なにかとても具体的な像を結びそうなのにずっとピントが合わない。うっすらぼやけているようでもあるし、あまりにも精細すぎて全体が消えていくようでもある。みょうに生活感のあるシュルレアルな光景が連なる詞は、モチーフや出来事がぼんやりとつながって曲と曲のあいだにひとつの世界を編み上げる。NNMIE本人の歌声もゲスト・ヴォーカルを披露するマリ(mukuchi)のそれも、言葉やメロディーを支えるに足るミニマムなアプローチに貫かれていて、一瞬あとには崩れ去りそうな、しかしその一瞬が永遠に続くかのようなバランスを醸し出している。

2017年から2020年にかけて録音された楽曲をコンパイル(部分的に再録、リミックスを施した曲もある)した『(Your) Paved Moon』は、それゆえ、あらかじめひとつのナラティヴに貫かれた〈アルバム〉ではないのかもしれない。けれども、ある曲を聴けばまたある曲の残響や応答がそこにまぼろしのように聴き取れてしまう。それがおぼろげに通った筋のように思えるのだ。〈拾った氷が溶けないように老婆の影で涼しんでいる〉という“知らないパレード”(2017年)の〈私〉は、〈影の中誰かがいつも涼んでいて動けない〉とこぼす“反射”(2019年)の〈私〉の傍らにいたりするんだろうか。“知らないパレード”の溶けてゆく氷には、“月のまち”(2018年)のもう溶けてしまった雪の面影があるような気がする。

一人称は不思議と揺らがない。かわりに二人称の違いがそれぞれの〈私〉をいろんなキャラクターへと描き分けていく。しかし描き分けられたはずの〈私〉はモチーフの連鎖によってゆるやかにつながりだしてしまう(少なくとも、聴き手にとっては)。そうしたつながりは『(Your) Paved Moon』というアルバムからじんわりと染み出してNNMIEのレパートリー全体へと聴き手を向かわせる。

円環のような、デジャヴのような、いつ終わるとも始まるとも知れないレパートリーの相互浸透の印象をいっそう強調するのは、フェイドアウトかもしれない。『(Your) Paved Moon』におさめられた10曲中、フェイドアウトで終わるのは6曲。短いリフレインが遠ざかりながら幕を閉じていく。特に“反射”はちょっと凝っていて、フェイドアウトしながらドラム・マシンのフィルインで一応終止したかと見せかけてマリのコーラスがふたたびあらわれ、それも改めてフェイドアウトする。

まるで歌にとりつかれた歌のようであるし、歌にとりつかれたアーティストのようでもあるし、こうした歌は(あるいはその断片は……)聴く者の頭の中にもすみついてしまう。儚げなたたずまいに対して、歌がもつ不穏なまでに大きな力をプリミティヴに示すところが、NNMIEにはある。

NNMIE · 知らないパレード

NNMIE · バランス