

夜のクラブにこそ、求めているパンクがあった

――新作の話ですけど、BPM100縛りのダンス・ビートを取り入れたライブは2018年の末からやってましたよね。同じBPMで3曲くらい繋げて、最後にはすでに“東京”があった。さらには当時からライブのPAを、ダブの名手であるDRY&HEAVYの内田直之さんが手がけるようになった。これらのアイデアはどこから?

「いま再編集という感覚が空気として強いなと感じていて。街を見たってどんどん変わっていくし、東京は延々と工事している。必要だから工事してるっていうより、綺麗な建物でも再開発の名の下にどんどん壊しちゃう。そこがすごく東京らしいなと思うんですよね。そういう視点からダブっていうものに繋がった気がする。

まずRed Bullのスタジオで内田さんと録って、その時点では綺麗に録れてたし完成してたんですけど、それをまた(再編集して)汚してみたくなったんです。ダイヤモンドに爪でつけた傷っていうか。傷のあるダイヤモンドのほうが、ただ綺麗なダイヤよりも映画みたいな物語が始まりそうな気がして」

――もともと内田さんと交流はあったんですか。

「GEZANとDJのYELLOWUHURUとで、Contactとかでクラブ・カルチャーとバンドが一緒に出会うみたいなイヴェント、〈BODY ODD〉をやってるんですけど。そこで出会ったんです。〈BODY ODD〉をやったことは、俺にとってめちゃくちゃ大きい。パンク・シーンって言われる場所や音楽はいっぱいあるけど、正直、その現場に本当のパンク的なものを感じなくなってたんですよ。理由もない衝動や焦燥感を持ってる人のために音楽が必要だって、自分の経験としてあるんですけど、夜のクラブこそがそういう場所なんだとわかった。うん、このアルバムを作る最初の景色は〈BODY ODD〉にあるかもしれない」

『Silence Will Speak』収録曲”BODY ODD”のライブ映像

 

踊ることで自分自身でしかなくなる、さらに自分自身ですらなくなる

――クラブ・カルチャーへの興味って、昔からありました?

「昔からけっこう遊んでましたけどね。でも、それが愛って言葉に近い空間なんだとわかったのは最近なのかな。一般的なクラブってパーティーみたいなイメージだと思うんだけど、でも本当にいいクラブ、たとえばDJ NOBUさんがやってる〈Future Terror〉とか、ほんと隣の人なんか見えない、友達同士でも顔わかんないくらい真っ暗な空間で。そこにはずっと音楽があって、ひたすら踊ってられる。たくさんの人がいるなかで自己との対話があって、日常のいろんなノイズをこの音で掻き消して欲しいっていう感覚もあるし」

――そっか。日常で踊っているから、今回〈ロックバンドがダンス・ビートを拝借して〉みたいな借り物感がまったくない。

「理屈で作ってなかった。俺らがそれぞれのフロアに散って夜遊んでたこともあるけど、これを作ってるときはダンスフロアの当事者でしかなかったから」

――うん。このアルバムは、〈踊る〉という概念自体が変わります。

「踊るって……自分の身体と居るってことだと思う。俯瞰で見て〈あぁ、こういう音楽ね、こういうフレーズ弾くんだ〉とか、頭で考えて音楽を聴いていると、自分自身からは離れていく感覚もある。でも踊るときって自分自身でしかなくなる。その果てには自分自身ですらなくなるっていう次元があって。

この『狂(KLUE)』のジャケットはひょっとこ踊りの写真ですけど、これ撮った岩根愛さん――内田さんの盟友で、そこも繋がっちゃったんですけど、この写真について教えてもらったんですね。これは福島県三春町のひょっとこ踊りを継いでる17代目橋本広司さんって方で、この踊りではお面をつけて自我がなくなるまで、意識がなくなるまで踊るんです。そうすると自分の後ろにいる先祖、自然と繋がることができるんだって。俺、そんなこと知らずにこの写真を〈おっ〉と思ったんだけど、その話を聞いてもうこのアルバムを象徴してると思えたから」

『狂(KLUE)』のジャケット画像
 

――ええ。

「あと盆踊りもそうですよね。ひとつのサークルでずっと同じ動きで踊り続けて、偉い人はこう踊る、偉くない人はこう踊らなきゃいけないなんて決まりもなくて。すごく平等で、ずっと延々と円を描いて踊る。それってトランスの状態だと思うし、そのなかで自分自身が背負ってきたプロフィールとか肩書も剥がれ落ちていく。

踊りにはもともとそういう力があって、このひょっとこ踊りに関して言えば、もう先祖とか歴史とすら合流できる。その感覚は自分がクラブで踊っててもわかるんですね。自分にすら縛られない自由があるっていうか。それはすごく優しいことだなって思う。踊りに対してはそういうイメージがあるし、アルバムもそういうものになればいいなって気持ちがありましたね」


LIVE INFORMATION
GEZAN 5th ALUBUM「狂(KLUE) 」release tour 2020

2020年2月13日(木)北海道・札幌 BESSIE HALL
2020年2月17日(月)青森・弘前 Mag-Net
2020年2月19日(水)山形・酒田 hope
2020年2月20日(木)宮城・仙台 enn2nd
2020年3月18日(水)大阪・梅田 UMEDA CLUB QUATTRO
2020年3月19日 (木)名古屋・新栄 APOLLO BASE
2020年4月1日(水)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
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