田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ミーゴスのテイクオフ(Takeoff)がレイプ疑惑で女性から訴えられた、と数日前に報じられました」

天野龍太郎「弁護士は疑惑を否定していますね」

田中「そうですね。性暴力には断固反対ですが、この件についてここで臆測をしてもよくないですから、裁判のゆくえを見守りましょう」

天野「なんだか、最近音楽の世界はネガティヴな話題ばかりが多くて気が滅入ります。明るくて楽しい話題はないんでしょうか……? それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Cardi B feat. Megan Thee Stallion “WAP”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はカーディ・Bがメーガン・ザ・スタリオンをフィーチャーした“WAP”! これは超強力なコラボレーションですよね。この曲のリリースがアナウンスされたとき、めちゃくちゃわくわくしました」

田中「男性が圧倒的多数を占めるラップ・ミュージックのシーンで強烈な存在感を放っている女性アーティスト2人。興奮する組み合わせです!」

天野「気になるのは、メグことメーガン・ザ・スタリオンのこと。彼女は7月12日にハリウッド・ヒルズで銃撃事件に巻き込まれていて、撃ったのは逮捕されたトリー・レーンズ(Tory Lanez)だったのではないか、という報道もあります。メグは両脚を撃たれていて、その弾丸を取り除く手術を受けたことを涙ながらに語っていました」

田中「彼女が回復できたのは、不幸中の幸いでしたね……。そんななかで届けられたのが、このカーディ・Bのニュー・シングル。太いベースが強調された、ヘヴィーで無骨なビートを乗りこなす2人のラップは堂々たるもの。2020年屈指のラップ・ソングだと思います」

天野「エイヨー&キーズ(Ayo & Keyz)の削ぎ落されたビートがかっこいいですよね。〈WAP=Wet Ass Pussy〉という曲名どおり、訳すのがためらわれるほどダーティーな言葉が連発されているんですけど、この2人がラップするとその力強さに圧倒されちゃいます。勇ましいですね。メグの〈あなたは私の感情を傷つけられやしない、でも私は痛みが好き〉というラインには、複雑な思いを覚えましたが……」

田中「この曲は、カーディが今年リリースする予定の新作『Tiger Woods』からのシングル。アルバムがどうなっているのか、とても楽しみになる強烈な一撃でした」

 

2. Bon Iver “AUATC”

天野「2位はボン・イヴェールのニュー・シングル“AUATC”。4月に発表された“PDLIF”に続く新曲ですね。ボン・イヴェールはアルバム『i,i』を2019年8月に発表しているので、ペースが速いなと感じています」

田中「たしかにそうですね。ジャスティン・ヴァーノンは、このコロナ禍の状況で創作意欲が刺激されているんでしょうか? 先日リリースされたテイラー・スウィフトの新作『folklore』に参加したことも話題でしたし、にわかに活動が活発化しています」

天野「この“AUATC”は、〈Bon Iver: Season Five〉の〈Episode 2〉とされているんです。〈Episode 1〉の“PDLIF”から強い連続性を感じますし、暗号のような謎めいた曲名も共通している……。ちなみに、〈PDLIF〉は〈Please Don’t Live In Fear(どうか恐怖のなかで生きないで)〉を、〈AUATC〉は〈Ate Up All Their Cake(彼らのケーキを全部たいらげた)〉を意味しているんだとか。意味深ですよね。“AUATC”は資本主義によって引き起こされる格差と周縁化、抑圧をテーマにしていて、新型コロナのパンデミックによってそれが強化されていることを問題にしているようなんです」

田中「バンドは〈この支配的な制度下で、資本主義に対する闘い、そして私たちのコレクティヴがその闘いに参加していることに注目してほしいんだ〉と、胸を打つコメントしています。〈私たちのコレクティヴ〉という表現が、コミュニティーの繋がりを大事にするボン・イヴェールらしいですね。ファンに慈善団体への寄付も呼びかけています」

天野「そんなメッセージを掲げたテーマと共に、話題なのはこの曲に参加した4人のヴォーカリストたち。なんと、エルサ・ジェンセン、ジェニー・ルイス、ブルース・スプリングスティーン、そしてワイ・オークのジェン・ワズナーが歌っているんです。スプリングスティーンって! ジェニー・ルイスとジェン・ワズナーの参加もおもしろいですし、なんだかすごい組み合わせですよね」

田中「まるで〈ボン・イヴェールというコミュニティー〉の輪の広がりを表しているようですね。ピアノと歌を中心とした、宗教歌のようなソングライティングとプロダクションも感動的。オーガニックとデジタルが融和した『i,i』の音楽性を引き継いでいる曲だと感じました。〈Bon Iver: Season Five〉の今後が楽しみです」

 

