音楽へのリスペクトと崇高さを忘れさせないでいてくれる求道家
――スクエアプッシャーの音楽が2010年代に与えた影響についてはどうお考えでしょうか?
「そうですね……ポップ・ミュージックのシーンはわからないけど、劇伴とかはあると思う。劇伴作家でトムさん好き、リチャード好きは山のようにいますから。
ハンス・ジマーのような、モジュラー・シンセ的なサウンドとオケを楽曲の中に組み込んだり、ホントの意味でフュージョナイズ、クロスオーヴァーさせたりしている音楽家にとっては、彼らの影響力はすごく大きいと思いますね。
ポップ・ミュージックとか、テクノの線で考えると、みんなあえて彼らのことを避けてたんじゃないかと思うんですよ。ワープっていうレーベルは、そもそも〈私たちは凡百のテクノ・レーベルとは違うんだ〉ってところからスタートしてるから、誰も寄り付かせないし、寄りついてもらいたくないと思って作品を作ってきた。それは昔からそうですよね」

――確かに。
「ただ、私の周りで弦をやってる人間や、劇伴作家には彼らのファンがものすごく多いです。弦(のアレンジ)を書いてる人で言うと、徳澤青弦や室屋(光一郎)くん、劇伴作家で言うと、〈物語シリーズ〉の羽岡(佳)さん、アニソン周りだと井内舞子さんもそう。特にコンテンポラリーな弦を書いてる人たちは100%好きですね。だから、去年(トム・ジェンキンソンが作曲し、オルガン奏者のジェイムズ・マクヴィニーが演奏した)『All Night Chroma』が出て、みんな沸き立ってましたもん。
もっと言えば、トムさんの音楽にはもともとコンテンポラリー度数が高いものがいっぱいありますからね。リチャードがSoundCloudに上げてる曲も、iTunesに入れたら、全部〈コンテンポラリー〉って出そうじゃないですか? だから、みなさんが普段聴いてるような歌ありの音楽シーンに、彼の音楽が浸透するようになるにはまだ20年くらいかかるんじゃないかな(笑)」

――きっといろんな音楽の背景にはなってるんでしょうけどね。
「僕がスクエアプッシャーを好きだっていうのも、意外に思われると思うんです。〈何でクラムボンのメンバーがトムさんやリチャードみたいなワープの人ばっかりフェイヴァリットに挙げるのか?〉って。その理由として言えるのは、〈まったく違う音楽をやってるから〉ということと、なおかつ〈求道的にやってるから〉。
寄り付こうなんてことはおこがましくも思わないし、それをやりたいとも思わない。その違いはデカいと思う。
僕らは自分たちのスタイルを自分たちで確立してる……って言うと偉そうですけど、でも私たちみたいな人は他にいないですよ。そういう人たちをリスペクトしてるんです」
――音楽の内容そのものよりも、向き合い方や精神性の部分の方が大きいと。
「そうだし、それがちゃんと音に出てる人をフェイヴァリットに挙げてるっていう、ただそれだけ。だから、〈意外です〉と言われても全然違和感はなくて、〈そりゃ意外でしょうね〉としか言いようがない(笑)。
求道家としてのスタンスを持っていて、音楽を邪険に扱っていないというか、ちゃんとリスペクトが感じられる。その崇高さみたいなものをいつも忘れさせないでいてくれるのが、彼らの音楽なんだと思います」