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生きることは音楽そのもの

――この記念館には、カシオの様々な製品が5つのジャンルごとに分かれて展示されていました。電子楽器が並ぶ〈音の部屋〉では、初代カシオトーンと最新モデルのカシオトーンを弾き比べていらっしゃいましたね。

※〈発明の部屋〉〈数の部屋〉〈創造の部屋〉〈時の部屋〉〈音の部屋〉の5つ。詳細はこちら

「システム的な進化はあるけど、根本的なコンセプトは変わってないんですよね。それだけ当時の音が画期的だったのだろうなと思います。今またヴィンテージの古いシンセを掘っている子たちもいますけど、そういう層にもウケそうですよね。個人的にはフルートの音とか、ちょっとMellotronっぽくて気に入りました。もうちょっとヴィブラートを調整したり、エフェクトをかけたりしたら、かなり近い音になるんじゃないかな」

〈音の部屋〉
 
カシオのシンセを試弾する高橋
 

――最近はヴィンテージのアナログ・シンセをモデリングしたソフトシンセがたくさん発売されていますよね。

「ほんとに何でもありますよね。サウンドもかなり忠実に再現されるようになってきたけど、それでもやはり本物とは違う。空気に触れる音というのかな。一度もスピーカーで鳴らされず、コンピューターの中だけで完結されたサウンド。音楽を聴くときもそうですよね。最近はヘッドホンやイヤホンで聴くのが主流だけど、僕は世代的にスピーカーで鳴らして空気の振動と一緒に楽しんできた。そのほうがワクワクするんですよね」

――何が違うんでしょうね。

「おそらく倍音なんじゃないかな。人間は、耳では感知できない倍音を体で感じているのだと思います。コンピューターの中だけで作っていると、その倍音がどこかで削れているような気がする。それを考えると、いくらデジタルが発達しようがアナログ楽器は残り続けると思いますね」

――カシオトーンはスピーカーが内蔵されているから、僕が宅録をやっていた頃はそこにマイクを立てて空気感を一緒に録ったりしていました。

「そうそう。そういうアナログな手法を敢えて取り入れることは大切ですよ。今はコンピューターでループ・ミュージックなんていくらでも作れるけど、当時はブライアン・イーノが60年代にやっていたことを敢えて真似していました。アナログテープの両端を接着して、5メートルくらいの輪を作ってそれを再生したり。繰り返し再生してるとテープが劣化して、独特の歪みサウンドが生まれるんですよね。そういうのって、デジタルだとなかなか再現できない。THE BEATNIKSの1stアルバムの時は鈴木慶一とそんなことばっかりやってました(笑)」

高橋とカシオトーン
 

――時計が展示された〈時の部屋〉では、G-SHOCKも熱心にご覧になっていました。

「G-SHOCKが登場した時の強烈なインパクトは未だに覚えています。いろんなアパレル・ブランドがコラボしているから、時々〈あ、これ可愛い!〉と思うモデルもあって。iPhoneやApple Watchとはまた違うファッショナブルな魅力があると思いますね」

――もともとは計算機のメーカーだったカシオが、時計や楽器を作ったこともユニークだなと思います。音楽は〈時間の芸術〉ともいわれますし、どこか通じる部分があるのでしょうか。

「音楽も時計も一定のリズムを刻むことによって成り立つともいえますよね。〈時を刻む〉のはある種、生きることのコンセプトだと思いますし、時は音楽そのもの、すなわち生きることは音楽そのものといえます。時間、空間、そして音楽は、別次元の存在ではなくて、ほぼ同じところに位置して全てが絡み合っている気がします」