このうえなくナイーヴでロマンティックでパーソナルな新作に描かれた愛の紋――時代の寵児としての騒がしい日々を経てなお、この男は個の輝きを発し続ける!

JBらしさとは何か?

 昨年1月に久しぶりのオリジナル新曲“If The Car Beside You Moves Ahead”を発表した際には〈初期の姿が戻ってきた〉と歓迎の声も上がっていたジェイムズ・ブレイク。切り口の鮮やかなヴォーカル・チョップとグリッチーな意匠で圧倒してくる同曲は確かに往年のJBらしさを想起させるものだったが、それからおよそ1年を置いて登場した通算4作目『Assume Form』は、従来通りのアルバムらしいアルバムとして、過去3作の流れを真っ当に汲むシンガー・ソングライター路線の仕上がりとなった。

JAMES BLAKE 『Assume Form』 Polydor/ユニバーサル(2019)

 毛色の違いもあってかアルバムに未収録(日本盤にはボーナス・トラックに収録)となった“If The Car Beside You Moves Ahead”が観測気球だったのか別口のファン・サーヴィスだったのかは知らないが、やはり現時点におけるJBの魅力というものが過激なサウンド表現よりも繊細なヴォーカルに見い出されているということは当人も周囲も認めているのかもしれない。実際のところ、ビヨンセやフランク・オーシャンと仕事した2016年あたりからUSアーバン作品でのクレジットを少しずつ増やしてきた印象ながら、ジェイ・Z“MaNyfaCedGod”やケンドリック・ラマー“Element”の共同プロデュースを担って以降のJBは、アブ・ソウル&アンダーソン・パークとの“Bloody Waters”にせよ、トラヴィス・スコット“Stop Trying To Be God”にせよ、独特の情感を纏ったヴォーカリストとしての出番が目立っていた印象だ(いずれも彼のプロデュース曲ではない)。

 革新的な音作りを見せた初期のイメージが強い層にとっては〈時代の音を生み出す天才トレンドセッターがメインストリームでも引っ張りだこ!〉とシンボリックに位置付けておきたいところだろうが、当然ながらそんな単純な話ではない。逆に言うと、緻密なエレクトロニクスをバックに歌うアーティストとしての存在価値やメジャーなフィールドにおける支持は拡大しながら定着しているということでもあって、新作『Assume Form』がこれまで以上にリリカルな歌唱表現に寄せた作品になるのも当然だろう。同時に、外部仕事では平板化されがちなJBサウンドの進歩的な個性も制限なく発揮されているわけで、実に濃密な〈らしさ〉が楽しめる一枚となっているのだ。

 

赤裸々な愛の告白

 前作『The Colour In Anything』(2016年)ではプロダクション面でリック・ルービンやジャスティン・ヴァーノンの助力も得ていたJBは、今回さらにいろんな角度から外部の血を導入している。ジェイ・Z仕事でも組んでいた盟友ドミニク・メイカー(マウント・キンビー)との共同プロデュースがアルバムの半分を占めているほか、“Mile High”と“Tell Them”には現行シーンのトップ・プロデューサーであるメトロ・ブーミンとドレ・ムーンらを招聘。もはや定番すぎるアトモスフェリックなトラップ・ソウルの意匠とJBならではのアンビエントな支配力をうまく融和させ、意味のある手合わせとしている。前者にトラヴィス・スコット、後者にモーゼズ・サムニーという縁のあるゲストを迎えているのも今作のキャッチーなポイントだろう。その他の客演がロザリア、アンドレ3000(アウトキャスト)という人選も過不足のない感じで、JB流儀の翳ったメランコリアに新鮮な彩りを添える演出に違いない。

 一方で、そうしたコマーシャルな賑やかさ以上に『Assume Form』を強く特徴づけるのは、あまりにも赤裸々に綴られた主役のリリックだろう。女優のジャメーラ・ジャミルと交際しているJBだが、多くの曲が〈You〉に語りかけるような体裁だったり、〈彼女〉への想いを自問自答する、不器用ながらもロマンティックな内容になっているのだ。マンハッタンズ曲のスウィートなループに恋の戸惑いを託したような“Can’t Believe The Way We Flow”や、サントラ愛好家にはお馴染みの「Love Birds: Una Strana Voglia D’Amare」(67年)のスコアからラウンジーな“La Contessa, Incontro”をうっとり敷き詰めた“I’ll Come Too”あたりは、サウンド面からも主役の心模様を補完する。

