COLUMN

ジェイムズ・マクヴィニー 『All Night Chroma』 気鋭のオルガン奏者がスクエアプッシャー書き下ろし曲を演奏

Photo by Donald Milne

スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンの作るオルガンの音世界~スリルと構築の新しいバランスへ

 スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンの新作『All Night Chroma』が、30周年を迎えた〈Warp Records〉からリリースされる。と言っても、爆発的なビート・プログラミングやベース演奏はそこにはない。オルガン用に8つの楽曲を書き下ろした作品集で、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールにある、Harrison & Harrison社製の1954年型パイプオルガンを2016年に収録したもの。演奏するのは、礼拝の演奏がしばしば国際的にTV放映される英国ウェストミンスター寺院のアシスタントオルガニストを勤めた実力者ジェイムズ・マクヴィニー。現在はニコ・ミュリー、 ヴァルゲイル・シグルズソン、スフィアン・スティーヴンス、デヴィッド・ラングなど、 現在の作曲家とのコラボレーションを行なっていて、伝統的な下地と現代性を併せ持つ、稀有なバックグラウンドを持つ。

JAMES McVINNIE All Night Chroma Warp Records(2019)

 一般的にスクエアプッシャーとクラシック、と言えば『Ultravisitor』(2004年)のクラシック・ギターを模した演奏や、『Ufabulum』(2012年)収録曲のオーケストラによる再構築がすぐに思い浮かぶだろうが、一つの楽器だけを選択し、その可能性を追求したという意味で、曲作りの本気度はさらに上がっている。オルガンの音色や倍音構成の選択に電子音楽との類似性を見出した彼は、オルガンのストップ(音栓)の使用に相当こだわり抜いたようだ。また、大きな伝統を背負っている楽器ではあれ、和声法や対位法など、伝統を演出するためのとってつけたようなクリシェを見せることもなく、強烈なビートの中で常にインパクトのあるフレーズを作ってきた彼ならではの、緊張感のある鋭角な細部と、全体を通して見たときの構成の感覚に優れている。十分に感覚的でありながら、長尺にわたって構築的である音楽というのは面白い。また、ビートがないが故に、ジェンキンソンの持っているスリルに満ちた音楽性が違う角度から味わえる。

 CD/LPともに世界限定1000枚でナンバリングもされるとのこと。手元においておき、良い音で聴き返したい作品。

タグ
関連アーティスト
TOWER DOORS
pagetop