3. DaBaby “PEEPHOLE”

天野「3位は、2019年に続いて今年も大活躍なダベイビーの“PEEP HOLE”。彼のことは何度も紹介しているので、説明不要だと思います! 昨年“Suge”などのヒット・ソングを連発して、一躍スターに上り詰めた人気ラッパーです。今年もロディ・リッチとの“ROCKSTAR”が大ヒット中。ダベイビーはラップ界のコメディー・リリーフ的な存在というか、愛らしいキャラクターがナイスです」

田中「uDiscoverで池城美菜子さんが〈ラッパー、ダベイビー(DaBaby)が最強の理由:その経歴と3曲のMVから読み解く〉という記事を書いていました。あれを読んでもらうと、人気の理由がわかりやすいかなと。で、今回の新曲は、4月に発表したアルバム『BLAME IT ON DABABY』のデラックス版に収録された新曲です」

天野「池城さんが、この曲について〈『やっとフローを変えた』と話題になっている〉とツイートしていて笑っちゃいました。たしかに、ダベイビーってフロウがワンパターンで、よくネタにされているんですよね……。そういうところも彼のキャラなので、いいんですけど。で、リリックはといえば、思いっきりセルフ・ボースティングな内容。〈俺はのぞき穴から外を見ていた〉〈でも、いま俺はビースト・モードなんだ/ベッドを15個も持っている、もう床でなんか寝ない〉〈俺はずっとピンプだった、でもばくち打ち(a player〉じゃない/ビッチどもをレーダーから一掃したんだ/俺はチャートの常連、ドリッジー(ドレイク)みたいに〉〈グラミーにノミネートされたヒットメイカーだ〉と威勢がいい。でも、やっぱりちょっと単純で笑っちゃいますね(笑)。あと、彼の曲ってどれも短くてすごいなと思います。音楽がストリーミングで聴かれるいまの時代に完ぺきに対応している、というか。パッと始まって、気づけば終わっている気がしますね。やたらと速いテンポも、曲の部分を切り取って、短い動画にぎゅっと詰め込まれるTikTokに対応しているんじゃないか、なんて邪推しています!」

 

4. SG Lewis feat. Robyn & Channel Tres “Impact”

田中「4位はSG・ルイスの新曲“Impact”。ロビンとチャンネル・トレスという強力な2人をフィーチャーしています!」

天野「SG・ルイスは英ロンドンを拠点に活動するプロデューサーで、サミュエル・ジョージ・ルイス(Samuel George Lewis)のステージ・ネームですね。クレイロやホンネが参加した2019年のEP『Dawn』が、ベッドルーム・ポップの流れに連なる作品として話題になりましたね」

田中「ええ。ただ『Dawn』がメロウでチルいサウンドだったのに対し、この“Impact”はフロア・バンガ―なダンス・トラックで……すげーいい! 客演に迎えたロビンは言わずもがなエレクトロ・ポップのアイコン的存在ですし、チャンネル・トレスはヒップ・ハウスをアップデートしたサウンドで人気を博すLAのプロデューサー。両者の魅力が存分に発揮されていますね」

天野「チャンネル・トレスは、キング・プリンセス(King Princess)やタイラー・ザ・クリエイターのリミックスも最高でしたよね。実は昨年、SG・ルイスがトレスの楽曲“Sexy Black Timberlake”をリミックスしているんですよ。なので、今回のコラボはそのお返しなのかも」

田中「この曲、ロビンの〈Oh, ooh-ooh, I’m gone, yeah〉というシャウトの導入から、アガります。チャンネル・トレスのつぶやくような妖しいラップも気持ちいい。そして、ちょっと硬めのキックとグイグイと迫るベースラインがめちゃくちゃグルーヴィーです。今夏最高のパーティー・アンセムではないでしょうか!」

 

5. Machinedrum feat. Freddie Gibbs “Kane Train”

田中「今週最後の曲はマシーンドラムがフレディ・ギブスを迎えた“Kane Train”。マシーンドラムといえば、IDMやダブステップ、トラップなど、さまざまなビート・ミュージックを独自のサウンドに昇華させてきたプロデューサーですよね。マッドリブやアルケミストとの共作で大活躍しているフレディ・ギブスは、わりと昔ながらのハーコーなラッパーというイメージだったので、意外な組み合わせに思ったのですが……」

天野「〈ハーコー〉って言葉、ひさしぶりに聴きましたよ(笑)! たしかに意外なコラボですが、勇猛なホーンのサンプルとギブスの骨太なフロウの相性は抜群。ビートの乾いた質感、時折ジャングル風に展開する複雑なリズムは、マシーンドラムならでは。異質な音楽のエッセンスを違和感なく混ぜ合わせていて、オーセンティックでありながらもフレッシュ。かっこいいヒップホップ・ナンバーだと感じました」

田中「なお、マシーンドラムはこの“Kane Train”と同時に、“Ur2yung”という新曲も公開。こちらもソウルフルなウワモノと手数の多いエレクトロニック・ビートを重ねていて、ナイスな仕上がり。どちらも10月9日(金)にリリース予定のニュー・アルバム『U Of View』に収録されるそうです。新作、期待できますね!」