 それらすべてが現在の恋人からの影響を直接的に投影したものかどうかはさておき、ここにあるのは実にトラディショナルなシンガー・ソングライターらしさであり、緻密な意匠に包まれた伝統的な様式のラヴソングでもあるわけだ。メインストリームの養分となって消費され尽くすこともなく、個のアーティストとして独創的な道を行くJBの本質的な魅力は、間違いなくこの『Assume Form』に凝縮されている。

ジェイムズ・ブレイクのアルバム。

ジェイムズ・ブレイクが客演やプロデュースで参加した近作を一部紹介。

 

快作『Assume Form』の形成に寄与したアーティストと作品たち

TRAVIS SCOTT 『ASTROWORLD』 Cactus Jack/Grand Hustle/Epic/ソニー(2018)

『Assume Form』における目玉ゲストとして“Mile High”に登場した現行サウスの雄。それに先駆けたこのヒット作では“STOP TRYING TO BE GOD”にJBの繊細な歌唱を配していた。ここで数曲のプロダクションに関与したアレン・リッターも『Assume Form』に参加している。

 

MOUNT KIMBIE 『Love What Survives』 Warp/BEAT(2017)

10年代初頭からJBと共にポスト・ダブステップのうねりを作ってきたロンドンのデュオ。この現時点での最新作ではJBの共作/演奏した2曲も話題だった。片割れのドミニク・メイカーは『Assume Form』にて“Don’t Miss It”など半数の曲を共同プロデュースしてもいる。

 

OUTKAST 『ATLiens』 LaFace/Arista(1996)

前々作でRZAとコラボしていたJBが今回“Where’s The Catch?”に招いた大物はアンドレ3000。プロデュースを担ったヴィンス・ステイプルズ“War Ready”(2016年)でアウトキャストの本作表題曲からアンドレの声をループしてたし、自身の“200 Press”(2014年)も同趣向だったし、長年のアピールが実ったか?

 

METRO BOOMIN 『Not All Heroes Wear Capes』 Boominati/Republic(2018)

ミーゴスやフューチャーらとの膨大な仕事で名を馳せる現行シーンのトップ・クリエイターは今回“Mile High”と“Tell Them”をJBと共同プロデュース。全米No. 1を記録したこのソロ作にも関わっている敏腕ドレ・ムーンがそれら2曲でも共同制作を務めているのに注目を。

 

THE MANHATTANS 『It Feels So Good』 Columbia/Solid(1977)

JBが思い詰めた繊細な恋心を打ち明ける“Can't Believe The Way We Flow”で延々とループされているのは、この名門ヴォーカル・グループによる“It Feels So Good To Be Loved So Bad”の一節。彼らの優美なコーラスを味方につけたJBの歌い口もひときわ甘く響いてくる。

 

ROSALÍA 『El Mal Querer』 Sony Argentina(2018)

新作で唯一の女性ゲストとなったのはこちらのセカンド・アルバムが多方面から絶賛されているスペインのフォーク/フラメンコ歌手。起用した経緯も気になるが、そのロマンティックな“Barefoot In The Park”ではスペイン語の歌唱でウェットなJBの情念を照らしている。

 

MOSES SUMNEY 『Aromanticism』 Jagjaguwar(2017)

“Tell Them”で印象的な歌声を響かせるのは、シネマティック・オーケストラとの仕事も知られるカリフォルニアのシンガー・ソングライター。インディー系リスナーに大絶賛されたこの初作に収録の“Make Out In My Car”はシングル化の際にJBがリミックスしてもいる。

 

CONNAN MOCKASIN 『Jassbusters』 Mexican Summer(2018)

『The Colour In Anything』でも演奏していたニュージーランドのサイケな人気者。本作でひときわレイドバックしたニール・ヤング風の“Momo’s”ではJBが共作/歌唱して彼岸の陶酔を醸している。新作と直接の関係はないが、JB本来の繊細な歌心を思い出させる名演だ。