天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。収束の兆しがまったく見えない新型コロナウイルス感染症の拡大……。日本ではタレントの岡江久美子さんが新型コロナによる肺炎で亡くなり、大きな話題になっています」
田中亮太「ご冥福をお祈りします。海外では米ブロンクスのラッパー、フレッド・ザ・ゴッドサン(Fred The Godson)がCOVID-19により35歳の若さで亡くなるなど、本当に軽視できないウイルスだと痛感します。入院していたマリアンヌ・フェイスフルが退院したというのは、一安心でしたね」
天野「そんななかで注目されたのが、WHOと国際支援団体〈Global Citizen〉が共催した、配信チャリティー・ライブ〈One World: Together At Home〉でした。レディー・ガガがキュレーションをし、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダー、ローリング・ストーンズ、ビリー・アイリッシュ、テイラー・スウィフトら、超ビッグな音楽家たちが出演。ご覧になった方も多いのでは? 全出演者と楽曲については、〈uDiscoverMusic〉がまとめた便利な記事を参照してください。個人的には、なぜか日本ではあまり広がっていない医療従事者への感謝や支援を目的としていた点がよかったです」
田中「〈One World〉はアルバムとしてもリリースされましたね。また、4月22日は〈アース・デイ〉だったので、ケイシー・マスグレイヴスが“Oh, What A World 2.0 (Earth Day Edition)”を発表……と話題がもりだくさんの週でした。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」
1. The Rolling Stones “Living In A Ghost Town”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はローリング・ストーンズの“Living In A Ghost Town”! オリジナル・ソングとしては“Doom And Gloom”“One More Shot”(2012年)以来、なんと8年ぶりの新曲です」
田中「ニュー・アルバム用の曲だということで、新作が楽しみですね。いまのところの最新作『Blue & Lonesome』(2016年)はブルースのカヴァー・アルバムでしたけど、バンドの快調ぶりが伝わってくる力作でした。この新曲も、すっごく渋くてブルージー。だけど、勢いにあふれていますね」
天野「かっこいいですよね。しかもレゲエ/ダブを取り込んでいるので、キース・リチャーズがレゲエに傾倒していた70年代後半から80年代前半のストーンズを思い出しました。この曲、2分54秒過ぎは完全にダブですし」
田中「〈俺はゴースト/ゴースト・タウンに住んでいる〉という歌詞は、人影がまばらになった街を描写しているように感じますね。さらに〈俺たちはみんなロックダウンされている〉〈慈愛(charities)を懇願する/政治家たちは取引をしている〉といったラインは、まさにコロナ禍の状況? 〈私たちが眠るためのベッドなんてない〉という部分は、病院のベッドが足りていないことを示唆しているとしか思えません……」
天野「この曲についてミック・ジャガーは〈ロックダウンの前に、ストーンズはスタジオで新曲をレコーディングしていた。その中に、いま現在の状況に共鳴するような曲があったんだ〉と語っています。偶然、この曲の歌詞がいまの状況と重なったんだとのことで、すごい話ですね!」
2. The 1975 “If You’re Too Shy (Let Me Know)”
田中「2位はThe 1975のニュー・シングル“If You’re Too Shy (Let Me Know)”。5月22日(金)にリリースが延期になったアルバム『Notes On A Conditional Form』から、6曲目のシングルです」
天野「全曲ジャンルがちがう、と言ってもいい音楽性の幅広さを見せつけている彼ら。今回はセカンド・アルバム『I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It』(2016年)のサウンドを踏襲した、80sニューウェイヴ路線で、めちゃくちゃポップ! コーラスがかかったギターの音が心地いいです。INXSとかブルー・ナイルとかプリファブ・スプラウトとかティアーズ・フォー・フィアーズとかシンプル・マインズとかデュラン・デュランとか、あの時代の音ですよね。で、歌詞は、めちゃくちゃマッティこらしい内容」
田中「マシュー・ヒーリーが歌う最初のライン〈I see her online, all the time〉は、プレス・リリースで〈彼女はいつもオンライン状態になっている〉と訳されていました。でも、〈彼女がオンラインになっているのを、僕はずっと見ている〉かもしれませんね」
天野「ネトストじゃないですか(笑)! いや、でも、マッティの気持ちはわかるな~。〈戻らないと、スクリーン上のあの女の子に会わないと〉というリリックは、なんだか病的。そのプレス・リリースには〈ネットで知り合った男女のラヴ・ストーリーを、甘酸っぱくリアルに描く〉って書いてありますけど、もっと生々しい話だと思いました。Geniusではチャット・レディーやオンライン・ポルノについての曲では、と予想されていますし。そんな歌詞をこんなにさわやかなポップ・ナンバーに乗せて歌うなんて、なんともマッティらしい!」
