新たなジャンル? ムーヴメント? シーン? そのどれとも言えない〈tiny pop(タイニー・ポップ)〉という〈何か〉。それを伝えるコンピレーション『tiny pop – here’s that tiny days』が、ひっそりと話題になっている(先日は、ライムスター宇多丸のTBSラジオ番組「アフター6ジャンクション」でも特集された)。
〈ネット世代のDIY歌謡曲〉というキャッチコピーが付けられた本作に参加しているのは、mukuchi、SNJO、wai wai music resort、ゆめであいましょう、という4組。音楽性はバラバラであるものの、そのほとんどがSoundCloudやBandcampといったインターネットのプラットフォームで宅録作品を発表していた音楽家たちだ。
ショボいポップス――彼/彼女らの楽曲を、コンピの監修者であるhikaru yamada(hikaru yamada and the librarians/feather shuttles forever)は以前、そう呼んでいた。そして、2019年1月にyamadaがele-kingに書いたコラム「TINY POPというあらたな可能性」をきっかけに、tiny popという音楽はじわじわと注目を集め、少しずつ可視化されていく。霞がかったtiny popなるものがようやく像を結んだのが、この『tiny pop - here’s that tiny days』である。
今回はtiny popの謎に迫り、その魅力をなんとか言語化するために、yamadaとコンピの参加者であるmukuchiこと西海マリに話を訊いた。漁村在住(?)の宅録作家で、mukuchiという1人ユニットで活動するマリは、feather shuttles forever(yamadaとのユニット)としての“ウェルウィッチア”を含め、『tiny pop – here’s that tiny days』に4曲を提供。本作は彼女の才能を広く知らしめるための作品でもあるのかもしれないと、私は感じている。
mukuchi、SNJO、wai wai music resort、ゆめであいましょう、それぞれのtiny pop
――このコンピは構成がおもしろいですよね。同一アーティストごとに2、3曲まとめて配置されているので、アーティストのイントロダクションにもなっている。
hikaru yamada「ele-kingの野田努さんと打ち合わせをしたとき、『No New York』形式にするのか『Nuggets』形式にするのかを話しました。それで、『No New York』形式でいこうと※。ただ、ゆめであいましょうとSNJOくんの音楽だったら開きがありすぎるので、グラデーションで繋がるようにしました」
――SNJOくんの参加は意外でした。彼はダンス・ミュージック的な音楽を作っているので、ちょっと異色です。
yamada「SNJOくんに参加してもらったのは、(Local Visionsのコンピレーション『Oneironaut』に収録された)“Long Vacation”が好きだったからですね。他の曲よりもポップス的だったので、あの続きを作ってくれるんじゃないかと思ったんです」
――Local Visionsから作品を発表している兄妹ユニット、wai wai music resortはいかがですか? 彼らはブラジル音楽からの影響を感じるポップスを作っていますよね。
yamada「(Local Visions主宰者の)sute_acaさんの紹介で知りました。曲を作っているエブリデさんは、体系的に音楽を聴いた最後の世代、という感じがします。雑食だけど、YouTubeで適当に聴いたというより、ちゃんとライナーを読んで咀嚼した音楽の聴き方を感じる。それは曲を聴いてもわかるし、そこが魅力ですね」
――一方、宮嶋隆輔さんを中心とするバンド・ゆめであいましょうの音楽性はフォークやロックに近いと思います。
yamada「宮嶋さんは、(ヴォーカリストの蒲原羽純との)宅録ユニットと(5人組の)バンドとでジャンル分けをしているようなんです。ただ最近は、サイケ・フォーク的なバンドのほうもポップス路線になっています。ゆめであいましょうは今回、絶対に入れようと思ってました。いまどきこんなヴォーカルの人、いないでしょう」
――70年代の歌謡曲的というか、羽純さんの発声方法は本当に独特です。宮嶋さんはポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)に出場するのが夢だ、というすごいエピソードもあります。
yamada「宮嶋さんのワンマン・バンド的なところはかなりあります。ヴォーカル録音に立ち会ったとき、宮嶋さんが羽純さんに〈ここはヴィブラートを揺らさないで〉とか、指示を細かくしていました。そのディレクションと羽純さんの咀嚼で成り立っている。歌を録るってこういうことなんだな、と勉強になりました」
――マリさんの曲についても話しましょう。“午前十時の映画祭”は2019年10月に開催された〈tiny pop fes〉で歌っていましたね。デンシノオトさんはele-kingのレビューで〈レンタルビデオショップなら/100円で借りられる映画を/普段より少しおしゃれをして/映画館に行こう〉という歌詞を〈現代へのアイロニー〉と捉えていましたが、私は初めて聴いたとき、不況感を感じずに〈わかる〉と共感してしまった。不況をずっと生きてきたからかもしれません。
西海マリ(mukuchi)「これは大体の歌詞とメロディーだけあったものを、この機会に曲に仕上げたものです。私も作っているときは〈こういうことがあってもいいかな〉くらいの気持ちで。でもレビューで指摘されて、本当に貧しい不況感が出ているなと思いました(笑)。バブルが崩壊した後を生きているから、染み込んでいるんでしょうね」
――“食卓”にはトラップっぽいハイハットが入っていて、新機軸だと驚きました。
マリ「そうですね。『ヨッシークラフトワールド』という任天堂のゲームのCMソングがすごくかわいくて、そこからの影響なのかな? 最近はクラブ・ミュージック的なSNJOさんの音楽や、Local Visionsの作品からも影響を受けていると思います」