孤高の存在が2004年に打ち立てた問答無用のタイムレスな金字塔……揺るぎない傑作『Ultravisitor』に20周年記念盤がリリース!

 04年の音楽アルバムといって、当時のトレンドや社会状況、モードやムードを投影して時代性と強烈に結び付いて記憶される作品もあれば、時代性とは切り離された部分でこそ楽しまれてきたものもある。当時のワープは、!!!やマキシモ・パークらと契約して現在の総合レーベル的な方向へ踏み出しつつあったものの、まだ名実ともにエレクトロニック・ミュージック専科のアンダーグラウンドなイメージが強かった頃。そんななかにあってオウテカやエイフェックス・ツインと並ぶ古株にして看板アクトだったのがスクエアプッシャーであった。逆に言うと、彼らの存在こそがワープというブランドの品位や価値を保ってきたわけで、リフレックスから初のアルバム『Feed Me Weird Things』を出した96年も、レーベル移籍して『Hard Normal Daddy』を放った97年も、現時点での最新作『Dostrotime』をリリースした2024年も、そして2004年も、期待通りにスクエアプッシャーはスクエアプッシャーであり続けている。

 その『Dostrotime』もまだ記憶に新しいスクエアプッシャーことトム・ジェンキンスは、いわゆるドリルンベース的な一辺倒なイメージにとどまらず、アルバムごとにさまざまな顔を見せてきた人だ。シーケンサーやサンプラーを用いたエレクトロニクス主体の作品もあれば、自身のベース・プレイを軸にしたジャズ/フュージョン的なライヴ感を下地にした作品もあり、そのこだわりが目に見えて明白な時もあれば本人の中での塩梅に終わっていたりもするから難しいのだが、恐らく長いこと彼の音楽を聴いてきたリスナーの間でも人気が高いのは、2004年3月にリリースされた通算7枚目のアルバム『Ultravisitor』ではないだろうか。起伏に富んだ彼のディスコグラフィーを俯瞰して見返してみても、混乱や迷いを表現した前作『Do You Know Squarepusher』(2002年)を経て90年代的な見え方から脱却することに成功し、現在にまで至る高い評価を決定づけた新しいフェイズがこの時期から始まったのは恐らく間違いないだろう。彼にしては珍しくみずからのポートレートをあしらったノーギミックなジャケも、そのサウンドにタイムレスでクラシックな名盤という風格を与えているように思う。そして、本人やレーベルもそう認めているかのように、このたび同作のリリース20周年を記念して〈20th Anniversary Edition〉がリリースされた。

SQUAREPUSHER 『Ultravisitor (20th Anniversary Edition)』 Warp/BEAT(2024)

 残念ながらメインのアートワークは顔ジャケではなく拡張高いフォントをあしらったものになっているが(リリース当時の初回限定盤を流用したジャケでもある)、その音の表情はいま聴いても確実に刺激的だ。いきなり昂揚させられるタイトル・トラックで幕を開け、人気の高い“Iambic 9 Poetry”や電子音が暴れる“Steinbolt”などがひしめく本作は、スタジオでの緻密なレコーディング作業とエナジーを封入したライヴ録音が巧みにブレンドされたもので、以降の彼は本作のバランスを基準点として自身の多様な表現をあちこちに発散するようになったと思える。そもそもこうした音作りを志向する人もさほど目立たない昨今だが、それゆえにスクエアプッシャーも本作も古びることのないまま2024年を迎えることができたわけである。

 そんな孤高の存在感は今回の〈20th Anniversary Edition〉でも際立っていて、本人監修のもとでラウド・マスタリングのジェイソン・ミッチェルにオリジナル・テープからのリマスターを依頼。その効力の程は、高音質のUHQCD仕様になった日本盤で体感していただきたい。さらにボーナス・ディスクには、日本での初回限定盤に収録されていた“Square Window”をはじめ、当時のプロモCDなどで世に出た『Venus No. 17 Maximised』、EP『Venus No. 17』の音源を計8曲収録。こちらも2024年に鳴らせばいよいよ独特な響きでしかない楽曲集だと言えるだろう。

スクエアプッシャーの作品を一部紹介。
左から、96年作『Feed Me Weird Things』(Rephlex/Warp)、98年作『Music Is Rotted One Note』、2002年作『Do You Know Squarepusher』、2024年作『Dostrotime』(すべてWarp)