3. James Blake “You’re Too Precious”
田中「3位はジェイムズ・ブレイクの“You’re Too Precious”です。2019年のアルバム『Assume Form』から1年3か月。意外と早く新曲が届けられました」
天野「ジェイムズ・ブレイクは、レディオヘッドやビリー・アイリッシュのカヴァーを披露したInstagram Liveでの在宅パフォーマンスも話題でしたね。この曲は、ピッチが上げられて細かくエディットされたヴォーカル、ハンド・クラップ、ピアノの音色、くぐもった響きのビートなどが印象的。ジェイムズ・ブレイクがちゃんと歌い始めるのは1分15秒過ぎから。後半はまたちがう音色のキックや打音が入ってきて、繊細な編集と電子音による表現はさすがです」
田中「ミニマルな反復が基調になっているんですけど、ミックスの妙や音色の細かな変化、編集で聴かせてしまうすごい曲。〈ゴーストリー〉という形容詞が合いますね。前作や“Don’t Miss It”(2019年)にがっつり参加していたマウント・キンビーのドミニク・メイカー(Dominic Maker)との共作曲、という点にも注目です」
4. Jónsi “Exhale”
天野「こちらも繊細な音響やエディットが素晴らしい一曲。ヨンシーの“Exhale”が4位です」
田中「彼については説明不要かもしれません。言わずと知れたアイスランドのポスト・ロック・バンド、シガー・ロスのフロントマンです。ソロの曲としては、なんと10年ぶり! コラボレーションや映画関連の作品はいくつかあったんですけど、ソロでは『Go』(2010年)以来の新曲なんですね」
天野「でも、期待を裏切らないすごい曲だと思います。ピアノの暗くて繊細な調べと、ささやくような歌から始まって、歪んだ電子音のレイヤーが重なったかと思えば、一気に静寂に包まれる。まるで潮の満ち引きのようです」
田中「ドラマティックですよね。どんどん盛り上がっていて、最終部ではビートやコーラスが重なり、荘厳かつ壮大な展開をしていく曲構造。聴き手を引き込む一曲です。共同プロデューサーは、チャーリー・XCXとの仕事でも知られるA.・G.・クック。アコースティックとエレクトロニックの幸福な出会いが生んだ、刺激的な作品でした」
5. Octavian feat. Take A Daytrip, Obongjayar & Santi “Poison”
田中「今週最後の一曲は英サウス・ロンドン、キャンバーウェルのラッパーであるオクタヴィアンの“Poison”です。彼は何度か〈PSN〉に登場している常連。今回の新曲は、フィーチャーされている3人に注目してほしいですね」
天野「テイク・ア・デイトリップはデンゼル・バティスト(Denzel Baptiste)とデイヴィッド・ビラル(David Biral)からなるNYのDJ/プロデューサー。いちばん有名なのはシェック・ウェス(Sheck Wes)の“Mo Bamba”(2017年)で、リル・ナズ・X(Lil Nas X)の“Panini”(2019年)など、ヒット・ソングを多数手がけている売れっ子です。〈Daytrip took it to 10 (Hey)〉というプロデューサー・タグを聴いたことのある方も多いはず」
田中「オボンジャヤール(あるいは、オボンジェイアール)はナイジェリア出身の音楽家です。エヴリシング・イズ・レコーデッドやユセフ・デイズとの共演でも知られ、歌やラップ、ポエトリー・リーディングを織り交ぜたヴォーカル・スタイルが特徴。2月に発表したデビューEP『Which Way Is Forward?』は、かなり高い評価を受けています」
天野「あのEPは傑作ですよ! アフロビート、レゲエ/ダブ/ダンスホール、ヒップホップがミックスされていて、ものすごい音楽が展開されています。もう一人のサンティもナイジェリア人のシンガーで、売れ線のアフロポップ/アフロビーツとはちょっとちがう、内省的かつセンシュアルな表現の音楽家ですね」
田中「そんな4組が集ったこの曲は、アーバンなアフロビーツですね。オクタヴィアンはアンゴラ系なので、彼のアフロ性を打ち出した曲だと言えそうです。ナイジェリアに旅行に行ったというオクタヴィアンがルーツに思いを馳せ、この曲に結実したのでは、と思いました」
天野「クールだけどアツい一曲ですね。それにしても、世界はコロナ禍で大変なことになっていますが、素晴らしい音楽がどんどん発表されています。今週は話題のビッグ・シングルが多すぎて、選ぶのが大変でした。5曲だけでは一週間の話題をお伝えしきれません。トラヴィス・スコットとキッド・カディによるザ・スコッツ(THE SCOTTS)のデビュー曲、先週リリースされたプレイボーイ・カーティ“@ MEH”、ボン・イヴェール“PDLIF”、ミッシー・エリオット“Cool Off”、TDEのファン感謝週間として発表されたアブ・ソウルやリーズンの新曲、ジュース・ワールド没後の新曲“Righteous”、リル・ベイビー“All In”などなど……。すべて〈PSN〉のプレイリストに入れていますので、ぜひそちらでチェックを!」