天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。〈コーチェラ〉のラインナップが発表されたことが話題ですね」
田中亮太「ヘッドライナーはハリー・スタイルズ、ビリー・アイリッシュ、元カニエ・ウェストのイェ(Ye)という3組。他にリル・ベイビーやダニー・エルフマン、日本のきゃりーぱぴゅぱみゅなど、豪華なラインナップになっています。その一方でインディーバンドがさらに少なくなっており、英ガーディアン紙は〈モデルエージェンシーの名簿のよう〉と皮肉っていました」
天野「先週はジェイムズ・エムトゥーメとロネッツのロニー・スペクターことヴェロニカ・ベネットという偉大な音楽家の訃報も飛び込んできました。ロニーは癌と闘病していたそうで、家族に見守られながら息を引き取ったそうです。僕はロネッツが大好きで、彼女はビートルズとの関係も深いですし、残念でなりません」
田中「溌溂としていながらも憂いをたたえた歌声は、まさに魔法のようでした。元夫フィル・スペクターが所有していたロネッツ作品の権利を15年にわたる戦いで勝ち取ったことも、後続の女性たちに勇気を与えたと思います。近年のテイラー・スウィフトにはそんなロニーの姿が透けて見えますよね。ご冥福をお祈りします。それでは今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
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Soul Glo “Jump!! (Or Get Jumped!!!)((by the future))”
Song Of The Week
田中「〈SOTW〉はソウル・グローの“Jump!! (Or Get Jumped!!!)((by the future))”。これはとんでもなく勢いのあるパンクナンバーです。ソウル・グローは名門エピタフと契約して話題になった米フィラデルフィアのハードコアパンクバンドで、昨年『DisNigga, Vol. 1』『DisNigga, Vol. 2』という2作のEPを連続で発表。人種差別にノーを叩きつけ、〈ブラックアート〉を称揚するのがこの4人組ですね」
天野「ハードコアからスラッシュメタル、スクリーモ、ノーウェーブやノイズコアまでが渾然一体となった激しいサウンドが強烈です。そして、ボーカリストのピアース・ジョーダン(Pierce Jordan)の言葉を詰め込みまくったシャウトが最高。歌詞はまったく聞き取れません(笑)! でも、Bandcampで読めます。ジュース・ワールドやポップ・スモークの名前を織り込みながら、〈俺たちは未来に生きている/そして現在に死んでいる〉などのパンチラインが並んでいますね。この曲を収録する彼らのニューアルバム『Diaspora Problems』は3月25日(金)にリリース。2022年の幕開けを告げる強力な一撃になるはず!」
Guerilla Toss “Cannibal Capital”
田中「2曲目はゲリラ・トスの“Cannibal Capital”。ゲリラ・トスは過去にDFAから3作のアルバムをリリースしているNYのポストパンクバンドで、この曲は3月25日にリリースされるサブ・ポップへの移籍作『Famously Alive』からのシングルですね」
天野「DFAでの作品はあのレーベルらしいノーウェーブやエクスペリメンタル色の強いサウンドでしたが、この“Cannibal Capital”はアバンギャルドな要素を残しつつもかなりポップ。ソングライティングは磨きがかかっているし、バンドのアンサンブルもこれまで以上にメリハリがついています。とはいえ、〈人食い資本〉というタイトル、倦怠感や社会不安をテーマにしたという内容はやっぱりエッジー」
田中「前衛性や実験性を突き詰めた結果キャッチーになったサウンドは、2010年前後のブルックリンインディーを思い出させます。イェーセイヤーとかギャング・ギャング・ダンスとか……。ボーカリストのキャシー・カールソン(Kassie Carlson)によると、ロックダウン中に自分自身や不安と向き合って安定した精神状態を得られたことが、この陽性のサウンドに繋がったんだとか」
Kae Tempest feat. Kevin Abstract “More Pressure”
田中「ケイ・テンペストは詩人/ラッパー/作家……としてイギリスを中心に高く評価されている才能です。2020年8月にノンバイナリーであることを公言したんですよね」
天野「そんなケイの新曲“More Pressure”は4月8日(金)にリリースされる新作『The Line Is A Curve』からの最初のシングルで、ケヴィン・アブストラクトをフィーチャーしていることが話題。ちなみに、ケヴィンが率いるブロックハンプトンは、4月に出演する〈コーチェラ〉を最後に無期限の活動休止期間に入ることを発表したばかり。残念ですね。“More Pressure”に話を戻すと、英米を代表する異ジャンルのリリシストのコラボレーションという点がアツいのですが、制作陣はもっとすごい。プロデューサーはダン・キャリー&リック・ルービン。このタッグは意外すぎてアガりますね」
田中「キャリーならではのタイトなプロダクションとルービン印のドライな響きがうまくマッチした、かっこいいエレクトロ調のビートに仕上がっていますね。歌詞の内容は〈重圧から解放されたい〉という思いを映したもの。なお、『The Line Is A Curve』にはリアン・ラ・ハヴァスやフォンテインズ・D.C.のフロントマン、グリアン・チャッテンらとのコラボ曲が収録されるのだとか。これは楽しみです!」
Joey Bada$$ “THE REV3NGE”
田中「ラストはジョーイ・バッドアスの新曲“THE REV3NGE”。2020年に発表された3曲入りのEP『The Light Pack』以来のソロシングルということで、〈ついにサードアルバムがリリースされるのか?〉と期待されています」
天野「2019年のビースト・コースト(Beast Coast)での活動などはあっていたのですが、今回完全復活。得意の硬派なブーンバップから一転、この“THE REV3NGE”は派手なホーンが印象的なトラップです。プロデューサーはプロ・エラの盟友であるパワーズ・プレザント(Powers Pleasant)と1-900ことアダム・ポーリン(Adam Pallin)、そしてドイツのスクキ(Sucuki)の3人。J・コールっぽいなと思ったら、スクキはJ・コールの『The Off-Season』(2021年)に参加していました。〈俺は勝つために戻ってきた/成功は最大の復讐〉という威勢のいいリリックは、まさにジョーイの帰還を告げるのにふさわしい内容。若干ラップにキレがないかな……と思いましたが、とにかく今年はジョーイに注目しましょう! ちなみに、今週はゲームとカニエの共演曲“Eazy”も紹介しようと思ったのですが、ジャケットに問題がありすぎるのでやめました」