成功したシングル“Started Out”、ダンスフロアの幸福をポップ・ソングに閉じ込めたアルバム『Seeking Thrills』

いま聴くとさまざまなビートがあり、影響があり、大胆なアルバムなのだが、ジョージアがバズを巻き起こし、ツアー・サーキットに出るきっかけにもなったのが2018年のシングル“Started Out”だ。ダンス・ビートに乗せて〈We are wicked and bold(あたしたちイケてるし大胆)〉と歌詞で繰り返すのがちょっとアンセムっぽい面白さ。これが話題になって、グラストンベリーにも出演。BBCが選ぶ〈サウンド・オブ・2020〉の候補にもなり、バズは広がる一方だ。

『Seeking Thrills』収録曲“Started Out”

またセカンドのリード・シングルとなったのが、2019年の“About Work The Dancefloor”だ。この曲を作っている最中、人気ドラマ「ガールズ」のあるエピソードを見たことをジョージアはビルボード誌でのインタビューで語っている。主人公を演じたレナ・ダナムがロビンの“Dancing On My Own”で一人踊っている——そのたったワンシーンで、アメリカでロビン人気に火をつけたほどの有名な場面だ。「ダンスフロアのユーフォリアを親しみやすいポップ・ソングに閉じ込める」というセカンドの方向性が決まったのは、もしかするとこのころではないだろうか。

『Seeking Thrills』収録曲“About Work The Dancefloor”

「今回のアルバムに関しては、とにかくアクセスしやすいものにしたかったんだよね。もっと気軽に入りやすい感じにしたくて。もっと言うなら、ポップ・レコードを作りたかった。それでスタジオにこもって、自分が好きだったポップ・ミュージックのアルバムを片っ端から全部聴き返して、そこから学んだものを頼りに、優れたポップ・ミュージックとはいかなるものか、っていう自分なりの像を導きだして。それを目標にして曲を作り始めたんだけど、ものすごく大変な作業だったし、本当に延々とスタジオにこもって研究してたの(笑)」。

その聴き返したレコードとは、80年代UKのヒット・チャートを賑わせたシンセ・ポップと、シンガー・ソングライターの名作アルバム。そして、やはり重要だったのがダンス・ミュージックの豊かな鉱脈だった。

「80年代初期のポップ・ミュージックを中心に聴いてたんだ。デペッシュ・モード、ケイト・ブッシュ、カン、ペット・ショップ・ボーイズ、ユーリズミックス。それと並行していわゆる王道のアーティストの作品も聴いてたの。ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、クイーン。

あと発見したのは、そもそも自分の育ったのが、まさにレイヴ・シーンのど真ん中なのね。父親がレフトフィールドをやってたから。それで、〈デペッシュ・モードは一体何に影響を受けてこういうシンセサイザーの音に辿り着いたんだろう?〉とか、〈このドラム・ビートってそもそもどうやって作ってるわけ?〉って考えた結果、シカゴ・ハウスとデトロイト・テクノに行き着いたわけ。

それからはそういうのばっかり聴き漁ってたんだけど、特に80年代初期の作品に強烈に惹かれて。あの時代の音楽って私にはすごく身近で親しい音に感じられる。そこに自分のダンス・ミュージックへの愛情も重なるから」。